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こんな日に限って、店は大盛況だった。早い時間から席は埋まり、長く居座る客もおらず、回転も早い。いつもなら喜ぶところだが、使い物にならない今日のわたしには罪悪感の要素でしかない。最後の客を見送った春香が5歳くらい老けて見えたのも、罪悪感から来るものに違いない。
「ごめんね一真くん、疲れたでしょ」
わたしが洗ったグラスを隣で拭いている一真くんの表情はいつもと変わらず爽やかだ。
「全然?これくらい余裕っすよ」
「さすが男の子」
「・・・男、の子ってつけられるとヘコみますね」
「えっ、そう?」
「男として見られてない気が・・・」
「とくに深い意味はないんだけど・・・」
「俺って男らしくないすかね」
「いや?背も高いし、体力もあるし」
「そーゆう見た目とかじゃなく、内面的には?」
「内面?」
「男としての魅力、ありますか?」
おっと──これは、久々の真面目モード。この子犬のような目で見つめられると、"どうにかしなくては"と思ってしまう。
「一真くんはイケメンだし気もきくし、モテると思う!」
「なんか、他人事だしぃ・・・俺は雪音さんにモテたいんですけどね」
うっ。こうやってストレートに来られると、何も言えなくなるのがわたしである。こんな時、冗談の1つでも言って上手くかわせるスキルがあれば──。
「あ"──、疲れた!足パンパン!」
ナイスタイミングで最後の食器を運んできた春香に、心の中でお礼を言った。
「ゴメンね、負担かけて」
「ホントよ、今日に限って死ぬほど忙しいし!」
文句を言いつつ、わたしが出来るだけ動かないように率先して仕事をこなすのがこの春香様だ。本当、仕事に関しては頭が上がらない。
「今度ビール奢る」
「言ったな!約束よ!」
「5杯までは」
「ケチくさっ!」
「アナタの気が済むまで飲ませたら破産する」
「・・・確かに」真面目な顔で頷いたのは一真くんだ。
「え、なになに?みんな飲みに行くの?」
話に割って入ってきたのは、本日も閉店後の一服に忙しい店長だ。
「店内は禁煙です」
365日中、300回は言うであろうこのセリフもいい加減やめようとは思うが、この姿を見ると口から勝手に発せられるのである。
「あ、いいですね〜、これから行っちゃいますぅ?店長のお・ご・り・で」
「だからさ、俺、奢らなかった時ないでしょ」
このセリフも365日中、150回は聞いている。