27「第一部、完。そして第二部への壮絶な引き」
俺(俺の人生、何だったんだろう……)
落下しながら、俺の後悔は続く。
俺(女神の都合で殺されて、利用されて、こんな理不尽な世界に放り出されて、無茶苦茶なスキルを押し付けられて。
それでも、上手く立ち回ってるつもりだったんだ。
俺ならやれる、って大した根拠もなく信じてた。
けど……)
それは、勘違いだった。
とんでもない思い上がりだった。
実際は、こんな結果だ。
責任から逃げ回った挙げ句、俺について来てくれたみんなを危険にさらして、当の俺自身は死につつある。
俺(せっかくプロポーズして、OKまでもらったのに……。
可愛かったなぁ、リリン。
あんな素敵な子がお嫁さんになってくれるなんて、夢みたいだ。
……いや、これは夢だったんだ。
俺を憐れんだ女神様が、ほんの数日だけ見せてくれた、淡くはかない夢)
「――!
――――ッ!」
俺(死ぬ前に、リリンの唇にキスしてみたかったなぁ。
できれば、その先のことも)
リリン「――ッ! レジ! レジ!!」
俺「えっ!?」
目を開くと、目の前にリリンがいた。
俺と同じように、頭から真っ逆さまに落下中のリリンが!
俺「えええええっ!? 何してんの!?」
リリン「来てしもうた(ハート)」
俺「いや、可愛く言ってもダメだからね!?
え、何、ホント何、どういう状況?」
リリン「ガブリエラに投げ飛ばしてもらったのじゃ。
あやつの膂力は凄まじいのぅ」
俺「なるほどガブリエラが……じゃなくて!
なんで、そんなことしたんだよ!?」
リリン「そなたが死ぬ時は、余も死ぬ時じゃ。ひとりで逝かせはせぬよ」
俺「無駄死にじゃないか!」
リリン「そうでもない。そなたの【収納星】ならば、この窮地から脱することもできよう」
俺「そんなっ、どうやって!?」
リリン「例えば、空気を大量に【収納】しておいて、着地寸前に地面との間にその空気を出す、とか?
他にも、地面をごっそり【収納】して、【目録】の中でフワフワになるまで細かく砕き、クッションのようにして地面に敷き詰める、とか?」
俺「激突寸前の一瞬で!? そんな
――ぎゅっ
と、リリンが俺の手をつかんだ。
リリン「できないわけがない(ニヤリ)。
そなた今、『神業』と言ったな?
神にできることが、【神】級超えの【収納星】であるそなたにできないわけがないじゃろう」
俺「…………。――ぷっ、あはっ、あははははははっ!」
俺(なんだこれ、なんだこれ!?
胸の奥が熱い。無限に自信がわいてくる!
リリンがそばにいてくれれば、何だってできる気がする!)
リリン「何はともあれ、まずはそなたにスキルを戻さねば。
見よ、地面が薄っすらと見えてきた。急ぐぞ。
ほれ」
リリンが、その最っっっ高に可愛い顔を寄せてきた。
リリン「ちゅーじゃ。はよぅ――んぐっ!?」
感極まった俺は、思わずリリンの唇にキスをした!
リリン「っ!? あ、阿呆! 唇にキッスするなど、子供がデキたらどうする――」
俺「子供がデキて、何が悪い?(ニヤリ)
俺たち、結婚するんだろう?」
リリン「!!(真っ赤)」
俺「ほら、ちゅーだ」
リリン「~~~~~~~~ッ!!」
リリンの体を手繰り寄せ、俺はもう一度、リリンの唇にキスをする。
すると、俺の体に力がみなぎってきた。
リリンの【色欲】スキルが解除され、【収納星】の力が戻ってきたんだ。
――ゴァァアアアァアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアッ!!
オリハルコン・ドラゴン・クイーンの姿が見えてきた。
こちらに向けて、大きく口を開いている!
またブレス攻撃が来るのかと身構えていると、
――ワタシノ可愛イ子供タチォォォオオオオオオオオオオオオオッ!!
俺(喋れるのかよ!)
俺「悪いけど、俺はエンデ村を守らなきゃならないんだ。これでも、領主名代だからな。
――――――――【収納】ッ!!」
――シュンッ(クイーンの首から先が消滅する音)
俺(クイーンは倒した。
さて、問題はここからだ。地面はもう、目の前。
対応を一つでも間違えれば、俺たちはぺしゃんこだ)
俺「リリン、俺の中に入っていてもらえる?」
リリン「任せた」
俺「【収納】!」
――シュンッ(リリンが【収納】される音)
俺(もう、激突寸前だ!
上空から大量の空気を【収納】しておいて――――……3、2、1、今!
空気よ、俺と地面の間に出ろ! 【収納】!)
――ぶわぁあああっ!(大量の空気が発生する音)
――ふわり、すたっ
奇跡としか言いようがない曲芸によって、俺は無傷で地面に降り立っていた。
俺「い、生きてる! 上手くいった!
