第23話 恐怖に震える元仲間たち
倒しても次から次へと出て来る魔物に焦りを見せるアドナたち。
「おい、いつになったら魔物がいなくなるんだよ。そろそろ魔力がやばいぞ」
「っていうか魔物たち、さっきより強くなっていない?」
キルコが息を荒げながら叫ぶ。全力で遠距離攻撃を放っているキルコは感じていた。
最初の方は一撃で倒していた魔物。同じ外見をしている「ゾイガー」であったが、時がたつごとに一撃では倒しきれないほどになり、今戦っているゾイガーに至っては二発直撃させても落ちなかったのだ。
「ああん? お前が魔力を無駄遣いしているからじゃねぇのかよ!」
余裕のないウェルキは舌打ちをして怒鳴りながら言葉を返していく。
「バカじゃないのウェルキ。しょうがないじゃない、こいつら、やたらと守ってくるんだもの。あんただってそいつを倒すのにさっきより時間がかかってるじゃない」
苦戦を繰り返す彼ら。次第にギスギスする雰囲気。
キルコの言葉は、ウソではない。
これは魔物たちの周到な戦術なのだ。
ゾイガーは個体の中でも戦闘力に差がある存在。
まずは弱いゾイガー達を冒険者の前に配置させ、こいつらは楽勝だと錯覚させる。
そして冒険者たちの体力が消耗したころに強力な個体を出現させ、いたぶっていくのだ。
おまけにできるだけ防御術を使い相手の魔力を消耗させる。なので現れる魔物たちの強さが強くなったころには冒険者たちは魔力がなくなってきて戦うすべがなくなってしまうという事なのだ。
普通であればパーティーに一人はこう言った魔物に関する知識が精通した人物がいて、弱点をついたり、罠を見抜いて魔力のペース配分をパーティー全体で考えたりする。
フライがいれば間違いなくその作戦に気付いて、魔力の消耗を抑えながら戦っていただろう。
しかしそれを調整していたフライはすでにいない。ただ釣り針のえさに何も考えず飛びつく魚のごとく、目の前の敵と戦闘をしている。
フライの術式がない中で、ただ闇雲に戦い彼らは苦戦を続けていた。
「クソっ、なんでつぇぇんだよこいつらは!!」
それでも必死に戦う彼ら。ウェルキがそう叫ぶと、後方でミュアが叫ぶ。
「ウェルキ、横から来てる。危ないわ!」
「わかってるよ。このクソ野郎!」
ウェルキが横にいるゾイガーから攻撃を受けたその瞬間──。
「みんな、危ない!」
ミュアは叫んだあと、得意の障壁を繰り出す。魔物はよけきることができず、直撃するしかないと思ったその時。
グォォォォォォォォォォォォォォ!
ゾイガーが大きく叫び始めると、彼の肉体が強く光始める。そして放たれた攻撃とゾイガーの間にガラス窓のような透明な壁が出現。
そしてその透明な壁にミュアの攻撃が衝突し始めると──。
「私の攻撃が、消えた?」
何とミュアの攻撃が壁に吸収され消滅してしまう。そしてその直後、その攻撃がミュアたちに向かってはじき返され始めたのだ。
予想もしなかった光景にアドナたちは言葉を失う。そして攻撃は彼らに直撃。
ドォォォォォォォォォォォォォォォン!
「ウソ。私の威力より、強くなってる?」
ミュアは攻撃を受けながら肌で感じる。
この攻撃。自分が受けたものよりずっと強くなっていることに──。
そう、この術式はただ相手の攻撃を返すだけじゃない。
「ミラー・ヴェーリング」というベール。受けた魔法攻撃を二倍にしてはじき返す特殊な術式だ。
何も考えずパワーだけで戦おうとしている冒険者たちは知らずに強力な術式を繰り出し、返り討ちにできる。
この術式のことを知らないアドナたちは攻撃を防ぐことができず、ミュアの二倍の威力を持つ攻撃を見事に受けてしまった。
全員が壁際に吹き飛ばされる。
「くっ──。こんなふざけたからめ手を持っていたとは……」
アドナが体を抑えながらも何とか立ち上がる。そして視線をゾイガーの方向に向けると、何かがやってくることに気付いた。
「──貴様。どうしてここにやってくる? あの時切り捨てたはずだ。貴様は」
「アドナの言う通りよ、あんた、死んだはずじゃない!」
キルコは心が恐怖に染まりながらその魔物をじっと見つめる。
そこにいたのは体長は十メートルほど。怪獣のような外見に、深海魚のような奇妙な顔つき。
そう。昨日、ダンジョンで戦っていた敵、ポルセドラだ。
「でも、明らかにオーラが違うよね」
ミュアの言葉に、誰も反応しない。否定しているのではない。全員理解している、昨日までのポルセドラは、どこか手加減をしていたのだと。力を抑えていたのだと。
しかし、今回は違う。昨日とは比べ物にならないほどの魔力のオーラを感じる。
数字で正確にわかるわけではないが、昨日の二倍以上はあるだろう。
そして彼らを今にでも取って食おうかという殺意。明らかに彼らに対して敵意を持っているのが理解できる。
恐怖に震えて彼らに言葉を発する余裕などなかった。
アドナは咳をしながらゆっくりと立ち上がる。
彼は感じていた。この強さ。
絶対的ともいえる差があり、どれだけあがいても勝てる気がまるでしない。
しかし、逃げ道などない。このままこいつらに殺されてしまうのだろうか──。
「強すぎる。まるで打つ手が無い」
彼の心が絶望で染まっていこうとしているとき。
(──何だ)
誰かが自分の肩をたたいているのに気づく。
背後を振り向くとそこにいたのは──。
「トラン。笑いに来たのか?」