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第22話 『05式広域鎮圧砲』の試射

『神前曹長!安全装置解除の指示が出ました!』 

 誠の05式の足元の観測装置をいじっていた西の顔がモニターに広がる。誠は西の指示通り安全装置の解除の手順に入る。

 鼓動が高まる。自分に課せられたことの重要性は誠も十分認識していた。これだけの兵器を開発するのにどれだけの予算が割かれたのか、それはおそらく『特殊な部隊』の維持管理費用の比ではないだろう。誠は島田にいつも隊の予算不足を愚痴られているので思い描くことはまず予算の事だった。

「了解!第一安全装置解除。続いてエネルギー接続一段階、開始!」 

 いつもの訓練通り、西の指示を復唱し動作の確認をしながら次の段階へと進む。さらに鼓動が高鳴るのを感じながら、誠はいつものシミュレータの時のように思った通りに動く自分の手を感心しながら見つめていた。確実に長年東和陸軍の教導部隊長を務めてきたランに鍛え上げられた誠は、かつて東和宇宙軍で『落ちこぼれ』と呼ばれた数か月前の自分とは別人になっていることが自分でも分かった。

『これが昨日の投球でできたらなあ』 

 そんな雑念が頭をよぎる。考えてみれば試合途中で抜けてきたので、結果がどうなったのか知らない自分に気付いて思わず苦笑していた。

 別の事を考えていても、誠の視線はいつものシミュレータ訓練通りに法術ゲージに向っていた。

『エネルギー第二段階まで移行!続いて法力チャージに入ります!』 

 西の声で再び誠の意識が自分の意志とは関係なく訓練通りに動いていた体に引き戻された。誠の視界の中の法術ゲージが瞬時に半分近くまで上昇すると同時に、誠の体に一瞬脱力感のようなものが走った。モニターに表示されたエネルギーゲージは次第に上がっていく。それにつれて法力のゲージも急激に上がり始めた。

『エネルギー充填完了!法術レベル許容レベルまでの上昇確認!神前曹長、05式広域鎮圧砲の発動範囲指定お願いします!』 

 甲高い西の声が頭に響く。誠は管制システムを起動し、自分の意識とそれをリンクさせる。これまでのシミュレーションで指定した範囲と比べて圧倒的に広い範囲である。だが、誠もこれまで何もせずにいたわけではない。ランに言わせると『シュツルム・パンツァーパイロットとしては二流以下だが法術師としての能力は一流』な誠である。管制システムに模擬干渉空間を展開し、ほぼこの演習場一円をその範囲に指定する。

『それではその状態で待機してください!』 

 そんな西の言葉だが、この状態を維持するのは非常につらいものだった。模擬干渉空間の維持にはかなりの精神力が必要になる。少しでも法力の維持を怠ればはじめからやり直し。しかし、これを兵器として使用するためにはこの状態を維持しつつ、周囲に気をかけるくらいのことが出来なければ意味が無いことも誠は十分にわかっていた。

『今回は僕が頑張らなきゃ。いつもそばに西園寺さんやカウラさんが居て(かば)ってくれるとは限らないからな。それに単独での出撃もあり得るってクバルカ中佐が言ってた。僕の限界……見せてやるぞ』 

 そう思いながら静かに西のいる野戦管制室を見下ろした。その中では西が野戦用専用端末を操作しながら、『05式広域鎮圧砲』発動の時を待っている。

『僕は……一人じゃない。西君も居る、管制室にはひよこさんやクバルカ中佐も居る。みんなの期待に応えなきゃ』

 いつもは後ろ向きなことばかり考えている誠が珍しく前向きに今の自分の現状を捉えていた。

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