平和の不具合編 2
どういうことだ?
戦争に行く? この子たちはまだ子供だぞ?
こんな幼い子たちがなぜ戦争に行かなきゃいけないんだ?
それに……それは俺も行くのか?
ぜってぇ行きたくねぇから。
でもこの子たちが行くんだったら俺も行かなきゃいけなくなるような気もする。
俺だけ行かないって手もあるだろうけど、この子たちのことが心配っちゃ心配だし、なんとかみんなを説得してみんな揃ってこっちにとどまった方が……。
「うむ。ついにこの時が来たか。“緑”の魔力を持つヴァンパイア。その力を見させてもらうぞ」
頭の中がぐちゃぐちゃのままドルトム君に手を引っ張られ、俺は広場の中心に連れて行かれた。
その先には筋肉隆々、魔力ばりっばりのミノタウロス。すでに2つのグループ、計9体の魔族を戦闘不能になるまで疲労させておきながら、バーダー教官本人は息切れもなく、真新しい傷も見当たらない。
そんなバーダー教官の鋭い視線が集中し、俺は思わずたじろいてしまった。
「おはよーございます! 教官!」
「や……やっほー……教官……」
「あぁ。おはよう、悪ガキども」
でも、フライブ君たちはいつもの通りの様子。子供らしく元気な挨拶を教官に送っている。
「ふふふ! 今日はタカーシの初陣。教官様? 今日こそ一撃入れて見せますからご覚悟なさいませ!」
「おはようございます。そして後悔なさるがいい。我が集団にタカーシ様を入れてしまった教官殿の愚かな選択に!」
妖精コンビはというと……うん。まぁこんな感じだ。ヘルちゃんたちの挑発に、バーダー教官もげらげら笑いながら2人の頭を撫でているし、教官からすればこの程度の失言は可愛いもんなんだろうな。
とはいえ、そんなバーダー教官も俺に向ける視線は少し違ったものだ。
「ヴァンパイアといえども、お前のような子供が1人加わったところでどうにかなると思うなよ?」
う、うん。わかってるって。バーダー教官? わざわざそんな念押しするなってば。
ウサギが4匹から5匹になったところで、ライオンには勝てないんだって。
それぐらいは俺でも分かってるから。だからそんな鋭い目つきで俺を見るなよ。
怖すぎだろ。泣くぞ?
「今日は初めての訓練だからな。タカーシ? ヴァンパイアの本能に任せて、自由に動くがいい。でも、余裕があったら色々と考えてみるのもいいだろう。お前にはそれが出来そうだ。特殊な魔力の謎も分かるかも知れん」
と思ったらアドバイス的な言葉を送られた。
ふーん。この魔族、この鋭い目つきは生まれつきのもので、やっぱすっげぇ優しいのかも。
うんうん。この訓練場を選んで正解だったな。
「はい。がんばります!」
俺は笑顔で言葉を返す。
次にバーダー教官は俺の肩に手を置きながら、フライブ君たちに話しかけた。
「お前たちはタカーシに怪我させないように気をつけろ。お前たちの方が先輩なんだからな。タカーシの位置や動きをしっかりと把握してやるんだ。
そのうちタカーシもこの班に慣れてくるだろう。それまではお前たちがタカーシのことを気にかけてやれ」
「はーい!」
「もちろんですわ!」
「ぼ、僕がちゃんとえ……援護する……よ」
「くっくっく。ヴァンパイアの成長を間近で感じながら訓練の日々を送る。なんと感慨深いこと」
まぁ、今バーダー教官が口に出した注意事項はすでにさっき話し合ってるけどな。
ガルト君がよくわからん心境に陥っているようだけどそれはいいとして、1日でも早くみんなと同じラインに立てるように、せいぜい頑張らせてもらおうじゃないか。
「よし。それじゃあ始めるとするか」
挨拶がてらの世間話が終わり、バーダー教官の一言でフライブ君たちが広場に散った。
俺もその雰囲気を察知し、バーダー教官と距離をとる。
