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この厚みは、なんだろう。
破れないよう慎重に封を開け、中を見て、手が止まった。
1万円札だ。それも、1枚ではない。数えると、計10枚だった。そして、2つに折られた便箋が1枚。
【卒業したら、これで良い財布を買いなさい。
財布は人に見られる。せっかくの美人が台無しだぞ。良い物には良い物が寄ってくる。雪音の人生もそうでありますように】
──前に、この部屋で話した事を思い出した。
わたしの財布を見たおばあちゃんは、わたしの手から取り上げ、まじまじと見ていた。そして、"何だこの財布は、ぼろ雑巾のようじゃないか"と。その言いように、思わず笑ってしまった。
ぽつぽつと、便箋に水滴が落ち、インクが滲む。目から込み上げる物に、抗うことが出来ない。
おばあちゃん。卒業したらって、その時、自分で渡そうとは思わなかったの?
そうしてほしかったよ。
もしかしたら、おばあちゃんは何かわかっていたのかな。何か感じていたのかな。自分の事は語らないおばあちゃんだから──。
死ぬ時は、誰にも迷惑をかけず、家で死にたい。生前、おばあちゃんがよく言っていた。
本当に、その通りになったね。おばあちゃんらしいよ。
堰を切ったように溢れ出す涙が、テーブルに溜まる。叔父たちに聞こえようが構わない、嗚咽を漏らして泣いた。
寂しい。寂しいよ、おばあちゃん。
ありがとう。