047:報せ
王都から離れる。成果がないままに。
「しょうがない。自力で水属性のスライムと光属性のスライムを手に入れますか」
手に入れる方法が思いつかないけど……
「はぁ」
トボトボと帰路につく。ホームである領都まで十五日の旅だ。早朝に出発して二時間ぐらいかな。日が完全に登りきった頃にスライム養殖場の町に到着した。ここで一泊してから再び出発することになる。特別やることもないので冒険者ギルドに顔を出してみた。ついでに何か依頼でもあればと思ったのだ。するとこの時間帯にしては珍しくガヤガヤとしていた。普通この時間帯は静かなはずなのにだ……
その元凶は室内を見回してすぐに分かった。埃と汗にまみれた冒険者がテーブルの上に立って叫んでいたのだ。
「聞いてくれ! 俺達は見たんだ! 地を埋め尽くさんばかりのゴブリン共の群れを! 大海嘯だ! 大海嘯が起きてる! もうすぐこの街は大量のゴブリンに飲み込まれるぞ!」
冒険者ギルド内がざわつくが、冷静な人の声で遮られた。
「大海嘯ってなぁ、ダンジョンがなきゃ起きねぇはずだ。この辺でダンジョンていったらバイデン伯爵様のところにある貧者のダンジョンぐらいしかないんだが?」
するとテーブルに立っている冒険者が首を左右に振った。
「分からない。方角が違うが……分からないんだ。ただもうすぐここに大量のゴブリン達が押し寄せてくることだけは分かる! 今すぐ街の門を閉ざして迎撃するなり、人を逃がすなりしないと間に合わなくなる! 信じてくれ! 俺達は見たんだ! 嘘じゃない!」
するとそこに冒険者ギルドの職員らしき人が前に進み出てきた。五十代後半ぐらいの人物だ。
「ここのギルド長をやっている者だ。おい。そこの。間違いない情報なんだな?」
「あぁ! 間違いない。こっちへ来るのは時間の問題だ!」
ギルド長が職員に指示を出した。
「門を閉ざすように町長に指示を出させろ。それから誰か確かめに行ってこい!」
室内は未だ半信半疑の様子だ。それでも少しづつ事態が動き出したようで、ギルド長が言う。
「今この時を持って、冒険者ギルド員に告ぐ。これより非常事態招集をおこなう」
全員がざわつく中で私が手を挙げる。
「下位ランクはどうするんですか?」
「相手はゴブリンだ。なので下位ランク共も一緒に防衛戦に参加しろ!」
私は足元にいるシエラを見る。
「あの、この子も冒険者なんですけど参加させるんですか?」
するとギルド長が眉を八の字にして言った。
「いや。さすがにその子は無理だろう」
「預かってもらえますか?」
「……いいだろう。預かろう」
すると普段はグズらないシエラが涙を溜めながら言った。
「イヤだ。リサ姉たんと一緒がいい!」
「シエラ! わがまま言わないの。非常時なの。分かって」
「やーだぁ!」
それでも嫌がるシエラを抱っこしてギルド長に渡す。
「シエラをお願いします!」
「あぁ。分かった」
それでもシエラがぐずる。
「やーだぁ。シエラも仲間だもん! 一緒に行くぅ!」
シエラの声に後ろ髪を引かれながらも、私は防衛戦に参加するべく他の冒険者たちに付いていく。
突如として始まった防衛戦。出入りできる門は全部で三箇所。私たちはその一つに陣取った。街の門が閉まるのを見ながら地平線の向こうへと目を凝らすが未だその兆候は見えない。
かに思われた。
でも違った。見えなかったのは方角が反対側の方からだったからだ。視線を騒音のする方へ向ければ、すでに戦闘は始まっていたようで怒声や悲鳴が聞こえる。
「ジン。バッツ!」
「おう!」
「行くぞ!」
二人に促されて私も走り出す。そして街の外壁を回って見た光景に驚いた。
「なんて数なの!」
それは地を蠢くほどの無数のゴブリンの群れ。多勢に無勢とかそんなレベルじゃない。バッツが叫ぶ。
「一人で百匹斬っても足りんかもな!」
ジンも同意する。
「でも殺らんわけにはいかんだろうさ。行くぞ!」
「おう! リサっち。無理はするなよ!」
バッツの言葉に私は眉をひそめる。
「ここは筋肉に無理をさせる場面よ!」
私たちは三人で駆け出し、そして正面にいたゴブリンに切り込んでいったのだった。