18
「・・・あい」
「あっ、そうそう、忘れるとこだったわ」
そう言うと、早坂さんは後部席のドアを開けて中から紙袋を取り出した。それをわたしに渡す。反射的に受け取ったが、ズッシリと重い。
「なんですかコレ?」
「今日の残りよ」
「えっ!・・・また頂いていいんですか?」
「そう思って多めに作っておいたの。冷凍も効くから、ゆっくり食べなさい」
「嬉しすぎる・・・」
「いい?お酒ばかり飲まないで、ちゃんと栄養のある物を食べなさい。睡眠も大事よ。若いからって油断してると後々出てくるんだから」
オカンモードが発動した。
「若くないですが、気をつけます」
早坂さんの手がわたしの頬に出来た吹き出物をチョンと小突いた。
「早く治るといいわね」
「ああ・・・まあそのうち、治ります」
「まあ、何が出来ようとあなたの可愛さは変わらないから大丈夫よ」
──こういうところが、たらしだと思うんだけどなぁ。
「顔にドデカいイボが出来ても、そう言えますか」
「ええ」 即答だ。
「顔中がホクロだらけになっても?」
「ええ」
わたしが懐疑の目を向けると、早坂さんはニコリと笑った。
「言ったでしょ、あなたは内面から滲み出る可愛さがあるの。イボが出来ようが巨漢になろうが可愛いわ」
あまりの清々しい言い様に、噴き出さずにはいられなかった。
「巨漢になったらなったで怒られそうですけどね、不摂生だって」
「大丈夫よ。その前にあたしが止めるから」
「お願いします」
「でも、あなたはもう少し太ったほうがいいわ」笑っていた早坂さんが真顔になった。「身体の線が細すぎるわ。そのうち骨が飛び出るわよ」
「・・・至って平均体重ですので、ご心配なさらず」
「嘘おっしゃい。あなた、内臓入ってないんじゃないかと思うくらい軽いわよ。言われた事ない?」
「・・・そもそも、自分の体重がわかられるような状態になった事がないので。誰かを除いて」
「まあ、そうね。そんな事はなくていいんだけど」──出た、"得意"の意味深発言。なくていいと思う、その理由(ワケ)は?そこが1番知りたいところなのですが。「ちょっと、再確認してもいい?」
早坂さんの手が伸びてきて、わたしは素早く後ろに引いた。
「帰ります」