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「それにしては、ずいぶん嫌な音がしたけどねぇ」
「いいだろ、この際買い替えたらどうだ。この車は乗り心地が悪くてかなわん」
「人の車にいちゃもんつけないでちょうだい!」
「だから俺の車を出すって言ってるだろう」
「アンタはバカみたいに飛ばすからダメよ」
「中条がいなければ何も言わんくせに」
「当たり前でしょ!雪音ちゃんがいるからの話をしてるのよ!」
この2人のコレも、だいぶ慣れてきたな。いがみ合ってるように見えて、ジャレてるだけなんだよね。本当に仲が良い。
「ところであの、事件ってどーゆう事件なんですか?」
「ああ、そうね。あなたにはまだ伝えてなかったわね」
「鬼火の仕業だろう、という話だ」
頭にクエスチョンマークが3つほど浮かんだ。「おにび・・・?」
「順を追って話さないと何の事かわからないでしょうが。数日前の事なんだけどね、山の中で伐採をしていた業者が突然火傷を負ったらしいのよ」
「火傷・・・ですか」
「火は扱ってなく、周りにも燃えるような物は何も無い。それなのに突然背中が熱くなり、服共々背中が焼け焦げたそうよ。そこに居た人間はみんな身体の何処かしらに大なり小なり火傷を負ったらしいわ」
「それが、その、鬼火の仕業なんですか?」
「財前さんの見解ではな」
「後日、別の人間が同じ場所で作業に当たっていたけど、また同じ事が起きたらしいわ。突然燃えるように辺りが熱くなり、気づいたら火傷を負っていた、と」
その現場を想像すると、鳥肌が立った。怖くてたまらなかっただろう。
「それって、どんな姿なんですかね」
「財前さんいわく、火その物らしいわ」
「火、そのもの、ですか・・・」
「ええ、ファイヤーよファイヤー」
いや、それはわかるんだが、その姿がイマイチ想像出来ない。
「俺達も見た事がないからな。確認してみない事にはわからん」
「でも、夜の山って視界も悪いし、ちょっと心配ですね」
「そおねぇ、でも夜のほうが人もいないし、あたし達も何かと動きやすいからね」
「ちゃんと現れますかね?」
「奴らは基本、夜に行動するからな。昼に人間を襲うんだ、夜はもっと活発になってるだろ」
「問題は、その場所にまだ居ればいいけど。ソレ自体が」
「これでも早く動いてるほうだろ。2度同じ場所で襲ってるからな、クセになってそこを離れていない可能性はある」