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第31話 激闘、それでも負けない


 え──。一瞬戸惑ったが、経験のある御影さんの言葉は、当たった。
 怪牛は私に急接近したかと思うと、くるりと反転し、私の背後へ。予想しなかった事態に、私は全く反応できなかった。

 そして思いっきり回し蹴りを食らい、そのまま後方に吹き飛ばされてしまった。
 吹き飛ばされた体は後ろにある大木に背中を叩きつけられる形で動きを止め、地面に落下する。
 苦しい……。息ができない……。肺が痛い、多分肋骨かな……。
 何とかこらえながら背骨当たりの骨に意識を向け、妖力を込めた。動けないくらいの息苦しさや痛みが引いていく。当たりだ。
 その間にも牛鬼はこっちに突っ込んでくる。私は左に飛び込み、ギリギリで攻撃を回避。そのまま直進し、怪牛の裏をとる。くるりと体制を変えると、目線の先には無防備な怪牛の背中。

 チャンスだ。
 そして、飼牛との距離を一気に縮め、勝負を決めようと妖力を込める。

 氷の旋風よ・研ぎ澄まされし刃挙げ、反逆の剣(つるぎ)、翻せ!

 氷結一閃

 ──氷柱刺し──


 すぐに怪牛はこっちを向いて私の攻撃を押さえつけてくる。そう簡単にはいかない。
 しかし、それでいい。だって怪牛の後ろには。

「かかったわね」

 御影さんがいるのだから。私の方を向いた瞬間、御影さんはすぐに怪牛の背中へと突っ込んでいったのだ。

「甘いわ」

 御影さんはそう言って怪牛の背中目掛けて薙刀を薙ぐ。彼女の力、力強い、青白い炎が薙刀の周りをまとっている。

 神秘さと、強さを兼ね備えているように見えて、思わず見とれてしまう。

 パワーも私に、負けないくらいのものがあると思う。

 しかし──。

「なにこれ、硬い」

 怪牛の前にいるせいで正確には分からないが、唖然としている表情からして仕留めきれなかったのだろう。

 そして肉の部分を消滅させたものの、怪牛はまだ死んではいない。

 唖然とする御影さんに、怪牛が襲い掛かる。怪牛は御影さんの身体を鷲掴みしようとする。
 御影さんは軽く飛び上がりそれを交わしたが、怪牛はそれを呼んでいたのか、空中に舞っている御影さんに殴り掛かった。

 空中で身動きが取れない御影さんによける手段はとれない。
 薙刀を真正面に突き出し攻撃を受けようとする。

 斜めに構えているのを見ると、受け流そうとしているのがわかる。


 そして、怪牛は思いっきり御影さんに向けて拳を向けて殴り掛かった。
 完全にはいなしきれなかったようで険しい表情をしている。

「くっ──力強いわね」

 怪牛の拳を全身に受け、吹っ飛ばされる御影さん。しかし、御影さんは軽やかに受け身を取って着地。
 やっぱり、私と違って戦いなれているのがわかる。

 なんて言うか──優雅に舞っている感じで、かっこよさと可憐さを完ぺきに兼ね備えていると思う。

 そして、軽やかにステップを踏みながらこっちに向かって後退してきた。

「アンタ──頼みがあるわ」

「大丈夫です。力になります」

「アイツ、体が硬すぎるわ──。私一人じゃ全力で攻撃しても皮と肉をはがすので精いっぱい──」

「ですよね」

「協力お願い。一人じゃ勝てない」

「わかりました」

 協力するということか。初めての人と力を合わせる。考えただけっで不安な気持ちになった。でもそれしかない。

「どっちかが先に身体を切って、その後に骨を切断しましょう」

「わかりました」

 ごくりと息を呑んで、今の言葉の意味が頭の中をよぎった。

 私一人が痛い思いをするだけならいい。どうせ、今の状態なら心臓をぶち抜かれようとも死にはしないのだから。

 しかし、タイミングを合わせるとなったら別だ。
 もし私がミスをしたり、不覚を取られてしまった場合御影さんが痛い思いをする。



 忘れることはない、体を貫かれた時の、悶絶するような意識が持ってかれそうな痛み。

 もし、そんな思いをさせてしまったら──。
 そう考えただけで、緊張して体が硬くなる。

 緊張を和らげようと、大きく深呼吸をしていると御影さんが目の前に来てピンとおでこをデコピンしてきた。

「あ、あの……」

「気にしないで。半妖だし、数回くらいなら体をぶち抜かれても平気よ。胸を借りるつもりで、リラックスしてやってちょうだい」

「は、はい──」
 気を失うくらい痛いんだけど──。しかし、贅沢は言ってられない。勝たなきゃいけないんだから。

 御影さんの頑張りを無駄にしないためにも、絶対に成功させる。拳を強く握って、そう覚悟した。

 怪牛は御影さんに向かって一気に突っ込んできた。
 御影さんはそれを可憐にかわしていき、あっという間に背後へと回る。

 御影さんが攻撃を仕掛けるが、怪牛も強引に体を回転させ、振り向きざまに殴りかかる。

 肩のあたりに蹄が刺さって貫通するが、御影さんは一瞬だけ険しい表情をしてそのまま突っ込んでいく。

「そのくらい、なんてことないわ。大切な人を救えなかった心の痛みに比べればね!」


 そして、右肩を刺されたまま怪牛に向かってなぎなたを振りかざす。


 ──豪雷閃── 紫陽花


 大爆発を起こす。威力も、たぶん私よりも強い。
 力任せの私と違って、ちゃんと自分の妖力を使いこなしているんだ。


 流石だ、御影さん。あれほど硬かった皮を、一撃で破壊した。
 そしてこっちを振り向くなり叫んでくる。

「凛音、後は骨だけよ」

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