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第30話 それとこれとは違いますってっっ!!

 近くに極小の汚染獣がいないことを確認すると、テレサの方を向く。

「魔力を使いすぎだ。俺が先頭になるから少し休め」

 何か言いたそうだったが、肩をポンと軽く叩いて命令に従えと伝えて歩き出す。

 洞窟の中は意外と広い。どうやら地下に向かっているようで、ゆるやかな下り坂が続く。

 しばらくすると、ぽつん、ぽつん、と一定間隔で水のしたたり落ちる音が聞こえてきた。地面全体が濡れて滑りやすくなっている。

「地底湖でもあるのか?」
「さすが聡明なポルン様! 何でもおわかりなんですね!」

 適当に言ったのだが当たってしまったようだ。

 陸ではなく水中で活動するタイプなのか? そんなのとは出会ったことがない。しかも大型となれば想像できる域を超えている。

「噂でもいい。ここに封印されていた大型汚染獣の情報を知らないか?」

 記録がなくなっているので、まともな答えは期待していない。ダメ元で聞いてみた。

「……本当かどうか分かりませんが全長数百メートルあったとも、逆に人間ぐらいだとも言われています」
「でたらめだな。あり得ないだろ」
「私もそう思いますが、光教会では、まことしやかに語り継がれてきました」

 本当に資料の紛失が悔やまれる。記録さえ残っていれば真実が分かったのに。

 短い会話を終えると再び沈黙が訪れる。

 水の量は増えていき、地面の一部は腰ほどの深さもある川になっていた。しかも流れは速く、瘴気に汚染されて真っ黒だ。素肌で触れば体は腐り落ちる。

 周囲は常に浄化しているから安全ではあるが、仮に足を滑らせて水に流されたら、テレサは確実に死ぬ。

 対策は必要だ。俺は中腰になると手を後ろに回す。

「川に流されて俺と離れたら死ぬ可能性がある。離れないよう俺の背に乗れ」

 手をつなぐとお互い動きにくくなるが、おんぶならテレサの両手は自由に動かせる。もし小型の汚染獣が出てきても弓で対応できるだろう。

「そそそそんなっ!! 畏れ多いですっっっ!」

 顔を真っ赤にさせながら両手を小さく左右に振って慌てている。

 現神として崇められているからなのか、汚い人間が体に触れることすら許されないとでも思っているんだろう。

 普段なら考えを変えさせるのが面倒で放置するんだが、この場ではそうも言っていられない。

 死なれても寝覚めが悪いのでテレサの安全は確保しておきたいのだ。

「俺の命令が聞けないと?」
「そんなことありません! 死ねと言われれば死ぬ覚悟があります!」
「だったら俺の背に乗ることぐらい問題ないだろ」
「それとこれとは違いますってっっ!!」
「いや、同じだ。乗れ」

 テレサの動きが止まった。

 危険な場所にもかかわらず目を閉じて腕を組んでいる。

「うーーーーん。わかりました。ポルン様のご命令とあれば従いますっ」

 勢いが必要だったのか、なんと跳躍して俺の背に抱きついた。

 強い衝撃がきて背中や足に大きな負担がかかる。バランスを崩しそうになったが全身の筋肉を総動員して耐えた。

「次からは、そっと乗ってくれ」
「ごめんなさい」

 しゅんと落ち込んだようで、後は何も言わず黙ってしまった。腕は俺の首に回ってピッタリとくっついている。

 胸の感触がッ! と言えれば良かったのだが、鎧を着ているので固い感触しかない。ただ重いだけだ。しかし良い香りがする。香水とかじゃない。自然と出てくる香りで、今までの苦労が報われたような気がする。

 やる気が出てきたぞ!

 気力は充分、魔力で身体能力強化しながら歩き出す。

 目の前に浅い川が広がっているので、水に入りながら進む。汚染された水がブーツにしみこんで皮膚まで到達するが、浄化の力によって物や体への影響はない。むしろ俺が歩いた周辺の水は綺麗になるほどの効果を発揮している。

「ここまで汚染が酷いと勇者以外は入れないな」
「おっしゃるとおりです。そのため光教会も場所は把握できても詳しい状態までは確認出来ませんでした」

 だから放置するしかなかったと。勇者は汚染獣討伐に忙しいから、問題が起きなければ後回しになってしまうのはわかる。

 さて百年以上も放置されていた大型はどうなっているのやら。

 恐ろしさ半分、楽しみなのが半分ってところか。

 テレサを背負い始めてから一時間が経過すると、瘴気の濃さが今まで経験した中で一番と言えるほど濃くなってきた。

 極小の汚染獣たちが骨を操って襲ってくるが、浄化の力によって近づく前に消滅する。あのサイズであれば傷を付けなくても、俺が発している光属性の力で消し去るのだ。

「多分、もうすぐ地底湖に着きます。そろそろ降ろしてもらえませんか」
「わかった。警戒は怠るなよ」

 名残惜しい気持ちを抑えてテレサを地面に降ろすと、俺が先頭になって歩き出す。

 ネズミやコウモリといった骨になった小型の動物が襲いかかってくる。数がわからないほどの量だがすぐに浄化されて消滅する。

 害はないのだが気持ち悪い。

 それでも我慢して進んでいくとようやく最奥に着いた。

 目の前に巨大な半球状の空間が広がっている。終わりが見えない。辺り一面はすべて汚染された水だ。真っ黒で底は見えない。

 汚染獣が水中にいても調べようがないな。

「水に入るか」

 俺ならできる。槍を地面に突き刺して上着を脱ごうとする。

「だだだだめです! 裸はだめですーーーっ!!」

 慌てた様子でテレサに止められてしまった。

 戦いばかりで異性になれてないのか。共通点が見つかって親近感が湧く。

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