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第33話 ※ 一部ミュア視点 凋落

「チッ──、わかったよ。出せばいいんだろ出せば!」

 そしてアドナは歯ぎしりをしながら袋の中から馬車の運賃を馬主に払う。
 長旅ではどんな災難が起こるかわからない。疲労を軽減するため馬車を長く使ったり、高いホテルをあえてとって体力を回復させたりすることもあるし、急に病気になって薬を買わなければいけなくなるかもしれない。

 だから俺がパーティーにいたころはこういった遠征をおこなうとき、必ずお金を借りたりして手元にある資金を増やしてくなど工夫をしていた。

 しかしアドナたちにはそんな発想はない。
 早くSランクに復帰したいという焦りから資金も物資も不十分なままに遠征に出てしまった。

「金貨10枚、あいよ。ありがとな、無事に旅しろよ」

「とっととどっか行け。目障りだ、この守銭奴」

 怒りのあまりウェルキが罵倒して、別れとなった。

 資金は、すでに半分ほど失っている。この時点で帰りの資金がなくなりここで稼がなくてはならないことが確定した。

 しかし頭に血が上っているアドナがそのことに気付くのはもう少し先のことだ。




 ※ここからミュア視点。


 こ、これからどうしよう。金貨十枚って私たちが持っている資金の半分くらいだよ……。
 生活費を考えたら、足らなくなること決定じゃん。

 こんな初めての土地で、クエストとか大丈夫かな……。


「アドナ、あのクソ馬主今度会ったらぶん殴ってボコボコにしてやろうぜ!」


 アドナとウェルキの怒りがだんだんと強くなっていくのがわかる。
 四人になってから、すべてがうまくいかない。


 私心の底では感じていたんだ。
 フライが私たちの力を底上げしてくれていたことを──。

 目立たないけど、裏でいろいろと私達のことを考えてくれていたことを。
 けど、そうすれば自分がフライより劣ってしまっていることを認めてしまうことになる。

 そうなったら自分がいらない子扱いを受けてしまうのではないか、怖かった。

 何より、何かあるとフライに当たり散らす雰囲気が出来上がっていて、そんなことを言ったら自分も悪い扱いを受けるんじゃないかと思っていた。

 私、接近戦がまるでダメで、アドナやウェルキがいないと全く戦えないから。

 フライ、表には言えないけど、本当にごめんなさい。
 もう、遅いと思うけど。


 そして私のこのパーティーに対する感情も、変わってしまった。

 あの後、キルコは済まなそうな表情をして謝ってきた。
 それに、アドナとウェルキからも「すまなかった」との言葉があった。

 当然、そんなことで済む話じゃない。
 命がかかっていたとはいえ、私をあの場所で見捨てていったことには変わりない。

 気まずい空気がパーティーの中を漂い、雰囲気はぎくしゃく、会話も露骨に少なくなっていった。
 もう、以前の子供のころ様に全員で一致団結して戦うような空気には戻れないだろう。



 でも、私も彼らに対して強く言うことができなかった。

 あの時、見捨てられるのが私だった。だけど──。
 もし立場が逆だったら。トランの言葉をけってでも手を差し伸べただろうか。

 ──今の私だからわかる。確実にそいつを見捨てて逃げていただろうと。


 昔なら、フライがいてみんなに気を使って和ませたりしていた。
 彼なら、いつもパーティーの空気が良くなるように気を使ってくれていたからだ。

 しかし、今そのフライはいない。外れスキルの弱いやつだとレッテルを張り自ら追い出してしまった。

 あの時、気が弱い自分は彼らに流されてしまい反対することができなかった。
 もう少し私が声を上げていれば──、いや、私一人じゃどうにもならないか。


 それに、もう遅い。フライ、ごめんね。

 私が葛藤をしていると、アドナがため息をついた後、私達に話しかけてきた。

「──とりあえず行っておく。あのぼったくり野郎のせいで、今資金が足りない。だからフリジオ王国でクエストをある程度こなさないと、街へ帰れない。それにあまり贅沢はしないようにしてくれ」


 キルコはむすっとした表情で返事をせず、コクリと頷いた。
 いままでのパーティーであれば、機嫌が悪くても、キルコなら「──わかったわよ」とぶっきらぼうに返事はしていた。

 確かに今までもパーティー内でけんかすることはあった。しかし、必ずどこかで和解をしていた。

 それが今はない。できそうな気がしない。
 もう、治りきらないような溝がパーティーの中にできていた。

 そしてそんな険悪な雰囲気の中、ウェルキが叫び始める。

「くっそ、バカにしやがって。それもこれもフライのせいだ! ぜってぇあいつのパーティーより活躍して、名を上げてやる!」

 ──多分、私が何を言っても火に油を注ぐだけだろうからあえて突っ込まない。
 キルコも、ダルそうな表情になり、愚痴をこぼしてくる。

「ったく、しょっぱなから散々じゃない。正直やる気がそがれるわ」

「──じゃあ、とりあえず街に入ろう」

 ウェルキがそう言って、先頭を切って歩いていく。

 すると、前方に人影が見える。その姿に、私の背中に寒気が走った。
 だって、アイツ、あの命がかかった場で私を見捨てていった奴だもん。


 そしてその名をアドナが言い放つ。


「お前は、トラン──」



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