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第20話 武器品評会

 さて、四季森に旅立つ朝だ。
 約束通り、俺の家の前に3人集合したわけだが、全員、どこかソワソワしている。
 気持ちはわかる。この日のために作った渾身の武器品評会がこれから(おこな)われるのだから。特にフラムは憧れのヴィヴィに評価されるのだから気が気でないだろう。

「じゃあまずイロハ君、作った武器を見せてくれるかな」
「俺からかよ……」

 俺は鞘に収まったクリスタルエッジを2人に見せる。

「俺はライトメタルとストロングメタルを使って剣を錬成した。名前はクリスタルエッジ……軽くて強固な武器になってると思う」

 と前置きし、
 ヴィヴィに渡すと酷評されそうで怖いから、まずはフラムに渡す。

「うわぁ! ジブンでも振り回せるぐらい軽いですっ!」

 フラムは手の平にクリスタルエッジを乗せ、上下させた後、ヴィヴィにクリスタルエッジを手渡す。

「……いい出来だね」

 ヴィヴィは剣を鞘から引き抜く。

「武器の軽さはもちろん、刃の切れ味も見るからに悪くない。2つの特殊鉱石を組み合わせて刃を作るのは鉱物学の専門家でも難しいのに、よくここまで……」

 ヴィヴィが悔しそうに言うのだから、本当に良い出来なのだろう。
 もし武器の出来が悪かったら容赦なく罵詈雑言を浴びせるタイプだからな。

「それに……見た目の美麗さは目を張る」
「そりゃどうも」

 武器に見た目の綺麗さなんて必要ないけどな。
 これにプラスして虹の筆を持っていく。クリスタルエッジと虹の筆が俺の主な手持ちだ。

「つ、次! ジブン、良いですか!?」

 フラムが手を挙げる。最後に発表するのが嫌だったのだろう。ヴィヴィの次に発表するのは誰だってハードルが高い。

「ジブンが作ったのはこれです。フレイムサークルっ!」

 フラムが出したのは二振りの真っ赤な輪っかだ。
 なんかの資料で見たことがある。たしか名前は、

「チャクラムか。面白いね」

 そう、チャクラムだ。
 たしかあの金属の輪っかを投げて攻撃する投擲(とうてき)武器だったはず。インドで使われた武器だったかな。

「ブレイズメタルを使って錬成しました」
「でもお前が錬成したってことは、それも……」
「はい。爆弾です」

 俺とヴィヴィは二歩、フラムから距離を取る。

「待ってください! 今回は安全な爆弾ですから!」
「爆弾に安全もくそもあるか!」
「本当です! 思いっきりマナを込めて投げてぶつけると爆発するけど、マナを込めなければ普通のチャクラムとして使えるんです!」
「本当だろうな……」

 ヴィヴィが興味深そうにチャクラムを見る。

「ブレイズメタルはマナを吸収することで発熱する。これに君のマナ特性を組み合わせたわけか」

 フラムは嬉しそうに頷く。

「はいっ! ジブンのマナは錬成する物全部爆弾にしちゃうのですが、素材によって起爆条件は変わるんです。ブレイズメタルの場合だと起爆条件が『一定以上の温度』だったので色々と好都合でした」
「一定以上の温度ってのはどれくらいなんだ? まさか日光とかでチャクラムが熱くなっても起爆するんじゃないだろうな」
「かなり熱くならないと起爆しないです。それこそ火で炙るぐらいはしないと」

 つまり、マナを込める→ブレイズメタルの特性によりフレイムサークルが熱を帯びる→起爆条件を超える温度へ→爆発。というわけか。

「最後は私だね」

 ヴィヴィは背負っている長物を前に持ってくる。
 それは杖だ。基本は木で、杖の先に黄色の金属が埋め込まれている。……あの色はバッテリーメタルの色だ。

「バッテリーメタルを動力源に使った杖だ。名前は“ライトニングロッド”」
「そんで、なにができるんだ? その杖」
「見たまえ」

 ヴィヴィは薄く笑った後、杖を天に掲げた。

――数秒後。

 杖から天へ放たれた雷が上空で折り返し、小さな雷が目の前に落ちた。

「うわっ! 雷が落ちてきた!?」
「バッテリーメタルはマナを込めることで発電する。その雷を溜めて放ったまでだ。溜める時間が長いほど、雷の威力は上がる」

 さすがと言うべきか。1人だけ魔法の領域の武器を作りやがった。

「こうなると私とフラム君は後衛で、イロハ君は前衛ってことになるね」
「前衛1人か……正直自信ないな。剣術は爺さんに習っていたけど、魔物と戦ったことは当然ない」
「私も戦闘経験はほとんどない。もう1人ぐらい戦闘経験の豊富な駒……じゃなくて、仲間が欲しいところだね」

 駒って言ったな、いま駒って言ったなこの女。

「戦闘経験豊富な仲間ね……」

――そうだ、アイツなら……。

「1人あてが居る」
「アラン君かい?」
「ああ」

 どうやらヴィヴィも同じことを考えていたらしい。

「アイツの腕、軍事用なんだろ? つまり戦闘向きってわけだ。わざわざその義肢を選んでいるってことは、アイツは戦闘に長けたタイプなんじゃないかと思ってな」

 狩りが日課とか言ってたし、戦闘が苦手なタイプではないだろう。

「同意見だ。彼を誘うことに異論はない。フラム君はどうかな?」
「良いと思います!」
「決まりだな」

 俺は2人を連れて、昨日お邪魔したばかりの灰色の家を訪ねる。
 ドンドンドン、と遠慮なく扉をノックする。

「ふぁい?」

 ボサボサ髪のアランが扉を開けて出てくる。寝ぼけているのか、眼鏡もズレている。

「これからフラムとヴィヴィと一緒に森にピクニックに行くんだが、お前も一緒にどうだ?」
「どうせタダのピクニックじゃないんでしょ」

 寝ぼけながらもアランは鋭かった。
 俺は改めてアランに事情を説明する。

「……へぇ、コノハさんに会いに行くのか。あんまり良い噂を聞かない人だけどね」

 ヴィヴィと同じ反応だな。

「ずっと気になってたんだけど、イロハ君……ファミリーネームがシロガネってことは、コノハさんやアゲハさんの親族じゃないの?」
「俺はアゲハ=シロガネの養子だ。コノハって人と面識はない」
「そっか。うん、わかった」

 アランは考え込む素振りを見せる。

「いいよ。行こうか」
「感謝するよ。アラン君」

 ヴィヴィが言うと、アランは柔らかな笑顔を浮かべる。

「気にしないでいいよ。体を動かすのは嫌いじゃない。でもちょっと待ってね、準備が要る」
「もちろんだ」

 それからアランの支度を待って出発。
 俺、ヴィヴィ、フラム、アラン。4人で四季森へ向かう。

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