20
鬼火"は"、そこに居た。
でも、2人の姿がない。辺りを360度見回すが、どこにもいない。それに、さっきまでそこにあった木々が折られたように根元から無くなっている。今の爆風で?
──まさか・・・。
心臓が早鐘を打つように動き出す。落ち着け。そんなはずはない。
「早坂さん!瀬野さん!どこですか!」
返事は、ない。
「2人はどこ」
この鬼火に言葉なんて通じない。わかっていても言わずにはいられなかった。
鬼火は炎を左右に揺らし、踊るような動きを見せた。そう、まるで嘲笑っているかのように。
今この場を離れて2人を探そうとしても、攻撃してくるだろう。だったら、コイツをどうにかして、探すまでだ。
わたしは持っていた刀を鞘から抜いた。長く反った刀身に鋭い切っ先。切れ味がどれ程の物かわからないが、全身に緊張が走った。
当たり前だが、扱った事などない。柄を両手で握り、剣道のように構えた。不思議な事に、さっきまで感じていた重さが無くなり、手に馴染むような気がした。
──さあ、ここからどうする。
このまま切りかかるか。でも、コレを持ったままそれが上手く出来るかわからない。自分の動きは最小限にして、攻撃をする。だったら先程同様、向こうから来させるしかない。
わたしは足元にあった小石を何個も手に取り、先程の早坂さんの真似をして鬼火に投げつけた。鬼火が石を取り込む度に、その炎がゆらっと揺れる。まあ、これが効いているとは思えないが、これ以外の挑発の仕方がわからない。
「ついて来いバーカ!」
自分に出来る最大の悪態を吐き、鬼火に背を向け、来た道を戻った。
襲ってこい。アイツが向かってきたら、不意をついて攻撃する。脳内シュミレーションは出来ていたが、それを実行に移せなかった。
攻撃してこない。足を止め振り返ると、さっきいた場所から動いていない。
──なんで?さっきは襲ってきたのに。鬼火はまた、踊るようにゆらゆらと揺れている。
無性に、腹が立ってきた。お前の考えなんかお見通しだと、馬鹿にされているような気がした。2人の安否に対する不安と焦りが、わたし
の怒りを上昇させる。
わたしはまた戻り、地面に放り投げた鞘を鬼火に投げた。