第11話 正体不明の弾丸!激闘のソル!!
薫とラパンは、ミランと合流し"星の輝き"はどの辺りにバディがいると言っているか聞いていた。
「多分……この学校にいるっぽいミラ。ただ、その人が移動してるみたいだから、ここ!って場所はわからないミラ」
「学校…!もう放課後だし、まだいる人なら少ないんじゃないかな!」
「そういえば、もう学校終わってたラパ?」
「今日は始業式っていって、すぐ終わる日だったんだよ」
「へぇ、そういう日もあるラパねぇ」
薫の目線の高さでミランが飛びながら、石の光具合を見ていた。
付いて行っているだけのラパンと薫は適度に雑談をしながら、校舎の周りを歩いていた。
「ぐう…こっちはダメみたいミラ。光の点滅の感覚が長い…離れちゃってるみたいミラ」
「へー、点滅の時間で遠いか近いかわかるんだ…」
「ラパンもさっき知ったラパ」
「えぇ…」
再びミランが旋回して、どちらの方向にバディに慣れそうな人がいるかを確認する。
すると、来た道の方で点滅が早くなった。
「やっぱ通り過ぎちゃったのかなぁ」
「早く行くミラ!相棒を見つけるミラ!」
「あぁ!待つラパ!」
急いで戻ろうとするミランを走って追いかける。
すると、空からイブニングが勢いよく下りて来た。
「ミラ!?」
ドンッ!!と大きな着地音と、土煙を上げながら薫たちの目の前に立ちはだかった。
今から行こうとしている道を塞いで、行かせまいとしているようだ。
イブニングは不敵な笑みを浮かべながら薫たちを見た。前に自分たちの前から去っていった時の表情とは真逆な冷静そうな顔だ。
「前会った辺りで見張ってたが全然見つからねぇと思ってたら……そこの妖精の鳥が飛んでんのが見えて発見できたぜぇ…」
「み、ミランのせいで…!?」
「ぐぬぬ……やはりラパンたちを探していたラパ…!」
ミランは自分の所為でイブニングに場所を知られてしまったとショックを受け、ラパンは前回の捨て台詞通りに自分たちを探していたのだと睨みつけていた。
だが、薫は全く別の事を考えていた。
(前にラパンたちを見つけた時もそうだったけど、イブニングは私たちの現在地を正確にはわからないんだな…ドーン帝国の皇帝から神尾町を探せって言われたからこの町に来ただけみたいだし……皇帝も町のどこを探せとも言ってなさそうだし……案外派手に動かなかったら、バレずに日常は過ごせそう……かも?)
と、こちらも冷静に分析していた。
イブニングの言動から自分たちを探す能力を持っていないという風に考えたのだ。
だがイブニングは、フェアリニウムを認識できていたため、実際にどれほど探索できるのかは謎である。
「ま、とにかくだ。さぁ行くぜぇ!」
勢いよくポケットから、氷漬けの妖精と”人形ヒトガタ”を取り出し、闇エネルギーの泥が腕から吹き出す。
「リコルド・クレシオン!!」
「しまった……!学校でリコルドを作られてしまった……!」
薫の焦りと裏腹に、紫色の蒸気を発しながら左腕が隆起したリコルドが生み出された。
今回のリコルドはこれまで戦った2体とは大きく違い、その隆起した左腕が銃の様な形をしており、その大きく重たそうな黒い重心を薫たちに向けてきた。
「くっ…ラパン!」
「行くラパ!!」
「「コンドラット・アンジェストロ!」」
腕輪に触れ、虹色の光が薫とラパンを一つの身体に溶け合わせ、白銀の使徒アンジェストロに変身する。
一対の白き翼をはためかせ、虹色の光の柱を吹き飛ばし姿を現す。
「雄大なる大地の使徒!!ソル・アンジェ!!」
《ラパぁ!》
「来たなアンジェストロ…だがなぁ、今日のリコルドは手ごわいぜ!」
「トクゥウウウゥ!!」
イブニングの言葉を指示と受け取ったリコルドは、なんと叫びながら左腕の銃の様な器官から何かを超高速で発射した。
ソルはその攻撃には盾を作る事が出来ず、咄嗟に右にステップを踏む事で避けた。
そして、攻撃が当たったところを見て、絶句する。
土の地面という事でかなりやわらかい場所なのだが、そうだとしても恐ろしいくらいに地面が抉れていた。
派手な攻撃である事を表すかのように、校舎のコンクリートにも跡が付いている。
(い、いったい何が打たれたの…!?あんなの当たったら、怪我どころじゃすまないよ!)