って、うわわわっ、クイーンの死体が倒れてくる! 【収納】!」
――シュンッ(クイーンの巨体が【収納】される音)
俺「あー、びっくりした。
あ、そうだ。リリンよ、出ろ。【収納】!」
リリン「レジ!? 上手くいったのじゃな!? さすがは余の夫じゃ!」
俺「リリンに言われたとおりやってみたら、できたよ。何もかもリリンのおかげだ!」
リリン「つまりはふたりのおかげ。夫婦の共同作業というわけじゃぁ」
――ギャギャギャギャギャッ!
――グォォオオオオオオオッ!
――バウワウッ!
俺「うわっ、魔物が押し寄せてくる!」
俺(クイーンが死んだから、戦いを強制させる力が失われたってことなのかな?)
俺「リリン、俺の後ろに隠れてて」
リリン「うむ」
俺「【収納】!」
――シュンッ(魔物の大軍が、周囲の樹木ごとごっそりと消える音)
追撃に来ていた領軍兵士「き、消えた?」
兵士「奇跡だ!」
兵士「ストレジオ様、今のは?」
俺(や、ヤバい!)
リリン「レジ!」
リリンが俺を藪の中に引きずり込む。
リリン「ほれ、早く! ちゅーっ」
俺「お、おう。ちゅーっ」
再び【色欲】が発動し、俺は【収納聖】に、リリンが【収納帝】になる。
リリン「【収納】! 【収納】! 【収納】!」
依然として周囲に残っていた魔物の残党を、リリンが次々と【収納】していく。
すべてを狩り尽くせたわけではなく、大半は森の奥へと逃げ帰ってしまったが、まぁ仕方のないことだろう。
狩り尽くしてしまったら、それはそれで冒険者たちがここに来てくれなくなるし。
兵士「奇跡だ……!」
兵士「初代皇帝――【収納帝】の再来だ!」
兵士「あの娘は何者なんだ!?」
魔物の残党のことよりも、今はこの場を収めることだ。
けど、あとは全部、リリンに任せれば大丈夫だ。
リリン「刮目せよ!!」
兵士たちの注目が、リリンに集まる。
リリン「オリハルコン・ドラゴン・クイーンの首よ、いでよ! 【収納】!」
俺(リリンにタイミングを合わせて――【収納】!)
――でぇぇえええええんっ!(クイーンの首が現れる音)
リリン「戦士たちよ、敵将の首はこのとおり、メディア帝国第一皇女のリリン・メディアが討ち取った!
我らの勝利じゃ!
兵士「……え?」
兵士「皇女様だって?」
兵士「マジかよ、おい、マジかよ!」
兵士「あの首、本物だ! そもそも、あれだけ大きかった超巨大ドラゴンの姿もない」
兵士「ってことは――」
兵士たち「「「「「【収納帝】の再来だぁあああああッ!!」」」」」
――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!
――ばんざーい! ばんざーい!
――リリン陛下、ばんざーい!
俺(は、はは……『陛下』だって。リリンも訂正する気、まったくなさそうだし)
――ざざっ(血まみれのメイドと、ガブリエラがリリンにひざまずく音)
俺「ブルンヒルド! 無事だったんだな!」
メイド「初討伐の時と同じです。内側から斬り殺してやりましたよ。
それよりも、レジ坊ちゃま、今は」
俺「ああ、そうだな」
――ざっ(俺がリリンにひざまずく音)
俺(あーあ。これでもう、俺は世間から、リリンの腹心にして夫だと認識されたわけだ。
スローライフは、これで終わり。
とはいえ、俺は名実ともに【収納聖】。教祖ルートも実験動物ルートも反逆者ルートも回避できたわけだ。
問題は、皇位継承戦にバリバリ巻き込まれることだけど……まぁ、それは仕方がない。
俺はもう、リリン無しじゃ生きられないくらい、リリンに惚れ込んでしまったんだから)
◆ ◇ ◆ ◇
3年後――。
エンデ温泉郷の中心、リリン邸にて。
――ドタバタドタバタッ
――バーン!(クララが執務室の扉を開いた音)
俺「どうしたんだクララ、そんなに慌てて?」
クララ「大変です! 帝都にて、皇帝陛下が倒れられたとの急報が!」
リリン「ついに、この時が来たか」
リリンが立ち上がる。
3年が経ち、13歳になったリリンは、街を歩けば10人中20人が振り向くほどの(二度見という意味で)、絶っ世の美っっっっっっ少女へと成長していた。
俺も立ち上がる。
俺はまだ10歳だが、リリンには及ばないまでも背が伸びて、多少は村長名代らしくなった。
リリン「余はこれより、帝都へ向かう。
余を呪いで苦しめてくれた長男だか次男だかと、そしてこの国をじわじわと衰退させていった皇帝と、決着を付けねばならんのでな。
【収納帝】リリン・メディアの覇道の始まりじゃぁ。
レジよ、ともに来てくれるな?」
俺はうやうやしくひざまずき、リリンの手を取る。
その手に、そっと口付けした。
俺「もちろん。リリン、俺だけのお姫様」
――――――――第一部『始まりと出逢い篇』、完。
◆ ◇ ◆ ◇
最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました!