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第6話 推しとの学園生活

「そろそろ出ないと遅刻するぞ……」

 朝影姉妹を門の前で待つ。
 まずいな、これ以上時間が経つと遅刻してアオに怒られる。

「お待たせしました」

 家の方を振り向くと制服を身にまとった朝影姉妹がいた。
 綺鳴の制服姿……幼い顔つきだから、中学生が背伸びして高校生の制服を着ているような可愛げがあるな。
 しかし問題は表情だ。めちゃくちゃ暗い。どよーん、という効果音が聞こえそうだ。

「大丈夫か綺鳴?」

「ほわぁ~……」

「た、大変だ麗歌! 綺鳴の口から魂が!?」

「朝寝て夜起きるの生活を続けるからそうなるんだよ。仕方ありません。私がおんぶしていくので、先輩はバッグを持ってください」

「逆の方がいいんじゃないか?」

 重たい方を俺が持った方がいいのでは? という意味で聞いたのだが、なぜか麗歌の目が冷たく凍る。

「……お姉ちゃんのおっぱい狙いですか?」

 おんぶをすれば綺鳴の豊かな胸は確実に俺の背中に接地するが、

「なわけあるか!」

 おとなしくバッグを持つことにした。


 --- 


 校門前。
 風紀委員がなにやら大量に居る。

「あれ? 今日は持ち物検査はないって言ってたのにな」

「持ち物検査ではなく、制服チェックですね」

 ホントだ。明らかにスカートの短い女子生徒とか、ピアスしてる男子生徒とかが呼び止められている。

「あ! 兎神君! 遅いよギリギリじゃない!」

 しまった、アオに見つかった。

「間に合ったからいいだろ」

「もう~。ってあれ? 麗歌ちゃんと……」

 アオは麗歌が背負っている小動物を見て、

「……綺鳴ちゃん?」

 アオの声を聞いて、綺鳴の魂が口から戻った。

「アオちゃん!」

 綺鳴は麗歌の背中から飛び降りて、勢いよくアオに抱き着いた。

「嘘~! やっと来てくれたんだね! 待ってたよ~!」

「いやぁ、来るつもりはなかったんだけど、兎神さんと麗歌ちゃんが無理やりね」

 なんだろう、アオと会った瞬間、どこかかるなちゃまに似た口調と表情になったな。

「驚いた。アオとお前ら知り合いだったのか」

「私は昴先輩とアオ先輩が知り合いだったことに驚きました」

 アオは「よしよし」と綺鳴の頭を存分に撫でる。

「ていうか、どうして兎神君が2人と一緒に居るの? この前の屋上で話したことと関係があるのかな?」

「まぁな。色々あったんだよ」

「色々、ね。私には言えないこと?」

「あー、説明が面倒だな。話してたら遅刻しちまう」

「もうっ、いつもすぐにめんどくさがるんだから! 兎神君、綺鳴ちゃんと同じクラスなんだから、ちゃんと面倒見るんだよ」

「え? 俺と綺鳴、同じクラスなのか?」

 あ、そういえば俺の後ろの席がずっと空席だったな。あそこが綺鳴の席だったのか!

「では、私は一年の教室へ行くので」

 アオは業務に戻り、麗歌は自分のクラスに向かった。
 俺と綺鳴は2人になる。

「兎神さん……あの」

「どうした?」

「私って、何組でしたっけ?」

「……俺と同じだから3組だな。行くぞ」

 まず俺が歩き出す。すると綺鳴も、

「はい!」

 俺の影に隠れるようにして歩き出した。


---


 2年3組の教室に入る。すでに担任の小荒井先生が教壇に立っていた。

 小荒井先生は綺鳴を見つけると、

「あれ? 綺鳴さん……? やっと学校に来たのね!」

 小荒井里香先生。教師としては若い、25歳の新任の先生だ。
 高校時代女子バレーで全国に行った経験がある体育会系で、生徒思いの先生ではあるのだが、少しデリカシーのないところがあるんだよなぁ。

「体調は大丈夫? 気分が悪くなったらすぐに言ってね」

「え、あ、は……」

「それにしてもなんで今日は来る気になったの? あ! ひょっとして先生のメール見てくれたのかな?」

 先生が構うものだから綺鳴にみんなの視線が集まってしまう。
 こんなレアキャラみたいな反応されるといたたまれないよな。綺鳴じゃなくても委縮する。

「先生、もうホームルームの時間ですよ。始めなくていいんですか」

 無理やり口を挟んで会話を中断させる。

「あ、うん。そうね、そろそろ始めるわ」

「綺鳴、お前の席は窓際の一番後ろだ」

「りょ、了解です!」

 綺鳴はクラスメイトの視線から逃れるように、そそくさと自分の席に座った。

「……アレがずっと不登校だった綺鳴さんか。すっごい可愛い」
「……ね~、兎さんみたい」
「……なぁ、あの胸」
「……すげぇな」

 残念ながら一番後ろの席まで下がっても好奇の視線からは逃げられなかったようだ。
 仕方ない。
 俺は綺鳴の前の席に座り、足を上げて机の上に乗せる。

 そのまま思いっきり睨みを利かせ、『なに見てんだコラ』の表情をする。すると視線は一斉に前を向いた。

(あーあ。これで余計に不良扱いされるわ……)

 誤解のないよう言っておきたいが、いつもは普通に座って普通の目つきで授業を受けてます。
 全員が綺鳴から視線を外したところで足を下ろし、姿勢を正すと、背中をツンツンと細い指で突かれた。


「……ありがとうございます」


 ボソッと、消え入りそうな声が後ろから聞こえた。
 意識していたかわからないが、その声はかるなちゃまの声に寄せてあった。だからかるなちゃまに言われた気がして、めちゃくちゃうれしかった。

 ……推しが後ろの席に居る生活、いいね。厳密には推しの中の人だけど。

 
 --- 


 昼休み。
 俺は1人で屋上へと来た。

「よう。約束通り来たぜ」

「はい。お待ちしてました。昴先輩」

 正直、俺は朝影麗歌が苦手だ。
 なにを考えているかわからないし、強引なところがある。表情豊かで内気な綺鳴とクールフェイスでグイグイ来る麗歌は姉妹でありながらあまり似てないな、と思う。声質だけは似ているが。

「それで、秘密の話ってのはなんだ?」

「話の前に、ひとつ、予言しましょうか」

「予言?」

 麗歌は指を三本立て、


「あなたは私の話を聞いて、3回は驚くでしょう」

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