《つ、次の攻撃がくるラパ!》
ラパンの声に反応し、咄嗟に「ソル・スクード!」と唱え、弾性を持った盾を自身の目の前に張る。
「トクトクゥ!!」
奇妙な鳴き声を発するリコルドは、ラパンの予測通り再び何かを打ち込んできた。
目にも止まらぬ速度で突っ込んでくるそれは、ソル・スクードで受け止めても消しきれない程の衝撃で、ソルは後ろに大きく弾き飛ばされてしまった。
「うわぁああ!?」
《カオル!?大丈夫ラパ!?》
「どうだぁ!やっぱ攻撃的な能力を持ってる妖精の力は便利だよなぁ!!」
イブニングは勝ち誇ったように笑う。
だが、彼の言葉を否定できない程今回のリコルドの能力はあまりにも強力だった。
ソルは焦りそうな気持ちをどうにか抑え込み、頭の中を冷静にして何が発射されているのかを考えた。
まず最初に抉られた地面を見る。勿論、盾を張りながらリコルドに注意は払っている。
そして、次に自分が先ほど立っていた場所を見る。
自分が引きずられるように後ろに下げられたことで、こちらにも抉られた跡が地面に残っている。
「トクゥ!!」
再び、発射される謎の物質。
受け止めるたびに、ソルからは呻き声が出る。
《か、カオル…!くぅ…何か、何か、わかる事…攻撃を受けた所の共通点を……ラパ?》
ラパンは何度も攻撃を受けるソルの代わりに考え、何かに気づいた。
《カオル…!この攻撃ってもしかして水ラパ?》
「え?水…?」
ラパンが気づいたのは最初に放たれた時の攻撃の後…ではなくその衝撃で校舎に付いた跡の方である。
それは何かが削れたような跡ではなく、何か液体が跳ねたような染みだったのだ。
そして二度目の攻撃の時の跡を確認すると、受け止めた場所の土が濡れて泥になり湿っているのが確認できた。
つまり、あのリコルドは水を高速で発射しているのではないか、とラパンは思い至ったのだ。
「水を…水!!そうミラ!トクソンという水を撃てるテッポウウオの妖精がいたミラ!」
上空で様子を見ながら、敵の攻撃を分析していたミランが叫ぶ。
「へぇ!気づいたか。その通りだぜ、こいつは超スピードで水を撃ち出す事が出来る妖精だったんだぜぇ!名前までは知らんがな、で?分かったところでどうする?今だってコイツの攻撃のラッシュに手も足も出てねぇじゃねぇか。あーはっはっは!」
高笑いするイブニングに、ソルは悔しさを噛み締める。
どうにかして、攻撃を掻い潜り相手を浄化しなくては……と焦りが来てしまう。
そこでソルは自身の技の弾性と、摺動性を利用できないかと、考えた。
「ね、ねぇラパン。あの攻撃って撃ってる本人でも当たったら痛いよね…」
《当たり前ラパ。でも…妖精がいない闇エネルギーだけの部分に当てられたら、痛くはないと思うラパ…》
「ぐぅ…それはわからないな……ならもう一個思いついた方にするよ!」
《わかんないけど、分かったラパ!全力でフェアリニウムをコントロールするラパ!》
「何をするつもりだぁ?」
イブニングはいぶかしむが、テッポウウオリコルドの攻撃は絶え間なく続いているので、まだ余裕のある態度を崩してはいなかった。
ソルは盾を張ったまま、攻撃を滑らせていなす技”ソル・メランツァーナ”を発動し、身体の急所や当たって欲しくないところに、フェアリウムの膜を張る。薄桃色の輝きを放ちながら、盾・を・消・し・た・。
「何!?何を…!」
驚くイブニングをよそに、攻撃が自然に地面に当たってボンッ!ボンッ!と音をたてながら穴を開けていく。
ソルはその後ソル・スクードを唱え、体を隠すようにではなく半身を出したような形で盾を張った。
その後、盾の中心を両手で裏側から掴み、自分の方へ引っ張り始める。
わざわざ半身を出して引っ張っているため、体勢は辛そうだが、大きく後ろへ引かれている。
「トクトクトクゥ!!!」
リコルドがいなされてしまう攻撃に苛立ったのか、雨の様な攻撃を一瞬止め、大きな大砲程度の大きさの水の弾丸を思い切り放った。
そしてその時、イブニングはソルがやろうとしている事に気づいた。
「ま、待て!!それを撃ったら…?!」
「もう遅い!今だぁ!!」
《はじき返してやるラパぁ!》
大きな弾が、ソルの強い力で引っ張られた盾にぶつかるその瞬間、両手を離し勢いよく元の形に戻った盾によって、水は大砲の形のままリコルドの元へ跳ね返された。
「そんな馬鹿な!?何故、水の形が保たれたまま…っ!水の周りにフェアリニウムだと!?」
イブニングは目をよく凝らして、水の弾を見た。すると、ソル・メランツァーナの様に薄いフェアリニウムの膜が玉の周囲に纏わされており、水を散らす事なくリコルドの元へ返していた。
そしてその弾は、リコルド…ではなく、リコルドの足元の地面にぶつかり大きく爆発した。
周囲のフェアリニウムの膜が弾けて中の水が飛び散ったのだ。
「ぐぅ…!?」
「よし!ホントはもっと細かい水を同時に出してもらうつもりだったんだけど、思ったよりいい弾だしてくれたね!」
《あえて自分の身体を出して挑発して、まばらじゃない固まった攻撃をさせ…それを盾で弾くラパ…いい作戦とはいいがたいけど、大きな弾のおかげでフェアリニウムを水の周りに纏わせるのは楽でよかったラパ》
そして足元に大きな穴が開き、爆発の衝撃もあった事で、テッポウウオリコルドはバランスを崩し、倒れ込んでしまった。
このチャンスをソルは待っていた。
すぐさま、自分の胸元に手を合わせ周囲から青い光を集束させ、フェアリニウムをチャージし大きく光が瞬いた時、手を三角形の形に組み、前に突き出した。
そして、浄化の力の名を大きく唱えた。
「ソル・プリエール・クラーレ!!」
真っすぐ放たれた桃色の光線が倒れ込んだリコルドを包み込む。
そしてリコルドを形成している黒い闇エネルギーの泥を溶かし、中から魚の妖精が露出する。
この時、妖精に一番近いのはイブニングであり、このままではまたこの妖精が捕まってしまうとソルは思った。
だが浄化が終わった瞬間では間に合わない距離に立っていた。
どうするか悩みながらも、今まで通り光線の放出が終わる。その刹那、完全に放出が終わる前に光の奔流の中にミランが飛び込み、魚の妖精を保護したのだ。
この咄嗟の行動はイブニングも予測していなかったようで、「なっ、妖精には何ともない光か!?そうだよぁ!フェアリニウムなんだから!」と考えてみればという事を叫んだ。
「ミラン!ありがとう!凄いよ!!」
《流石ラパ!》
「よ、ようやく役に立てたミラ…!」
戦いはイブニングが大きな舌打ちを打って消えた事で終了した。
どっと疲れが来るソルだったが、とりあえず変身を解く。
「はぁ…スタンダードな攻撃ってあんなに手強いんだね…まだ水でよかったのかな…?」
「いや、いなす技と柔軟で固い盾が無かったら、普通に撃ち抜かれてやられてたと思うミラ」
「ラパンもそう思うラパ。いやぁ、そういう見方だと、ある意味相性は良かったラパね!」
どこがぁ!?と自分が水で撃ち抜かれている所を想像して顔を青くしていた薫は大きな声でラパンにツッコんだ。
ただでさえ、初めての学校で緊張して疲れているというのに、リコルドとの戦いでさらに疲れてしまった。
「はぁ…明日テストなのになぁ…て、あれ?そういえばミランのお腹の…”星の輝き”だっけ?さっきまで光ってたのにもう光ってないね」
薫がそう呟いた時、ミランが自分の懐に入れていた”星の輝き”がこれまでずっと光っていた事に気づいた。
この石が輝くのは、持っている妖精にとって相性のいい人間が近くにいた時に光るという代物である。
…つまり、薫たちが戦っていたすぐ近くに、ミランのバディになれる人間がいたのだ。
一方、学校の正門沿いの外壁に一人の少女が寄り掛かって、しゃがみこんでいた。
その少女の名前は、明瀬葵。
先程まで校舎裏で戦っていたソルの戦いを見ていた人物である。
薫が落とした手帳を渡そうと、彼女を探していたら校舎裏の方で物音がしたので、そちらへ行ってしまったのだった。
そうしてアンジェストロとリコルドの戦いを目撃する。
「な、何なの……アレ…?それに、天土さんも……あの子一体……何者…?」
明瀬葵の運命の歯車が今、動き出した。