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十章 ヨーロッパ式典事件編

ヒロ達が輸送機に乗り、無事第三国に着く頃にマリアから電話が有った。
マリアはヒロに任務が無事に終わったことを労い(ねぎらい)そのまま同じ
ヨーロッパの小さな公国に行くように言ったのだ。
当然ヒロはマリアに文句を言った
【おれはアンタの式神や使い魔ファミリアじゃないぞ】と、マリアは
【そんな事思ったこと無いわ、貴方は私の息子か弟みたいに思っているのよ、
今度の任務はそんな大変な任務じゃない、マリとの休暇みたいな物よ】と言う。
ヒロは【マリと会えるのは嬉しいがアンタの任務で楽だった記憶が俺には無いんだが気のせいか?】と言うと【まあ、人聞きが悪いわね、まるで私が悪魔みたいに
聞こえるわ】とマリアが言う。
ヒロは心の中で、悪魔以外の何者でも無いだろう、と思ったが怖くて
それは口にしなかった。
【何の任務だ?】と聞くと【その国の即位式が行われるわ、その時の警護を
お願いしたいの】とマリアが答える。
ヒロが【そんなのその国の警察が、やれば良いんじゃ無いのか、そんな任務にマリまで
巻き込むんじゃないよ】と言うと。
【そう言う訳に行かないの、マリは私の代わりに式に出席するのよ、その国と魔導士会は昔から繋がりが有ってヨーロッパの社交界と繋がるには付き合いを断つ事は
出来ない、マリは私の跡継ぎとして出席する必要が有るのよ】とマリアが答える。
ヒロは【マリを守るために受けるんだからな】と言って電話を切った。
三人の弟子たちにそのことを告げると、そこに行けることを喜んでいる。
ヒロがこれは任務だと言う事を伝えるが、そこはリゾートとしても
有名な場所、しかも季節は春五月になろうとしている。
気候は温暖で世界のセレブも集まる、金持ちも多い。
美樹は【私もセレブと出会えるかも】とか喜ぶ始末だ。
要人と別れたあと移動し、その公国の近くの空港でマリと合流して
車で約20キロの距離でそこに着く。
娘たちは再会を喜んでいるがヒロは何故か不安だ。
ヒロの悪い予感はマリがマリアの代役で式に参加する事、マリアはその影響力から
裏の世界で恨まれることも有る。
正直、式典が襲われようがヒロにとってはどうでも良いのだ。
特権階級にリスクは付き物だから、自分の身は自分で守れ、と思っている。
その国の人が巻き込まれる事は、気の毒だがそれを守るのは、特権階級の務めだと
思っているのだ。
だいたい国王だの帝(みかど)だの今の時代にそれを有難がるなんぞ、国民も自立心が
無いのか、くらいに思っている。
そんな権威にすがる者だから、なにか有ればブー垂れて国民自身で
改革する気概も無いのだ位に思うのだ。
江戸幕府が潰れた要因も結局、幕府への依存と諸藩と幕僚の権力交代を
ひたすら繰り返し、それに西南の外様が、つけこんで尊王討幕が成功しただけでは
無いのか?と思っている。
結局、頭を据え換えても国民自身、自分が脳細胞として進化しなければ無意味だろとさえ思う。
それはさておき、マリを守るためと、任務として受けた限りは無事遂行する
必要がある、常に万全にしなければと、早速その国の警護の責任者と会い、
会場の調査と警備のための結界、ドローンを配置する
場所の確認カメラの配置などを打ち合わせをした。
向こうの要人の警護はその国の警護の責任者一人とヒロがマリや、来賓の警護には
その他の警護のスタッフと共に、アリサと美樹とエリカが対応することに成ったが、相手の国の警護の人間は娘たちが女だと言う事に不安を覚えたようだ。
警備の現場の人間があまりにそれを露骨に表すので、その男にエリカを殴るなり
投げるなり、倒せたら弟子たちは警備から外すと伝える。
本来、武を見せ付けるのを良しとしないが、弟子を見限られることは我慢ならない。
エリカは三人の中で一番小柄で顔も幼く見える。
その警官は舐めてかかり、アホみたいにエリカに掴みかかろうとする、
ヒロは逆にこんな警官で大丈夫かと不安になる、普通ならその時点で目打ちから
金的で、警官を卒倒出来るが、エリカはわざと襟を取らせ左の
死角に瞬時に入ると同時に、柔道の隅落とし、別名空気投げのように警官を床に
叩き投げた、頭は引手でエリカが支えたが、警官は腰を強く打って床で唸っている。
ヒロが【女と侮るとこう成る見本だな】と笑う。
そしてアリサに無拍子の飛び蹴りを見せてやれと、自分の手の平を
高く頭の上に挙げる。
するとアリサは無拍子(ノーアクション)で双頭龍と呼ばれる二段蹴りで手の平に
蹴りをヒットさせる、パーンとヒットした音が鳴る。
無拍子の技はゼロ秒の機敏で、相手に技を当てるので、相手はいつ技を当てられたか
判らない、ボクシングのスピードタイプのジャブもそうだ。
今、世界で有名な日本人チャンプのジャブは無拍子ゼロ秒ジャブから
半拍子、壱と半拍子、フェイントをおりませる、多彩な左パンチで次々に相手を
ノックアウトしているが、相手には打たれた後に打たれたことが判るので倒れるのも
当然なことで有る。
アリサのその技はやはり父親譲りの身体能力の成せる技の一つだろう。
結局、配置はヒロの意見の通り決まる。