もちろん俺の隣にはドルトム君。接近戦を得意とする他の3人は俺たちより前に位置取り、ガルト君はすでにこちらを向くバーダー教官の背後に回っていた。
「かかってこい!」
腹の底のまで響くようなバーダー教官の叫び声とともに、各々が体から魔力を解放した。
以前見学した時と同じように、フライブ君が早速バーダー教官に襲いかかり、それとほぼ同時にヘルちゃんの防御魔法が全員を包む。
「……●△■▼○●。△■▼○……」
んで隣にいたドルトム君も炎系魔法の発動準備に取り掛かっている。俺には理解不能な呪文を呟き、毛むくじゃらな両手から火の源が発生していた。
そして、それらメンバーの動きを凌駕するような――いや、なんというかフライブ君たちの魔力を存在そのものとともに飲み込むような圧倒的な魔力なんだけど、もちろんそれも見逃せん。
「……ぐっ……」
俺が思わず苦しそうな声を出してしまうほど、強大な魔力。見学の時とは違い、ほんの数メートル近づいただけで、バーダー教官の魔力がこれほどのものになるとは。
いや、俺が実際に訓練に“参加”しているから、これほど恐ろしく感じるのか?
そこらへんはよくわからないけど、訓練という名目によってバーダー教官の“敵意”が俺に向いてきただけでこの迫力だ。
やべぇ。こんなん絶対敵うわけないじゃん。
「た……タカーシ君? タカーシ君もま、魔力出した方が……いいよ……じゃ、じゃないと……教官の魔力……に、に飲まれちゃう」
俺がたじろいでいるとドルトム君が話しかけてきたので、俺はその助言に従うことにする。
「ふん!」
ヴァンパイアたるこの体。その奥底深くに潜む“魔力”を全て解き放つように。
――なんて表現してみるとちょっと神秘的な響きになるけど、ぶっちゃけ今の俺は体中の筋肉に力を入れているだけだ。
両脚を肩幅程度に広げ、膝を曲げて少し重心を落とし、そして両肘も曲げて手はこぶしを握る。
そんな体勢で“ぐっ”って力を入れただけなんだけど、俺の体はこの程度の作業で魔力を発動できるんだ。
まぁ、この世界じゃ“魔力”って生物の体に元から備わっている機能だしな。
呼吸をするように――または瞬きをするように、ごく簡単に発動できる力だ。
フライブ君たちと山を駆け回った時とか、アルメさんのわがままを物理的に抑え込もうとした時とか。
俺もここ数日で事あるごとに魔力を使っていたし、発動段階でつまづくようなことではない。
といっても、こんなに強い魔力を開放したのは初めてだけど。
「……」
俺の体を魔力が覆い、それに促される様に攻撃的な感情と興奮が心を満たしていく。
以前バーダー教官から魔力の総量を褒められた俺だけあって、周囲で別の訓練をしていた魔族たちも空間を覆うおびただしい量と密度の魔力に気付き、俺に注目し始めた。
でもヴァンパイアの闘争本能に火がついていたこの時の俺は、そんな視線など気にならん。
今はただ、“敵”と認識しているバーダー教官に襲いかかるだけ。
襲いかかり、敵の息の根を止め……そしてその生き血を……。
一瞬遅れてそんな危険な感情に気づき、俺は慌てて気持ちを落ち着かせる。
やっべぇ。この感じは儀式の時に体験したことのあるあの感情だ。
感情っていうか、ヴァンパイアの本能っぽいやつというか。
でも流石にバーダー教官を相手にした訓練で、そんなノリはまずいだろう。
いや、もしかするとこれってヘルちゃんとかガルト君とかが訓練中に性格変わるのと同じ現象なのかも知れん。
うーん。
とりあえず、少し落ち着こう。
あんな危険な妖精コンビと同じと思われるのは心外だ。
それにそもそもバーダー教官は人間じゃないから、血を吸ったところで俺には何のメリットもない。
