第九話 期待外れのAランクパーティ
おかしいな。
なぜか俺はガッカリしている。
こいつらは俺にとって強さの象徴で、怖くて、恐ろしい相手だった。
だから心のどこかでこいつらが相手なら、神竜の中で磨いた力を発揮できると思っていた。
――とんだ期待外れだ。
カリンはまた俺に接近し、攻撃を繰り返す。
「この! この! ふざけんな……アンタなんかに、あたしが負けるかぁ!!!」
次第にカリンの拳の皮がめくれ、血が滲んできた。
まるで幼児を相手にしているようだ。一切こっちにダメージはない。どんだけ殴られても、痛くない。
あんなにも、あんなにも痛かったのに……一撃殴られるだけでゲロを吐いていた、あの拳が……全然痛くない。彼女が拳を鳴らすだけで、小便ちびりそうになっていたのに、今はどれだけ彼女が拳を握りしめようがなにも思わない。
俺はハエを払うように手を振る。カリンはそれを頬に受けて、床を転がっていった。
「は? はあ??」
カリンは現実を受け止められていないようだが、関係ない。
もう終わらせよう。
「これまで全部、暴力で支配してきたんだ。だからお前も、暴力で支配されても文句は言えないよな?」
「あ、あうっ……!」
俺はカリンに追撃を加えようと近づく。
「た、助け、誰か!!」
カリンが助けを求める目でムゥを見る。すると、
ガチ!!
と体に、鎖が巻き付いたような感触が走り、動きを止められた。
(これは……拘束魔法のバインド!)
ムゥの方から魔力を感じる。
懐かしい感触だ。なにか反論するとこれで拘束されて、無抵抗なところをカリンにぶん殴られたっけ。
「調子に乗るなよトカゲ野郎!! ムゥ! そのまま減体魔法かけてそいつの耐久落として!」
「はいはい」
ムゥは杖を振り、青い光を俺に掛ける。これは減体魔法、対象のステータスを下げる魔法だ。体感的に耐久が50ぐらいは下げられたかな?
カリンは俺に殴りかかってくる。
俺は強引に、力づくでバインドを解除する。
「……っ!?」
ムゥは無理やり魔法を引っぺがされた反動で、鼻血を流し、その場に膝をついた。
「ムゥ!?」
俺は殴りかかってきたカリンの拳に俺の拳を合わせ、カリンの拳をひしゃげさせる。
「ぐぎゃ……!?」
人差し指から薬指、指が三本折れたな。
俺はそのままカリンの首を右手で掴み上げる。
「降参しろよ。俺の入団を認めろ」
「……ざっけんな……! このっ……!!」
「このまま首をへし折られたいのか? 先に言っとくが、俺はお前を殺すことに何の
半分嘘だ。さすがに殺す気はない。
リザードマンの強面が効いたのか、カリンは両目から涙を流し、口を動かす。
「まいり、ました。あなたの入団を、認め――ます……!」
「ライラちゃ――ライラさん。今の聞きましたよね?」
「は、はい! 今、この時をもって、ザクロさんの入団を正式に受理いたしました」
「ギルド法13条。正式に入団を受理したギルドメンバーを入団一か月以内に解雇してはならない。解雇する場合は相応の理由、もしくは本人の意思が必要である。つーわけで、これで一か月は俺を解雇するのは不可能ってことだ」
俺はカリンから手を放す。カリンは床にへたり込む。
「これからよろしくな。先輩」
俺は項垂れるカリンとムゥを一瞥して地上へ戻った。
なんか、情けなくなるな。今までこんな小娘たちにペコペコしていたのか。復讐した快感より、自分の全力を試せない歯がゆさが勝る。
なぁザイロス、お前なら俺の全力を引き出してくれるよな?