一旦宿舎に帰りヒロ達五人は式典の、装備の準備をして後に
身体を休める事と成った。
翌々日、式典が予定通り始まり順調に進んで行く、そいて終盤に入ろうとする時間帯式典の会場の中のトイレで爆発が起こった。
テロ行為としたら小さな爆発で、被害はトイレの部屋だけであった。
ヒロは幼稚な手筈に不安がよぎる、何故ならこれで終わりで無いことは
明白だからだ。
そしてこれは内部の人間も手伝っている可能性が高い。
とりあえずトイレの方の調査は、この国の警察に任せてヒロ達は警護を継続する。
変に中止したところを誰か狙われるより、このままの方が警備しやすいからだ。
最後のセレモニーでマリが向こうに花束を手渡す儀式だ。
小さな子供がマリに花束を手渡し、それをマリが皇族に献上するよう
取り図られている。
ヒロ達のイヤホンに異変を伝えるシグナルが聞こえる。
ヒロは要人の警護で持ち場を離れることは出来ない。
ユニオンの手話(サイン)でアリサ達に伝えると美樹が子供の花束を奪いアリサに
手渡しそれをアリサが人の居ない場所を見つけ耐爆防護容器に入れた。
それにより、人的災害は避けられた、会場はパニックに陥りそうになるが、幸いその場合の打ち合わせは警備側としている。
人数も限定しているため、会場の端に全員を集め、再度、全員の持ち物を検査する。
招待客の中には異物を持った人間はいなかった。
つまり警備なり内部のスタッフが一味に加わっているのだ。
そちらの調査はその国の警察に任せて、まずは要人と来客を安全に
避難させることに専念した、何よりヒロには気にかかることが有る。
犯人はマリを直接狙ったか、あるいわマリを犯人に仕立てようと
したのだと感じたのだ。
虫型ドローンの記録やカメラの配置から、現場で関わった犯人はすぐ判明をしたが、
彼らは言われた通り動いただけで所謂、闇バイトに応募した人間だ。
ある国の王子が、ドッキリの録画と思わされたモデルに毒を掛けられ王子が死んだ
事件と同じ構造だ。
ヒロはマリアに状況を報告して、マリと娘を連れて出国することを進言
したがマリとマリアは承諾しなかった。
このまま真相を突き止めなければ、魔導士会の信用に関わると言うのだ。
美樹はヒロに【先生観光どころじゃ無くなったね、でもマリ姉様を狙う奴は
許せない、皆で絶対捕まえよ】と息巻く、アリサも【私のマリちゃんに手を出す   なんて、全員病院送りにしないと気が済まない】と言う始末だ。

