バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第28話 Vチューバーの価値は登録者の数で決まらない!

 ゲームセンター“GADGET(ガジェット) HOUSE(ハウス)”。

 昭和時代のモノかってぐらいレトロのモノから、最新の筐体(きょうたい)まで置いてある樫和駅のゲーセンだ。バイトの合間とかよく利用させてもらってる。
 レトロゲームは50円とか10円で遊べるため、安価で暇つぶしできるのだ。

 そんな店に、今日は女子を一人連れてきた。

「……また先輩は、私が困るような場所に連れてきて……」

 そう呟くのは真っ白なカーディガンを着た麗歌だ。

「綺鳴にチクった仕返しだよ」

 朝、コイツから依頼『天空ハクアのゲームレッスン!』の報酬を払いたいと電話がきた。まぁ前のラーメン屋の時と同じパターンだな。

 なんでも奢ると言われたのでゲーセンを奢ってもらうことにしたわけだ。
 またまたこんなたばこ臭い場所に不似合いな清楚な格好をしている。この清楚系な感じとアウトローな雰囲気のゲーセン……このミスマッチ感が良いな。

「ゲーセンは来た事あるのか?」

「クレーンゲームとプリクラは経験済みです」

「入門編はクリアしてるみたいだな。それならまずは……エアホッケーでもやるか?」

 そう言って俺はエアホッケー台を指さす。

「エアホッケーとは、たしかプラスチックの円盤を打ち合うゲームですよね?」

「そうそう。一人で来てる時はできないゲームだからな~」

 最後にやったのは半年前、妹とだ。
 実はこの俺、兎神昴は友達がいない。だからこういうゲームをやれる機会が中々ない。

「いいですよ。ルールはスマホで調べました。そこまで難しくないゲームですね」

 スマホをポケットにしまい、麗歌はエアホッケー台に硬貨を投入する。
 俺と麗歌はスマッシャーというテニスで言うところのラケットの役割を持つ器具を手に持ち、円盤を打ち合う。

「んっ! くっ!」

「ほれ」

 俺のバウンドショットが綺麗に決まり、ゴールに円盤が入る。

「俺の勝ちだな」

「……もう一回やりましょう」

「何度やっても同じ結果だと思うぞ」

 もう一回試合するも、俺の勝ち。

「ほら、もういいだろ?」

「もう一回です」

「え……」

「もう一回です……!」

 それから7試合、俺が負けるまでエアホッケーに付き合わされた。
 計9試合。さすがに俺も麗歌も肩で息している。

「こ、この……負けず嫌いが……」

「はぁ……はぁ……! うる、さいです……!」

 これは勝負系のゲームは避けた方がいいな。

「先輩、あのゲームはなんですか?」

 麗歌が目を向けたのはレースゲームだ。

「……凄いです。ハンドルがついてるなんて。アレは高校生でも乗っていいものなのでしょうか?」

「ああ、大丈夫だよ。ただのゲームだっつの」

「では、次はアレで勝負しましょう」

「……マジで?」

 俺もアレで遊んだことはないけど、別のレースゲームはやったことがある。さすがに今日はじめてあのタイプの筐体を見た奴には負けないだろう。

 ……はてさて、何戦目で負けるのが自然かな。


 ---  


 麗歌は負けず嫌いで、その上対戦系のゲームを好む。
 レースゲームを14戦した後はアーケードの格闘ゲームを7戦、小型バスケットゴールにひたすらボールを入れ続ける勝負もして、それも4回やらされた。

 他にも色々対戦ゲームをやったが、音ゲー関連は惨敗だったな。さすが元々Vチューバー志望だっただけある。リズム感が凄い。ダンスゲームも太鼓の音ゲーも一切歯が立たなかった。

「あ~、疲れた……」

「まったくです。先輩はしゃぎすぎですよ」

「はしゃぎすぎなのはお前だよ……」

 本人は無自覚だろうが、ゲームをやってる時、時折子供っぽい無邪気な笑顔をしていた。普段がクールだからああいう顔をされるとギャップで物凄く可愛く感じる。

「帰ろうぜ。もう夕方だ」

「そうですね」

 立ち上がり、UFOキャッチャーの筐体の間を通っている時だった。 

――俺は見つけてしまった。悪魔の箱を。

「アレは!?」

 筐体の1つに、俺は推しの姿を確認する。
 ぬいぐるみ――かるなちゃまのぬいぐるみが入ってる筐体がある!

 俺はその筐体に駆け寄り、ガラスに鼻をくっつけ、中を凝視する。

「かるなちゃまだ! それに1期生のイナヅチちゃんや4期生のあめんばちゃんもいるし、れっちゃん、ハクアたん、ヒセキ店長も居――」

 ガラスから顔を離し、ジト目で麗歌を見る。

「おい、6期生の中でぽよよんだけいないぞ」

「このコラボに選ばれたのは登録者数100万人以上のエグゼドライブメンバーだけです」

「登録者数がなんだオイ! Vチューバーの価値は登録者の数じゃねぇだろ!」

「そうは言ってもこれは外部企業とのコラボです。売り上げが見込めないメンバーを送るわけにはいきません。……それとも、大量に余るぽよよの姿が見たいですか?」

「ぐっ……!? それはそれで嫌だな……」

 シビアな世界だね、まったく。

 俺は財布を取り出し、硬貨を投入する。

「帰るのではなかったのですか?」

「せめて、かるなちゃまだけは確保したい……!」

「はぁ、仕方のない人ですね」

 クレーンを動かし、落とす。
 狙いはかるなちゃま一点……しかし、クレーンはかるなちゃまの頬を撫でるだけで何も掴まずに帰ってきた。

「くそ……諦めないぞ俺は!」

 それから10回ほど挑戦するが、取れたのはかるなちゃまの隣に居たエグゼドライブの公式マスコットのおたロボ(ピンクのハチマキを頭に巻き、両手にペンライトを持った三頭身の人型ロボット。知名度はあまりない)だけだった。

「下手くそですね」

 麗歌は腕まくりし、

「仕方ありません」

 麗歌は硬貨を投入してクレーンを操作。
 さっ、さっ、とレバーを動かし、ボタンを押す。俺が苦戦していたのが演技に見えるぐらい、呆気なくかるなちゃまのぬいぐるみを取った。

「どうぞ」

「……カッコいいなオイ」

 ぬいぐるみを受け取り、わーいわーいと胴上げする。

「次バイト代が入ったら四天王はコンプリートしたいな……」

「その時はご自身で取ってくださいよ。ほら帰りましょう。そろそろお姉ちゃんが心配します」

 もうすっかり夜になってしまった。
 と、このタイミングでスマホが鳴り出した。
 名前を見ると綺鳴からだ。麗歌に綺鳴の名前が映ったスマホを見せると、

「私と一緒に居ることは内密に、音量を絞ってスピーカーにしてください」

 要望が多いな。
 言われた通りにして、スマホを耳に当てて通話に出る。麗歌は俺の方に身を寄せてきた。麗歌の華奢な肩が俺の肩に触れる。

「もしもし、兎神だけど」

『あ、兎神さん。すみません突然』

「別にいいけどどうした?」

『麗歌ちゃんがどこにいるか知ってますか? 今日、昼頃に出て行ったっきり帰ってこないんですよね~』

「……知らないな。麗歌には電話しなかったのか?」

『電源が入ってないみたいで……』

 麗歌が慌ててスマホを取り出す。スマホはどこを押しても光が灯らなかった。……電池切れか。
 麗歌はモバイルバッテリーを鞄から取り出し、接続させる。この通話が切れたらすぐさま綺鳴に連絡するつもりだろう。

『麗歌ちゃん、カレンダーに予定を書き込む癖があるので、さっき麗歌ちゃんの部屋にあるカレンダーを見てみたのですが』

 麗歌の肩がピクッと揺れた。

『今日の日付のところに(ほし)マークが書いてあったんですよね。他の日付には赤字とかで淡々と予定が書いてあるのですが、今日のところは☆マークだけで予定の内容が書いてないんですよ。なにか特別な日ではあると思うのですが』

「へぇ~、今日の日付に☆マークがねぇ~」

 麗歌をチラッと見ると、麗歌は顔をそらしていた。表情は見えないけど耳は真っ赤になってる。

『ももももしかして、彼氏とデートとかですかね!?』

「かもしれないな」

『むぅ……! 麗歌ちゃんはどこぞの馬の骨には渡しませんよ!!』

 この姉妹って相思相愛だよな、としみじみ思う。

『……麗歌ちゃんのことなので心配はいらないと思うのですが、あと1時間しても帰ってこないようならお父さんに相談します』

「そうだな、それがいい」

 どうせ通話が終わったら麗歌が電話をかける。猶予1時間もあれば十分過ぎる。

『すみません。お時間頂いて』

「気にしなくていいよ」

『……後ろが騒がしいですけど、兎神さんはどこにいるんですか?』

「家族でカラオケにいる」

『うわっ! それはそれは家族団欒(だんらん)を邪魔してすみません。失礼します』

 ぷつっ、と通話が切れる。
 麗歌の方を見る。麗歌はすでにクールフェイスに戻っていた。

「……勘違いしないでくださいね。私は取るに足りない用事のある日には☆マークを付けるのです」

「はいはい、そういうことにしといてやるよ」

 俺はさっき取ったおたロボを麗歌の頭の上に乗せる。

「……これは」

「かるなちゃまのぬいぐるみと交換な。早くここ出て、綺鳴に電話しようぜ」

 麗歌はぬいぐるみで顔を隠して、

「そうですね。行きましょう」

 麗歌はそれから暫く、俺に顔を見せようとしなかった。
 でもなんとなく、表情を見ずとも喜んでいるのはわかった。

 そんなにおたロボのぬいぐるみが欲しかったのか……。
 俺はまったくこのマスコットを可愛いと思わないんだけどな。

しおり