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第18話 背広組と制服組

「クバルカ中佐。それにしてもなんだか難しい顔をしていますね。今回の実験、それほど難しいものなのですか?まあ事務屋の私が聞いても分からないことだらけでしょうが」 

 ランは立ち止まって自分の思考にのめり込んで起した間違いに照れながら高梨のところに戻った。そのまま高梨はさわやかな笑顔を浮かべながら教導部隊部隊長の執務室のドアを開いた。

 ランは中をのぞくとそこには主を失って久しい教導部隊の部隊長の巨大な机があった。

「久しぶりだな……司法局実働部隊設立準備室の時から数えるともう三年も兼務してんだもんな『特殊な部隊』とここを。まあ今ではこっちはほとんど片手間みたいなもんになっちまったがな。東和陸軍のやる気のあるパイロットを育てるよりもあの『特殊な部隊』の馬鹿のしつけをする方がよっぽど難しい。それに隊長があの『駄目人間』……世話がかかる部隊だ」 

 ランはそう言うと高梨に接客用のソファーを勧めた。

 ランは高梨がソファーに腰掛けるのを確認すると自分もまたその正面に座った。この半年で閑職だったはずの実働部隊機動部隊長の職が一気に忙しくなったことで彼女が兼務である教導部隊の部隊長を外れることが決まっていた。

「高梨参事がお見えになるってことは人事の話か?アタシもまー……おおよそでしか知らないんだけどな。やっぱり菰田じゃ心もとない……そんなとこですかね」

 そう言うとランは胸の前に腕を組んだ。教導隊と言うものが人事に介入することはどこの軍隊でも珍しいことでは無い。しかもランは海千山千の嵯峨に東和軍幹部連との丁々発止のやり方を仕込まれた口である。見た目は幼くしゃべり方もぞんざいな小学生のようなランも、その根回しや決断力で東和軍本部でも一目置かれる存在になっていた。

「要するに上は首輪をつけたいんだよ、あのおっさんに。それには一番効果的なのは金の流れを押さえることだ。となると兵隊上がりよりは官僚がその位置にいたほうが都合が良―んだろ……って茶でも飲みてーところだな」 

 そう言うとランは手持ちの携帯端末の画像を開く。

「すまんが日本茶を持ってきてくれ……湯飲みは二つで」 

 ランは画面の妙齢の秘書官にそう言うと二人の男に向き直る。その幼く見える面差しのまま眉をひそめて高梨を見つめた。

「まあ予算規模としては甲武とゲルパルトが同盟軍事機構設立の準備予算を削ってでも実働部隊と法術特捜に回せとうるさいですからね。どっちも国内に爆弾を抱えてるから司法局実働部隊の出動を要請する可能性が高い……貴族主義者とネオナチですか。油断をして、その連中に大きな顔をされたところを地球圏に足下を掬われたくないのが本音でしょう。宇宙の元地球人達は地球圏からの介入を我々遼州人より恐れている。皮肉なものですね、元は同じ地球人だと言うのに侵略された我々が彼等の心配をしなければならないとは」 

 そう言いながら高梨は頭を掻いた。それと合わせるようにして自動ドアが開いて長身の女性が茶を運んで来た。

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