舞踏会2
「も、申し訳ありません、王子殿下!わたくしはダンスが踊れないのです!」
レティシアが慌てて断ると、マティアスは満面の笑みで答えた。
「そうか!レティシアはダンスが踊れないのか。それならちょうどいい、ぜひ踊ってくれ」
会話がまったく噛み合わない事にレティシアがぼう然としていると、ヴィヴィアンが耳元でつげた。
「マティアスはダンスが苦手なの。もし足を踏まれたら、全力で踏み返してあげてください」
ヴィヴィアンに背中を押されてレティシアはマティアスの手を取った。
心得たように楽団が音楽を奏で始める。心浮き立つワルツだ。
ヴィヴィアンに酷評されていたマティアスはスマートにレティシアをリードして踊った。マティアスは満面の笑顔で言った。
「何だ、レティシア。踊れるじゃないか」
「いえ、王子殿下がリードしてくださるからです」
「うむ。俺は王子だからダンスもできなければと、ダンスの講師を雇ったのだ。とっても怖いおばさんだった。俺が講師の足を百回踏んだら怒って辞めてしまった。それからはヴィヴィがダンスの先生になった。俺がヴィヴィの足を踏むたびに、その場でスクワット百回やらされたなぁ」
「・・・。そうなんですね」
マティアスは視線を上に向け、昔を思い出すような表情になった。
レティシアがふととなりを見ると、ヴィヴィアンとルイスがダンスを踊っていた。ルイスはヴィヴィアンよりも身長が低いので、ヴィヴィアンは男性パート、ルイスは女性パートを踊っている。
ルイスは楽しいのかキャッキャッと笑い声をあげていた。
一曲が終わると、マティアスがレティシアに疲れていないかを聞いてきた。
レティシアが疲れていない時答えると、二曲目が始まった。これもワルツの曲だった。
未来の夢でもレティシアはマティアスとダンスを踊った。その時もワルツばかりだった。その時レティシアは、自分が慣れていないのマティアスがおもんばかってワルツばかりを踊ってくれたのかと思ったが、本当はマティアスがワルツしか踊れなかったのだ。
次の曲ではリカオンとヴィヴィアンが踊っていた。リカオンもヴィヴィアンも見事な赤髪の美しい男女なので、まるで観劇を観ているようだった。
「レティシア、よそ見をするな。そなたのダンスの相手はこの俺だ」
「はい。王子殿下」
マティアスはふてくされたような顔になった。その顔が可愛らしくてレティシアは笑った。これでマティアスと会うのは最後だ。レティシアはマティアスの顔をジッと脳裏に焼きつけた。