天の巻
「この物語の登場人物の名前って、歴代の天皇からとっているんですね」
お、分かりましたか。さすが歴史オタク……あいや、歴史に造詣の深い
「その他随所に色々遊び心も入れてますね。例えば凛ちゃんの飼い猫の名が、一条天皇が実際に飼っていた猫から取ったとか」
それもご存知でしたか。さすがです。
「時空さんの新しい技『霊鶏の蒼炎』は、神武天皇が窮地に陥った際、助けに現れた
なんと!そんな事まで見抜かれましたか。
おみそれしました。
「あと私の名だけは天皇では無く、
す、鈴さん、それ以上はネタバレになりますので……
「事代主神は
だ、ダメだ……止まらん……
「そもそも神武天皇の東征で、最も大きな障害となったのが……」
わーっ!!わーっ!!
――プツン(筆者 強制終了)
*********
「一体、どういう事かしら?」
小ぢんまりした書道部の部室に、尊の声が木霊する。
いつの間にか、此処が神器を有する乙女らの会合場所となっていた。
「さあ、俺にもさっぱり分からん……ポリポリ」
「鈴さんの古書に浮き出たという事は、やはり
「神器を二つもっすか!?……ポリポリ」
「……ポリポリ」
「ちょっとあんたら、何
尊の凄まじい権幕に、時空、柚羽、晶、凛の四人が一斉に喉を詰まらす。
「まあ、そう怒んなって。こうして仲間も増えたんだし、親睦を深めるのも大事な事だ」
両手に煎餅を抱えながら、時空が弁明する。
「その通りです……あ、時空さん、今お茶入れますね」
「渋いの頼む」
「だから、年寄りみたいな会話してる場合じゃないでしょ!」
急須を持って立ち上がる柚羽に、尊の
「……確かに、悠長に構えている暇は無いかもしれません」
沈痛な
時空らが、煎餅を口に運ぶ手を止める。
「どういう意味だ?」
鈴は、眉をしかめる時空の顔を見上げた。
「神器には凄まじい力が宿っています。それは使い方によっては、この世を支配する事すら可能な、一種の最終兵器とも言えるものです。そして、仄がそれを二つ所有しているのは間違いありません。
淡々と語るその言葉の一つ一つが、時空らの心に重くのしかかるようだった。
「その二つの神器が、あの
尊が感情を抑えた口調で尋ねる。
「……分かりません。確かに道返玉の力で能力を開花させた点を見れば、神器の一部であるとは思うのですが……」
「一部?」
時空が鈴の言葉尻を捕らえる。
「あれが……あの剣が、二つの神器の本来の姿とはどうしても思えないのです……私が仄と出会った時見えた波長が、あの闘いでは一切見られませんでした」
その言葉に、全員の息を呑む音が聴こえた。
重苦しい空気が室内を押し包む。
「それじゃ……仄は二つの神器をどこかに温存しているというの?」
静寂を破るように尊が口を開いた。
「パワーアップした時空先輩ですら、
晶が、たまりかねたように声を上げる。
柚羽と凛も、同意するように大きく頷いた。
「恐らくは……そうだと思います」
鈴は視線を上げると、皆の顔を見回した。
「元々私が仄の誘いに乗ったのは、彼女の持つその神器が見たかったからです。
今さらながら、その場の全員が事の重大さを認識せざるを得なかった。
ただでさえ束になっても勝てなかった伊邪那美仄が、さらに強力な隠し玉を持っている……
その事実は、これからの闘いがいかに過酷なものとなるかを物語っていた。
「私たちも鈴さんの力で、時空さんのようにパワーアップ出来れば何とかなるのではありませんか?」
そう言って、柚羽が懇願するような目を鈴に向ける。
「能力を上げる事は可能だと思います。ただ……」
「ただ……?」
言い淀む鈴を、時空が首を傾げて促す。
「私には、皆さんの神器の輝きを見る事が出来ます。その強弱は、そのまま【神器の力の度合い】を示しています。輝度が高いほど、その神器の潜在能力も高いということです。そして……これは、とても言い難いのですが……」
鈴がうつむいて、言葉を詰まらす。
「はっきり言って、皆さんの神器には時空さんほどの潜在能力はありません。なので、道返玉を使っても仄に対抗出来るだけの力を得られるとは思えないのです」
苦渋の色を浮かべ言い放つ鈴。
皆の口から、大きなため息が漏れる。
「じゃあ、一体どうすれば……」
闘う
失意と落胆の空気が漂う。
「一つだけ手がある」
険しい表情の時空が、沈黙を破った。
「【
その言葉に、全員がハッとしたように顔を上げる。
「まだ見ぬ残りの二つを、仄より先に見つけるんだ」
*********
「本当に見つかるでしょうか?」
次の日の昼休み、時空は鈴を連れて校内を巡回していた。
「ああ。何故かは分からんが、今まで見つかった神器の継承者は、俺も含めて全てこの学校の生徒だった。残りも必ず此処の誰かが持っている筈だ」
神器を探し出すには鈴の古書、つまり道返玉を使うしかない。
近くにあれば、必ず反応が現れる筈だ。
他のメンバーとも相談し、交代で鈴を連れて捜索することにしたのだ。
「せっかくの休み時間なのに悪いな」
「そんな、やめて下さい。時空さんたちは私を救い出してくれた恩人です。そして今は、同じ【十種神宝】を有する仲間なんですから」
「そう言ってもらえると心強いよ」
頭を掻きながら笑みを浮かべる時空を見て、鈴はクスっと笑った。
「ホント、伊織の言った通りの人だ」
「え、何がだ?」
きょとんとする時空に、鈴も微笑み返す。
「伊織ったら、口を開けば時空さんの話ばかりするんですよ。主将はすごく強くて、すごく明るくて、すごく優しいんだぞって」
「そっか、あいつがそんな事を……」
時空は、照れ臭そうに頬を掻いた。
「私もこうして実際にお会いしてみて、改めて確信を得ました」
「え、確信って……!?」
「時空さんのルーツです!」
驚いた顔で見返す時空に、鈴はやや興奮気味の口調で言った。
「ご存知ですか?神武という苗字の人って、全国に五百人ほどしかいないんですよ。しかも大半が『ジンム』では無く、『コウタケ』と読むそうです。その起源については、神武天皇に起因しているとする説が有力なのですが……だから時空さんのように、神武天皇と同じ読み方をする苗字は珍しいんです」
「神武天皇って……どっかで聴いた事があるな」
時空は、何かを思い出すかのように宙を睨んだ。
「私は……実は時空さんと神武天皇との間には、何か深い繋がりがあるのではないかと考えています。一連の事件が、【十種神宝】を中心に起こっているのがその
鈴は胸の前で手を合わせ、大きな瞳を輝かせた。
情熱的な子だ……
単に、好奇心旺盛なだけではない。
豊富な歴史知識と卓越した洞察力も兼ね備えている。
自らの探究心を満たすためなら、この少女はどんな苦難も
その澄んだ瞳を見つめながら、時空は不思議な感覚に捉われた。
生まれてからこの方、自分のルーツに興味を持った事など一度も無かった。
親に、自分の名前の由来について尋ねた事も無い。
ただ当たり前のように口にし、当たり前のように使ってきただけだ。
鈴の話では、自分は神武天皇と何か因縁があるらしい。
どんな人物で何をした者かは知らないが、彼女がここまで公言するにはよほど重要な事なのだろう。
ならば、自分も知っておく必要がある。
「その……神武天皇について、教えてくれないか」
時空は、嬉しそうに頷く鈴と肩を並べて歩き出した。
その内容が、