第23話 突然の野次馬
誠が自分を支援してくれている西のいる野戦管制所に目をやると、そこには誠の心を揺さぶるような光景が見えた。
そこでは三人の司法局実働部隊の制服を着た女性が西と話をしているところだった。すぐにその三人が誠の所属する第二小隊の小隊長、カウラ・ベルガー大尉、二番機担当西園寺かなめ大尉、そして運用艦『ふさ』の艦長であるアメリア・クラウゼ中佐だと分かった。
『西園寺さん?カウラさん?それにアメリアさん?なんでここに居るんですか!今、神前さんは大切な実験の最中ですよ!邪魔しないでください!』
誠のヘルメットの中のスピーカーから西の三人への抗議の声が聞こえてくる。だが、三人はそれを気にすることなく、誠の乗る05式乙型を見上げると楽しそうに笑っているのが誠からも見えた。
『邪魔なんてしてねえだろうが!こんなことで実験が失敗するようなら最初からこんな兵器は無用の長物だったってことだ。よう!神前!元気にしとるか!』
かなめはそう言うと笑顔で誠の機体に向って手を振っていた。誠はわがままなかなめらしいと思いながら法術ゲージをマックスに保つ為の神経集中に悪戦苦闘していた。
『西園寺さん!マイクを返してくださいよ!それに駄目ですよ!今大事なところなんですから!エネルギ充填マックス、法術値も通常の人間の限界値まで上がってる状態なんですから!法術値の方は神前曹長ならなんとかできるでしょうが、充填されたエネルギーが暴発したら大事故になりますよ!嵯峨隊長の実験の時はそれで05式広域鎮圧砲の砲身が吹き飛んだんですから』
西が言うことに誠は驚いた。この実験にはすでにあの『駄目人間』である嵯峨惟基特務大佐も参加している。そして、その時は失敗に終わっている。かなめの茶々よりも西の告げた過去の実験失敗の方が誠の心を乱した。
そんな西の制止を無視して機体通信用のモニターが開かれた。そこに飛び込んできたのは西園寺かなめ大尉のタレ目だった。
『馬鹿だねえ西の餓鬼は。この位の邪魔で撃てなくなるなら意味ねえじゃねえか。なあ、神前、オメエもそう思うだろ?』
そう言ってかなめはいつものようにまなじりを下げる。そこに割って入ったのはアメリア・クラウゼ中佐だった。運航部部長としてそれなりに責任のあるアメリアだが、とりあえず面白ければそれで良いと言うモットーで生きているアメリアにそんな理屈は通用しなかった。
『ねえ、あの小さい姐御に苛められなかった?この実験、さっきの西君の話だと隊長も失敗したみたいじゃないの。止めるんだったら今のうちよ。止めちゃいなさいよ、こんな実験』
心配しているんだかそれとも実験を失敗に終わらせたいのかよくわからないアメリアの言葉に誠の口元に自然と笑みが浮かんでいた。
「クバルカ中佐は僕に自分の機体に搭乗するように指示を出しただけですよ。クバルカ中佐は今頃はたぶん本部のコントロールルームですよ。この状況、たぶんコントロールルームで皆さんが何をしているのかを全部見てますから。後で何言われても知りませんよ!」
誠はギリギリのところで法力チャージと上司達との会話を続けていた。以前の誠ならここで集中の糸が切れているところだが、その話題の人ランにまさに『ぶっ叩かれて』鍛えられた誠にとっては今の状況を維持するのはそれほど難しい話では無かった。
『神前の言う通りだ。邪魔するなと言ったじゃないか!クバルカ中佐から後でどんな説教を受けるか知れたものでは無いぞ。特に西園寺。貴様はあと一回減点対象になる行為を行えばまた中尉に降格されるはずだったな。そこのところをよく考えろ』
画面の端でエメラルドグリーンのポニーテールをなびかせてカウラ・ベルガー大尉がつぶやいた。そんな真面目な表情のカウラの隣ではさっきアメリアが言った『小さい姐御』と言う言葉がつぼに入ったのか、かなめがカウラの隣で腹を抱えて笑っている。
「あのー。ちょっと皆さん黙っていていただけますか?僕はちゃんと実験やりたいんで」
さすがの誠も次第に切れそうになる集中の糸の状況が気になってついそう言っていた。
『酷い!誠ちゃんには私の言葉は届かないのね!だから言ってるじゃない!こんな無茶な実験止めちゃえって!』
わざと泣き声を装うようにアメリアの声が響く。画面の端からアメリアの肩を叩いているのはカウラだろう。
「そう言う意味じゃないんですけど……」
誠がそう言ったとき、コントロールルームにある管制室の画面が05式の全周囲モニターに開いた。誠の目にひよこのカーリーヘアーが不意に飛び込んできたので、誠の集中の糸が切れるところだったが、誠は歯を食いしばって何とか耐えた。
『三人とも、遊ばないでください!とりあえず標的の準備はできました。最終安全装置の解除まで行ってください!発射指示はこちらで出します!』
ひよこが指示を出すことで正気を取り戻した誠は少しばかり引き気味に火器管制システムの設定に移った。