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「ジェームズ、お前は? マーカスたちが参加できないのは残念だが二人でも楽しもう」

 マーカスとパトリックに振られ、ナイジェルはジェームズの肩を寄せた。

「二人が自分たちも参加すれば良かったと思うような、楽しい夜にしよう」
「すまない、ナイジェル、俺も今夜は早くに帰る。明日はメリッサと朝からドレスを見に行くと約束しているんだ」

 両掌を合わせてジェームズが謝った。

「なんだ。つまらないな。妻の顔色ばかりうかがうような情けない男になったものだ」

 皆に断られてナイジェルは拗ねて三人のことを詰る。

「ナイジェル、お前、ずっと別宅なのか? スティーヴン様がこの前俺に言っていたぞ。呼んでも本宅に寄り付かないって」

 パトリックがナイジェルの祖父の名を口にした。

「顔を出すように俺からも言ってほしいと頼まれた。用があるらしいぞ」
「それって、まさか…」

 ジェームズがナイジェルの祖父であるスティーヴンが言う用が何なのか、何か思いついたらしくナイジェルの方を見た。

 ナイジェルはまたもや何も言わず、ワインをひと口飲んだ。

「お祖父様の話など、結婚の話に決まっている。去年亡くなったお祖母様が、最後まで俺の花嫁を見たかったと言っていたと言って、やたらと干渉してくるようになった」
「それは…大変だな。お前のお祖父様は外務官も勤めた方だろ? 交渉はお手の物じゃないか」

「本当にそうなのか?」
「他にあの人が俺に用なんてないだろう。老いぼれを放置するのかとか、自分もいつどうなるのかわからないんだから、頻繁に顔を出せとか弱いところを攻めてくるんだ」
「うわ。それは本気だな」

三人が同情を込めた眼差しをナイジェルに向ける。
 
「主治医がまだまだ生きると言っていた。だから当分は逃げるつもりだ」
「なあ、賭けをしないか」

 パトリックが手を上げて従業員に紙とペンを持ってくるように言う。

「「「賭け?」」」

「そうだ。期間は一年。ナイジェルが勝つか、スティーヴン殿が勝つか」
「それは、ナイジェルが勝つということは、一年結婚から逃げ切る。反対にスティーヴン殿が勝つということは、ナイジェルが誰かと結婚する。ということか?」
「そうだ。ありがとう」

 紙とペンが運ばれてきて、パトリックが従業員にお礼を言ってから、そこにさらさらと今言ったことを書き出した。

「そんなの、俺が勝つに決まっている。賭けるだけ無駄だ」

 自分が賭けの対象にされて、ナイジェルは口を尖らせ文句を言った。

「じゃあ、俺はスティーヴン殿が勝つ方に賭ける。掛け金は…そうだな金貨五十枚」

 それを聞いて、ジェームズがひゅ~っと口笛を鳴らした。

「どうする?」

 パトリックが三人の顔を順番に見渡す。

「俺も金貨五十をスティーヴン殿に」

 マーカスがパトリックからペンを受け取り、自分の名前をその下に書いた。

「じゃあ、俺は同額をナイジェルに」

 ジェームズがパトリックの名前の横に名前を書く。

「それなら俺は俺か勝つ方に、倍の金貨百枚だ」

 ジェームズから奪うようにペンを取り、名前を書いた。

「お前たち、負けるとわかっている方に賭けるなんて、賭け事の才能がなさすぎだぞ」

 ナイジェルが哀れみの視線をパトリックとマーカスに向けた。

「失礼したします」

 その時、彼らに声をかけてきた人物がいた。このクラブのオーナーであるカーマメイン卿だった。
  

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