あと俺がバーダー教官の首に噛みつくなんて、実力的にどう考えても無理だしな。
「ど……どう……? 楽になった?」
頭の中で色々と考えていたら、ドルトム君が再度話しかけてきた。
う、うん。そりゃ確かに楽になったけど、これって俺が感じるバーダー教官の魔力の迫力が低下したんじゃなくて、俺自身が興奮したから相対的にバーダー教官の迫力が小さくなったってだけじゃ――あ、一緒か。
「うん。少し楽になった」
「じゃ……じゃあ、しばら……く……様子見てて……それとも……もう行けそう?」
ちなみにドルトム君の炎系攻撃魔法も含め、フライブ君たちとバーダー教官はすでに激しい攻防を行っていた。
フライブ君が従来の機動力を生かして縦横無尽にバーダー教官の周りを動きまわり、その攻撃の合間をヘルちゃんが雄叫び上げながら埋める。
さらには俺の隣に立つドルトム君が2人の攻撃の合間を埋める感じで魔法を放ち、時にはバーダー教官の反撃を邪魔するようなタイミングで魔法を放つことで、接近戦組の2人を守っているようだ。
そしてそんなド派手な戦闘の気配に隠れるように放たれるのが、ガルト君の攻撃だ。
よくよく見てみると、ガルト君の攻撃って敵のカウンターに対する防御や回避を一切考慮しない、捨て身の一撃っぽいやつなんだな。
んでその攻撃はもちろんバーダー教官に防がれるし、バーダー教官はそのタイミングで無防備なガルト君にカウンターを仕掛けるけど、こういう時はヘルちゃんが見事なフォローを見せるんだ。
「うらぁあぁぁッ! ぶっころーーーすッ! しねぇーーー! こんちくしょーーー! 地獄へ落ちろーーォ!」
例によって外見からは想像できない野蛮な叫びは相変わらずなんだけど、ヘルちゃんってさ、ガルト君がバーダー教官からカウンターを受けそうになると、毎回しっかりとそれを邪魔するように攻撃を繰り出すんだ。
でっけぇ声のせいでバーダー教官の意識もヘルちゃんに向けられるし、捨て身の攻撃をするガルト君の防御はある意味ヘルちゃんが受け持っていると言ってもいい。
うんうん。やっぱあのコンビはただの悪質な2人組ではなく、確かな信頼関係に結ばれた主従コンビだったんだ。
でもだ。観察タイムはこれで終了だ。
今知ったことなんだけど、魔力を最大放出することによって俺の動体視力が上がり、目の前の戦闘シーンがはっきりと見えるようになっている。
聴覚も上がったようで、戦闘の衝突音もはっきりと聞こえるようになったし、絶対にいらないと思うけど嗅覚も上がった気がする。
これならフライブ君たちと同じレベルで戦いに混ざれそうだ。
そしてなにより、にわかに沸き上がった俺の闘争心がそれを望んでいる。
「うん。行ってみる」
ドルトム君の問いに答え、俺は戦闘への参加を試みることにした。
と言っても、今の俺がこのチームに役立てることのできる魔法はヴァンパイアの特技である“幻惑魔法”しかない。
ならそれを試しに発動してみようじゃないか。
「とりあえず幻惑魔法使ってみるね。邪魔になるようだったら言ってね」
「う、うん……頑張って」
俺はドルトム君に小さく伝え、ドルトム君も俺を応援してくれた。
ちなみ、この会話をしている間もドルトム君は大小様々な火の塊を掌から発射し、さらには様々な軌道を描いてバーダー教官に到達するように操作している。
もちろんバーダー教官の周りを高速で移動しているフライブ君たちには当たらないように、だ。
俺は魔法についても詳しくないけど、もうそれだけで尊敬に値する技術ということは分かる。
じゃあ――どうしようかな。
まずは試しに……フライブ君の手から発射される火の塊が数・威力ともに増大して――そんでそれらがもれなくバーダー教官を襲う。
みたいな幻はどうだろう?