ヒロはマリには言わないが、これはマリアの因果が産んだ事件だと思っている。
きっとマリアが何かしらの理由で恨まれていると信じている。
しかしマリアを恨んでも、それを実行するとは命知らずの馬鹿が居るなとも思う。
さて今回は前回とは違う毛色の事件だ、実行犯もまるで素人に毛の生えた連中だ。
そこから事件の根っこを探ることが出来るのか。
マリアはその国の要人が怪しいと言うのだが、証拠をつかむ捜査はユニオンが手を
出すのは事実上正式には難しい。
となるとマリが直接会って様子をドローンなどで行動を見張るように仕掛けるか、
なんらかの形で張り込むか方法は限られてくる。
当然現地の警察もそうそう簡単に、令状を持って取り調べなど出来ない。
司法が強いものに弱く、弱いものに強引な事はどこも同じ、その現実は世界の現状だ。
まあそれも国により個別に違うが、日本の司法がどう感じるかはその人間の
デバイスで見方の違いは大きいが、正義なんざそんなものである。
日本の野党議員が殺された事件はその真実の動機は全く解明されずに、有り得ない動機で結審し、とある被疑者が裁判で否定をし、否認をすれば動機をこじ付け
不確定な証拠を取り上げ、しかも事件の数年後に証拠が見つかるとか
どう考えても不信感は拭えない。
その被疑者は五十年以上拘束をされて、その後に無罪判決が出た。
中には無罪の人間を高齢で不健康にも関わらず、拘束中に死なせたケースもある。
ユニオンは犯人を逮捕する必要は無い、その犯人にユニオンの力を示せば良いのだ。
しかしその特定に時間と手間が掛かりそうだとヒロは感じていた。
来客として式典に来たのは、百人余り、その中でその国の要人は二十数人だ。
まずはそちらが怪しいいと睨んで経歴を探る。
その中に金融業を、自身で営み、日本の元総理や東側とも繋がりが有るが、
どうも環境重視派閥との諍いで大臣を追われた人物がいた。
現在も国会議員だが大臣を辞め自分の権限が縮小されている。
 マリアはその人間が怪しいと睨み、ヒロ達がその派閥の人間達からドローンなどで
調査すると共に、派閥の長の要人本人には、マリが直接、正式に面談して
読心術で反応を見るとマリ自身が提案した。
もう一つマリが提案したことが有る、宿舎はずっと非公開にして置いたのだが、
その元大臣には会った時に、その場所を明かして、関係者の動向をドローンで
探ることだ。
ヒロは危険なので反対したがマリは譲らない。
マリはヒロに【パパとアリサちゃん達が守ってくれると信じてる】と
ヒロ達を煽る、そして相手を油断させるためそこに一緒に行くのは
アリサ一人にしたのだ。

当然、少し離れた見えない所でヒロも待機はしているが、ヒロはドローンのカメラで
周囲をチェックする役割を担う。
そして、その派閥の人間は美樹とエリカがドローンのカメラで動向を
チェックすることに成った。
マリがその元大臣にアポを取り、何も疑ってない事を装い、会って挨拶する。
マリが土産として持参したのは、セーブルの骨董ティーカップセットだ。
ヒロは骨董には疎いがバカ高い値段であることは知っている。
それを手に入れ、プレゼントすることを理由に、アポを取ったのだ。
ヒロはマリアに【そこまでする必要が有るのか】と問うとマリアは
【良いのよ、それで真相が解れば安いものだし、彼が関わってないならば、それを機に友好を深めビジネスで元を取ればいい事よ】と答える。
つくづく恐ろしい女だと感じた。
その元大臣とマリは面談して、セーブルのセットを手渡すと、彼は大喜びした様子だそしてマリは彼に嘘の捜査状況を流す。
どうも実行を計画した、裏の組織の一人が判り、逮捕直前だと言うデマだ。
勿論彼が疑われているとは見せずにである。
その情報で彼がどのように動くかを見定めるためである。
そしてもう安心なのでと、彼に自分の所在を明かしたのだ。
彼には二つの心理が働く。
自分は疑われてない事への安心、しかし他の容疑者が捕まればその保証は
無くなってしまう。
彼が関わって居るなら、まずはきっと何らかの形で動きが出るはずである。
マリが自らを餌に結界の罠を張ったのだ。
すぐに蜘蛛の巣に動きの振動が起こる、マリが出た後、要人の元大臣が
有る人間に電話を掛けた様だ。
それに反応したのがその派閥の一人の議員だった。
そして驚くべきことが更に起きる。
その電話を受けた議員と接触をしていた人物が、ヒロも知ってる人間だったのだ。
その当時ウルフと名乗りユニオンの部隊に参加していた、彼は元傭兵でナイフも
手徒格闘も腕が立ち、ヒロとも仲は悪く無かった。
傭兵だっただけ有って、品行が良いとは言えなかったが、悪人と言う訳でも
無かった。
だがある戦いで行方不明に成っていたのだ。
色んな噂が有ったがその一つに、家族が出来たと言うものが有った
それが本当なら何故、こんなことに関わっているのか。
未だに傭兵家業をしているのだろうか。

