バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第32話 なんとか止めてくれ!!

「どうして守ってばかりなのでしょうか?」

 結界を張っているのは守りや回復を専門とするトエーリエだろう。ヴァリィやベラトリックスは自由に動けるはず。他にも兵や騎士もいるので戦力が不足していることはない。

 それでもここからでは反撃しているように見えない理由は一つである。

「瘴気を浄化しきれてないんだ」

 結界は物理、魔法的な効果は遮断するが、気体は素通りしてしまう。そうしなければ結界を張ったまま窒息死してしまうからな。

 魔法については専門外なので詳しくはないのだが、ベラトリックスが言ってたので間違いない。

「ポルン様でもあの人数を守りながら浄化するのは厳しいですか?」
「俺なら半日ぐらいは持つ」
「襲われてからそれほど時間たってないですよね。浄化が間に合わないって……もしかして新勇者様の力が足りないってことですか?」
「残念ながらそうだろうな。光属性の適性が低くて負けているのだろう」

 光属性持ちと一言でいっても、浄化の威力や効率は人によって変わる。俺はかなり適性が高いみたいだから瘴気に負けることなんてなかったが、逆に低いと一般人より多少マシぐらいの効果しか発揮しないらしい。

 そういった人間は勇者にはならず、光教会が大切に保護して暮らしているはずなのだが……。

「小型にすら負けるなんて、勇者になる資格がないじゃないですか!」
「光属性を持ち、国が認めれば勇者とは名乗れる。そういう意味では、資格はあるな」

 へりくつのように聞こえるが、実際そうなのだから仕方がない。

 実行能力を持たなければ汚染獣に負けて、遠からず国が滅びる。

 そういった危機感があるからこそ今までは張りぼての勇者が出てくることはなかったのだが。

「ドルンダは何を考えている? 負けると分かっていてプルドを選び、村まで同行させたのか? それとも俺が助けに来ると見込んで動きなのか? だとしたら目的はなんだ?」

 困ったな。意図がまったく読めない。

 俺が知っているドルンダは、野心はあるが慎重な男だったはずだった。

 このような愚行に出るほど無謀な人間ではない。

「いや、疑問は後回しだ。助けに行く」

 村にはお世話になった人たちがいる。

 エーリカたちを見捨てるなんてこと俺はできない。

 もちろん、ベラトリックスも同じだ。

 手紙の内容は無視する。

「そうですよね! 行きましょう!」

 テレサはキラキラと輝くような目で俺を見ていた。

 彼女もまた俺をまだ勇者として扱っている証拠である。

「空を飛ぶ魔法は使えるか?」
「多少なら」
「なら使ってくれ。急いで行くぞ」
「かしこまりました。【フライ】!」

 体がふわりと浮かんで上昇する。

 高さは数メートルほど。

「ちょっと荒っぽくなりますが行きますね」

 スーッと静かに横移動したと思ったら急速に加速した。崖を滑るようにして進む。

 風圧によって押しつぶされるそうだ。障害物にでも当たったら死ぬかもしれない。このままじゃたどり着く前に体がボロボロになってしまう!

「もう少しスピード落とせないか!!」
「細かいコントロールは苦手なんです! 申し訳ありませんっ!」

 謝罪されるのと同時にスピードが上がった。

 一瞬、嫌がらせをされたのかと思ったんだが、隣にいるテレサが涙目になっているので本当に速度調整ができないのだろう。

 もうこの状態は魔法が暴走していると言ってもいい。

 戦う前に死ぬかもしれない。

 そういった覚悟と諦めを抱きつつ体を動かして、枯れた枝を避けていく。

 なんとか無傷のまま進んでいくと、予定よりも数倍早く村の付近に来た。

 瘴気が立ちこめていて周囲はさらに薄暗い。

 大木を数本まとめたような太さを持つ根元から触手が数千に枝分かれしていて、村を取り囲んでいた。

 全体がテカテカと光っており、先端は大きな針がある。

 この前に消滅させた汚染獣の一部と同じタイプだ。

「このままじゃ衝突する! なんとか止めてくれ!!」
「ポルン様のために、がんばりますっっっっ!!」

 何をどうしたのか分からないが、結果として急上昇した。

 眼下に村がある。

 近くで全体を俯瞰して見られるようになった。

 広場に村人やドルンダが集まっている。彼らを守るようにして兵や騎士が配置されていて動こうとしない。近くにヴァリィがいて貴族のような服を着た女性に抗議しているように見えた。

 トエーリエはすぐ近くでケガ人を治療していて、そのなかに鷹の紋章が描かれた豪華な鎧を着ている男もいた。あれがプルドか? 気絶しているように見えるので、魔力を使い切ってしまったのかもしれない。浄化の力は発揮できてないだろう。

 ドルンダ周辺が無事なのは、王家が持つ光属性を付与した魔道具を使っているからだろうか?

 であれば兵が動けないのも納得だ。あの範囲から出てしまえば汚染されてしまうので、本格的な反撃なんて不可能である。

 周囲を観察していると触手の方から爆発音がした。攻撃した人を探すと、ベラトリックスが屋根の上に立って炎の魔法を使っている姿が視界に入る。

 火球をぶつけているが、あまり効果は出てないようだ。それれもそうだろう。顔色は非常に悪く一部が黒くなっているので、万全の状態ではないのだ。

 あれは汚染物質によって体が侵食されている証拠で、どうやら浄化の力はあそこまで届いていないようだ。

 すぐには死なないだろうが全力を出せる状態ではない。

「俺を触手の所に落とせッ!!」

 槍にたっぷりと光属性を付与する。

 自ら光を発するようになって触手や村にいる人たちが俺の存在に気づく。

「ポルン様!!」

 死にかけているというのに大声でベラトリックスが叫んだ。

 黒く変色した顔で驚いている。

「全力で行きます!!」

 テレサが宣言すると急降下した。よかった今度はちゃんとコントロールできたようだ。

 魔力で肉体を強化して全力で耐久度を上げ、槍を前に出して触手の根元に突っ込む。

 浄化の力が働いて表面を突き破って肉を斬り裂く。

 全身に黒い体液が降り注いでくるものの光属性の魔力によって浄化して消滅する。

 このまま根元を斬り落とそうと槍を横に振るおうとすると、地面から新しい触手がいくつも出現して体に当たり、結界の方に吹き飛ばされてしまった。

しおり