飲食店にて3
「さっきの連中は仲間か?」
元監守は気安い調子で訊いてきた。
「さあな」
「他の客は気づいてなかったようだが、俺はしっかり見てたぞ。あのうるせぇ客を追い払った男は銃を持っていた。あれも
「それをあんたに教える義理はない。そもそもあんたは今どういう立場なんだ? なぜ今更俺に声をかけてきた」
「お前が話しかけて欲しそうにしていたからだろ」
「あんたが話しかけたそうにしていたから待ってやってたんだ」
俺の答えを元監守は鼻で笑った。
「まぁそれでもいいけどな」
「質問に答えろ。あんたの人生に俺はもう関係ないはずだろう」
元監守はため息をついた。
「あるに決まっているだろ。お前のせいで俺の人生は滅茶苦茶だ。……俺はな、お前にどうにかして復讐してやろうとずっと計画を練ってきた。実行できるタイミングを窺ってきたんだ。そして、今日がその日だ」
背筋が凍えた。
元監守の低い声が耳に纏わりつく。
牢屋にいた頃のことをフラッシュバックして身震いした。
数秒の沈黙がやけに長く感じた。
その間俺は臨戦態勢に入っていたのだが、元監守は何も仕掛けて来なかった。
「……なんてな。冗談だ」
やがて元監守は哀愁が漂う口調でそう言った。
「俺がお前に固執しているというのは本当だが、別に復讐するためじゃない。俺は今、お前の起こした事件について改めて探っているんだ」
「ほう。それはまたどうして」
「あの事件はいくつか納得できない点があった」
「そうか。俺は納得できないことだらけだったが」
「思い返してみれば、務所に来たばかりのお前からは人を殺せそうな気配がなかった。俺にはお前に人を殺せるような勇気があるとは思えない」
「どうだろうな」
「なぁ。聞かせろよトリカブト。お前は本当に兄を殺したのか?」
「……話してやってもいいが、こんな場所で話すようなことでもないな」
「それもそうだ。場所を変えるか」
こんなところで人を殺したとか殺していないとかいう話をしていたらそのうち自警団に通報される。
面倒だが、俺たちは情報屋に行くことにした。
あの場所は情報の売買だけでなく、密談などにも使われる。
他の奴らに聞かれたくない話であれば個室を借りることもできるのだ。
俺たちは飲食店を出た。
その際に盗み見るように元監守の顔を見てみた。
こいつの面を見ても嫌なことしか思い出さない。
視覚情報としてトラウマが脳に飛び込んでくる。
もうなるべく見ないようにしよう。
外に出ると、もうかなり日が傾いていて暗くなってきていた。