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045:上を目指す者たち

 情報のお礼に男たちに酒を奢ろうとしたら、逆に「新人が気を使うな」と言って受け取らないばかりか、逆に奢られてしまった。お礼を言って飲み食いしていたらバッツがやってきた。両手には飲み物と食べ物が握られている。

「どう? ナンパは上手くいきそう?」

 聞いてみたが首を左右に振って空いている席に腰を下ろして言った。

「やっぱ手強いわぁ。都会の女って難しぃ!」

 するとそれを聞いていた先程の男が言った。

「金で買えばいいじゃねぇか?」
「口説き落としたいんっすよぉ」
「タダでやりてぇだけだろ?」
「そうともいうけど、微妙に違うっす」
「ほぉん。最近の若いやつの考えることは分かんねぇなぁ」

 私が訂正する。

「最近の若いやつ、じゃなくて、コイツだけが変なんです」

 すると男が笑った。

「だっはっは。そうか。そいつは悪かった」

 そう言って男がバッツに「まぁ飲め。食え」とお酒と食べ物を勧めたので大人しくご相伴に預かる。飲み食いしているとバッツが「あぁそうだ。聞いた? スライム博士のこと」と情報を話し始めた。

「何? 面白い情報でもあったの?」
「あぁ。なんでも叙爵するそうだぞ。男爵様だってよ」

 これにはジンが食いついた。

「叙爵! スライムの養殖でか?」
「あぁ。まぁ平和な時代に成り上がるならそうなるよなぁって」
「あぁ、そうか。生産系かぁ……」

 私はジンに尋ねる。

「生産職、する?」
「いや。性に合いそうもない。アイディアなんて無いしな。うぅん。どうすっかなぁ」

 そう言って天井を見上げて考え込むジン。すると先ほどからチョイチョイこっちに絡んでくる、気のいい男が言った。

「隣国の帝国なら可能性があるぞ?」
「帝国?」
「あぁ。なんでも内戦をしているらしい。腕に自身があるなら行ってみる価値はある」

 バッツが男に言う。

「おっさんたちは行かないんすか?」
「行く予定だ。やっぱ男なら試してみてぇよなぁ?」

 ジンが力強く頷く。

「あぁ。試してみたい」

 すると男が言った。

「行くなら早いほうが良い。上の椅子の数は限られているからな」

 言われてジンが考え込み始めたのだった。





 男に礼を言い、宿へと帰った。ちなみにシエラは既におネムだ。レオル少年は帰った。

「気の良い人たちだったね」

 私が感想を述べるとジンも頷いた。

「あぁ。何か礼がしたいが……さて、どうしたものか」

 バッツがベッドに腰掛けながら言った。

「いいんじゃねぇかな。オーウェルさんが困ってたら助ける程度で」

 私が首を傾げる。

「オーウェルさん?」
「さっきのオッサンの名前だ」
「いつの間に……」
「はっは。迂闊だぞぉ。世話になった人の名前も知らないなんてなぁ」
「そうだね。聞きそびれちゃってたよ」

 シエラをベッドに寝かせて私も潜り込む。ジンたちもそれぞれベッドに潜り込んだ。

「んじゃあ、まぁ。また明日。おやすみぃ」
「おう。おやすみぃ」
「おやすみぃ」

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