俺の幻ならフライブ君たちの動きの邪魔にはならないし、バーダー教官からすればドルトム君の炎系魔法がフライブ君たちの体を通過して襲ってくるように見える場合もあるだろうから、思いっきり慌てるはず。
そんで――幻惑魔法の発動方法は確か頭の中で幻の内容を想像して、そんで目に魔力を集めて相手を見ればいいって言ってたな。バレン将軍が。
「うぬぬぬぅ……ぬぬぬ……」
俺は無数の火の玉がバーダー教官に襲いかかる光景を想像し、同時に唸り声を上げながら目に魔力を集中させる。
んで目が若干熱くなってきたところで、試しにバーダー教官に視線を集中させた。
「ん?」
すぐさまバーダー教官が異変に気付く。ふっふっふ。どうやら俺の幻惑魔法は無事に発動したらしい。
でも、相手はアルメさんがその指導力を絶賛するバーダー教官だ。
異変に気付いた後、バーダー教官はフライブ君たちの猛攻を受け流しながらドルトム君をちらりと見て、次に俺を見た。
異変の原因はもうばれちゃったっぽい。
「いいぞ、タカーシ。幻の内容は悪くない。
しかしお前の魔力とドルトムの炎系魔法の魔力の質が違い過ぎる。
幻と本物が見分けやすいから、あまり効果はない。
幻惑効果を強めるためにもっと魔力の質を上げろ」
しかも余裕しゃくしゃくでアドバイスなどしてきやがった。
ちっくしょう! わかっていたけど、その程度の反応しかしてくれないなんて意外と悔しいわ!
もう少し驚けよ! そんでもってその隙をフライブ君たちに突かれたりしろよ!
あと何!? 魔力の質!?
どういうことだよ!?
「ちっ」
俺が思わず舌打ちをすると――いや、アドバイスを貰っている立場でそれもどうかと思うけど、この時の俺は興奮状態なので仕方ない。
んで俺が舌打ちするとほぼ同時に、隣にいたドルトム君が大きく叫んだ。
「みんなぁ! タカーシ君が幻惑魔法に成功したっぽいよー!
タカーシ君の幻惑魔法もこれからどんどん使ってもらうから、みんなそのこと知っておいてー!」
ちょっと待て。
ドルトム君、はっきり喋ってるんだけど!
ど、どういうこと? 俺の知ってる内気で可愛いドルトム君はどこ行った?
「りょーかーい!」
「えぇ! わかりましたわ!」
「きぇっひっひ! いきなり幻惑魔法を使うなど……なんという豪華な訓練に……ふぇっひっひ!」
ドルトム君の叫びを聞き、ガルト君が変態っぽくなってしまったけどどうでもいい!
えーとぉ――ドルトム君が流暢な言葉遣いになって……じゃなくて、魔力の質?
なんだそれ……? 魔力には“量”の他に“質”という要素もあるのか?
おいおいおいおい……そんなんどうしろって言うんだよ。
それじゃ――キャラがいきなり変わって話しかけるのがちょっと怖いけど、ドルトム君に聞いてみよう。
「ド、ドルトム君?」
「ん……?」
「魔力の“質”ってどういうこと?」
「し……“質”って……いわ、言われても……た、多分まりょ……魔力を“ぎゅっ”って……すること……じゃないかな……?」
あ、キャラが戻ってる。
何きっかけで流暢になるんだ?
あと、“ぎゅっ”って……うーん。圧縮するってこと?
でも魔力って圧縮できるもんなのか?
「または“ぐっ”ってす……する感じだよ?」
違いがわからん!
――いや、こんな子供にイラついててもしょうがないな。落ち着こう。
そもそも俺は魔法という現象について、まったくと言っていいほどの無知だ。
そんな俺であるからこそ、ニュアンスで伝えてくれたドルトム君の助言はむしろ役に立つかも知れん。
そう――こう、なんとなくだけど、力を入れるって感じだな?