その事実は彼にしか解らない。
昨日の見方は今日の敵とも言うが、この仕事の因果を感じてしまう。
まず、要人が連絡を取った議員を、美樹とエリカが密かに付けて確保した。
そしてあたかもその議員の指示のように、彼にメールを送り今日の夜マリを遊撃して
金を持ってユーロ圏外に一緒に逃げると連絡する。
先ほど彼が言って居た言葉をカメラで解析して、再度集合場所と時間を伝える。
やり口としたら、どちらが裏か表か判らない、これも古くから伝わる術式の応用だ。
場所は港近くの遊歩道で、夜中だと人も少なく街灯もその場所は暗い。
更に周辺にドローンを配置して、人口の霧を発生させて、視界を悪くする。
メールでの指示は、先ず港の遊歩道で手付金半分を渡す、マリを襲撃して再度港からユーロ圏外に逃げる計画だ。
港にウルフ本人が現れるかは不明だが二重の罠である。
そこに現れたのはウルフと他2名の男で有った。
ヒロはウルフに顔を見せ【久しぶりだな、生きていたのか】と言う。
ウルフは驚いた様子で【何故お前がこんな国に居るんだ】と言う。
ヒロは【戦場以外で会うとはお互い驚くよな】と言うと
【戦場は懲りたのさ】と答える。
【ウルフ、ここはもう結界が張っている、流石にお前でも逃げるのは無理だ、
悪い事には成らないから投降しろ】とヒロが言うと
ウルフは【そうだな】と言って投降する振りをしてなんと自爆してしまった。
先日使われた小型の爆弾である。
他の二人をヒロが拘束して、そこから他のメンバーも捕まえる事が出来たが
何とも後味の悪い事件であった。
ホテルで爆弾に関わった人間も、そしてウルフの一味もそれぞれ何らかの事情で
金や生活に困ったり、あるいわ弱みを握られたり、事情は違うが人生の落とし穴に
落ちそのような事に巻き込まれた人間たちだ。
しかし手を汚さず、自分の権力欲などで人を巻き込み、罪を犯させる人間も居る。
ウルフの仲間は元傭兵や下級兵士など、潰しが聞かずウルフの仲間に成った
人間が多かった、普通の社会でも有る話だ。
仕事が無い若者が闇バイトに応募してしまう、しかし行政はそのような人達を救う
なんて思っても居ないと感じる。
知らず知らずに、そのような人を社会が作り出している自覚は、全く無い人間たちが政治も行政を司っている。
彼らが考えているのは自分たちの保身と行政の定めたルール。
政治は大衆の目と自分の権力、それが悪とは言わない、少しでも困っている人たち への優しさは無いのだろうか?

ルールを超えた気持ちが行政や政治そして人々に有れば、世の中が変わるのでは無いかとも考えさせられた、ヒロにも後味の悪い事件だ。
世界一豊かな富豪やセレブが多い場所で、起きた事件の裏側と陰で過去の戦場で
知った顔の最後はまたヒロの心に傷を残した。
式場での実行犯は未遂で終わっていたことで執行を猶予されユニオンの協力企業で
働くことに、ウルフの仲間は知っている情報を洗いざらいしゃべる条件で、
国外の戦地で仕事を与えた。
そして黒幕の二人はその地位を追われ、財産を没収の上、国外に追放と成っていた。
マリが渡した、超高級陶磁器セットは、何故かマリの元に帰って来た。
やはりマリアとは悪魔の化身だとヒロは知った。
ヒロはマリアに【こんな国に関わるの俺はもうごめんだ】と苦情を言うと
マリアは【こんな国とか、どんな国なの、そこは良い国よ】と言う。
【何が良い国だ、訳解らん骨董で騙されるアホが要職で、妬み合うアホの
国じゃ無いか】と言うとマリアは【素敵じゃないそう言う人が居るから
利益も取りやすい、金融もやりやすい、貴方だって投機運用して小遣いをため込んでいるでしょ】と言う。
ヒロは【何で知っている俺の小遣い稼ぎなんて可愛いものだバカ高い骨董で
権力に食い込むなんて恐ろしい考えは無い】と言うと。
マリアが【貴方もバカ高いウイスキーで大儲け企んでいるらしいじゃない
日本の税務署には気を付けなさい、そこの国はタックスヘブンだからユニオンも私も
問題ないけど】と言う。
いくらタックスヘブンでもそのため物価がバカ高く底辺が生活に困る
そんな国はやはり御免だとヒロは思った。
どちらが良い悪いでは無くどちらに配慮した運営をするかである。
金持ちだけが暮らしやすいと仕事はこちらで、住むのは違う場所と言う
歪さえ生まれる。
ユーロ圏の場合は特にそうだ、ヒロ達はマリとの別れを惜しみ、
日本に向かった。


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