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第35話 レディナが、一人でいる理由

「私はフリーゼ、隣がハリーセル。よろしくお願いいたします」

「よろしくフィッシュ」

 ハリーセルが元気よく手を上げる。

「んで、俺がフライ。よろしくね」

「私たち二人はおそらくあなたたちと同じように、遺跡の中に封印されてきました。しかし、フライさんのスキルによって解放され、共に行動をしています」

 そしてレディナが視線を俺の方に向けた。

「フライ。あなたが二人を解放したのね。二人にいかがわしいこととかしていないでしょうね。自分のスキルをダシに悪いことやいやらしいことを押し付けようとか」

「し、してないよ」

 ジト目でにらんでくるレディナに俺はおどおどしながら言葉を返した。

「本当ね。とりあえず信じておくわ」

 ……何とか信用してくれたか。俺は心の中で胸をなでおろす。
 取りあえず、こっちも聞きたいことを聞こう。
 まず質問したのは、レディナを解放した人のことだ。

「そういえば、レディナを解放してくれた人はどこにいるフィッシュ」

「確かにそうです。私達がフライさんに解放されたように、レディナも開放のスキルを持つ人間がいるはずですよね。その人物に会わせてくれないかしら?」

 レディナはその言葉に少し表情を暗くして言葉を返して来た。

「その人は、今ここにいないわ。少し前までは一緒に行動していたけれど、今は一人で行動しているの」

「一人で行動しても、大丈夫なのですか。フライさんの場合ですと、私達は彼から離れることができないのですが」

「そうよ。私は、距離を取っても問題なかったわ」

 恐らく俺の術式と少し違うのだろう。俺のスキルだと、フリーゼたちを近くに居させなければならない。

 しかし、レディナの周囲に冒険者はいない。
 レディナの場合は一度開放すれば一人にさせても大丈夫なのだろう。

 次に質問したのはフリーゼだ。

「レディナさん。気になることがあります。ではどうして自分を解放してくれた人と別れて一人で行動しているのですか? 一人になれるとはいえ、自分を解放してくれた人と別れたのには理由があるはずです」

 その言葉にレディナははっとした後、どこかシュンとなり落ち込んでしまう。
 やはり何かあったみたいだ。そして声が若干暗くなり、答えを話す。

「なんかもう、『お前は私の所持品だ』みたいな言葉遣いで私を支配しようとしていたの。おまけに仲間達でもちょっとケンカしたりミスをしたりすると暴力を振ったり、首にしていたりしていたわ」

 レディナの表情が暗くなる。きっとパーティーにいた時のことを想いだしたのだろう。

「だから、交渉したの。私を解放してくれたあなたには感謝してる。けれど、一緒に戦ってるみんなが傷ついている姿なんで見たくない。これ以上こんな雰囲気を変えないなら、私はこのパーティーから出ていくって」

「それで、お前のとこのリーダーは首を縦に降らなかったってことか──」

「そうよ。だって、周りや、罪のない人たちが傷つくのを見るのは見ていて嫌だもの」

 ──それは、運が悪かったとしか言いようがない。冒険者は、いいやつばかりではない。中には魔物と手を組んだり、目的のためならばどんな悪事を行ったり、仲間や一般人に危害を加えるようなやつだっている。

 レディナは不運にも、そういった冒険者に出くわして、開放されてしまったのだ。
 そして彼女は、それに対して「いやだ」といった結果、一人で行動することになってしまったのだ。

 でも、これでレディナが悪いやつではないというのはわかった。
 それは、安心できる。

 それからも俺たちはいろいろなことを話した。

 この街のこととか、生活のこと。互いの魔法のことなどだ。
 いろいろ話していると、レディナが立ち上がって、街の方向をじっと見た。そしてそのまま話してくる。

「とりあえず、街を歩いたりしない? ここで話すより、気分が晴れそうだし」

「──それもいいかもね」



 ちょっと暗い気持ちになったから、気分転換だ。
 俺たちは階段を下りて、街へ。


 俺たちは街をゆっくりと歩き始める。
 この街の中心を流れる小さな川沿いの道。

 おしゃれで、綺麗な街並み。見ているだけで、楽しめる街。
 少しだけ気分が晴れやかになった。

 まじまじと川沿いから街並みを見ながら歩いていると、レディナが道の先に視線を送る。何かに気付いたようだ。

「あれ、泣いているんじゃない」

 確かにそうだ。川のそばで目をこすりながら泣いている子供がいる。
 茶色いシャツを着た、髪の長い男の子だ。

「とりあえず、行ってみよう」

「そうね」

 取りあえず俺たちは速足でその子のところに近寄る。

 泣いている男の子にフリーゼが話しかけた。


「君、どうしたのですか?」


「あ、あれ。落としちゃった……」

 男の子は川の方向に指をさす。
 俺が川の方向に視線を向けると、川の底に銀色の首飾りがあった。ただ川自体が結構水深がありそうで、明らかに俺が飛び込んでも行けるかわからない。

 何とか拾って上げたい。どうしたものか──。

 そんなふうに俺が考えていると、背後からハリーセルの声が聞こえた。

「大丈夫フィッシュ、私に任せるフィッシュ」

 威勢のいい声。
 そしてハリーセルが突然手すりを乗り越えて川の中に飛び込んだのだ。

 バッシャーーン!

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