「ぐっ」
ドルトム君の言うままに、その気になって小さな唸り声を上げてしまった俺は自分でも結構なバカだと思う。
でも今はそんなことを気にしている場合じゃない。
全身の筋肉に入れる力をさっきより強くする感じで。
体から放っている魔力の量が増えるだけのような気もするけど、今は色々試してみるしかない。
と思ったら――
「そう。そんな感じだ。それで幻惑魔法を仕掛けて来い!」
俺の魔力の変化に気づいたバーダー教官が低い声で叫んだ。
あ、そう。これでいいのね。ならこれで――
「よーし。それじゃもっかい……」
先ほどと同じように、俺は脳裏に幻惑の内容を思い浮かべてバーダー教官に目を向ける。
幻惑の中身はさっきと同じで、ドルトム君の炎系魔法が激しくなる幻だ。
その幻に包まれ、バーダー教官が短く声を発した。
「ふむ。これなら有効だ。いいぞ、タカーシ!」
おッ! 成功かな?
だけどさ。結局のところ、俺の幻惑魔法が混ざったところで、バーダー教官には大した問題じゃなさそうだ。
バーダー教官はあくまで巧みに、そして力強くフライブ君たちの猛攻をさばき、ドルトム君の魔法攻撃と俺が生みだした偽りの火の玉すらしっかりとさばいていた。
バーダー教官の持つ大きな棍棒が目にもとまらぬ速さで動き、教官の周りに大きな壁が出来たと錯覚するほどの棍棒さばきはある種の鉄壁のバリアーみたいになっている。
つーかあの魔族、俺たちの訓練が始まってから一歩も動いてないのな。
くっそ。流石に力の差があり過ぎだろ。
「でも……いつもよ……いつもより、お、押して……るね……タカーシ君のお、おかげかな……」
だけど俺の心を読んだかのように隣で呟いたドルトム君によると、俺の幻惑魔法も多少は戦力になっているようだ。
それなら次の手だ。
俺は他の魔法を使えないし、“緑”の魔力についてはなおのことわからん。
そんな俺が今できること。
右手にずっと握りしめていた木の棒で、あの乱戦に混ざることだけだ。
「じゃあ、そろそろ僕もあの中に入ってくるね。ドルトム君? 援護お願いね?」
「うん。他のみんなもタカーシ君が入ってくれば気付くはず。みんなのこと気にしないで、しばらく好きに攻撃してきてね。僕も頑張る!」
あれ? またドルトム君の言葉遣いが……
「でも、もうちょっと……ま、魔力の量増やしたほ……方がいいかも。け、怪我しないように……も、もっと“ぐっ”ってやってお、おいてから……ね?」
ん? 元に戻った。
うーん。ドルトム君のこの現象がわからん。
まっ、いっか。俺の興奮もそろそろ我慢できん。あの乱戦に混ざりたくて混ざりたくてしょうがないんだ!
これがヴァンパイアの……いや、魔族の習性なのだろうか。
全身の血が沸騰するこの感じ。好戦的なガルト君たちのことを馬鹿にしてたのも後で謝らないとな!
「ぬおぉぉおぉおぉぉ!」
俺は本能の赴くままに魔力を放出する。
その魔力の“質”と“量”の違いはまだよくわからないけど、体内に存在する魔力を全て使い切る勢いで、俺は魔力を燃え上がらせた。
しかし、次の瞬間――
「ぎゃ!」
「ぐッ!」
「ぐへ!」
フライブ君たち接近戦組の短い悲鳴が聞こえ、俺は意識を前に向ける。
バーダー教官がいつの間にか棍棒を捨て、その大きな右手にフライブ君、同じく左手にはヘルちゃん、そして地面に踏みつける形でガルト君を抑え込み、視線をこちらに向けていた。
「訓練は一度中止だ。このままじゃタカーシが怪我をしてしまうからな。
でもまさか……“緑”の魔力がそのようなものだったとは……くっくっく。精霊の加護……これまたやっかいな……」