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21「ヤバい、マジで惚れたかも……」

 数時間後、俺とメイドの家にて。

リリン殿下「いやぁ、恥ずかしいところを見せてしまったのぅ」

 幸い、リリン殿下は数時間で目覚めた。

リリン殿下「うーんっ(伸び)。
 安心せい、どこも悪くはない。体が少し、びっくりしてしまっただけなのじゃ。
 何しろ余は、クソ長男だかクソクソ次男だかがかけてきおった『呪い』のせいで、物心ついたころからずーーーーっと半寝たきりの生活じゃったからな。
 この数日は、『呪い』が消えたお陰で心身ともに絶好調で、羽でも生えた心地じゃったのじゃが、実際は相当疲れておったらしい。
 このとおり、全身バキバキじゃぁ(ゴキゴキッ、バキバキッ)」

俺(そ、そうか。リリン殿下は、俺のためにムリをしてくれていたのか!
 可愛くて、有能で、度胸もあって、頭も良い上に、気立てまで優しいだなんて!
 マズい。本気で惚れそう……いや、もう手遅れかも)
俺「ご、ごめんなさいっ。俺がムリさせてしまったばっかりに……」

リリン殿下「気にする必要はない。
 この数日は、本当に楽しかったのじゃから」

俺「楽しかった? 俺が無理難題を押し付けてたのに?」

リリン「などと言うわりには、いつもそばで見守ってくれておったではないか。
 農作業中も、足を取られて転ばぬように、そっと小石を【収納】してくれておったし。
『魔の森』での狩りの時など、余の目の前にいる魔物以外は、細心の注意を払って【収納】してくれておったじゃろう?」

俺(バレてないと思ってたのに……よく見てる。
 まぁそりゃ、俺は精神年齢17歳で、リリン殿下は10歳だもの。
 ムリをさせる以上、最低限の面倒を見るのは当然だよ)

リリン殿下「繰り返すぞ。余は、楽しかったのじゃ。この数日は、夢のような毎日じゃった」

俺(なんか、死亡フラグみたいな言い方はやめてほしい……)

リリン殿下「そして、これからも」

 ――ぎゅっ(リリン殿下が俺の手を強く握る音)

俺「~~~~~~~~ッ!」

リリン殿下「それにしても……すんすん。これが、未来の夫の匂いか」

俺「ちょっ、布団を嗅がないでくださいよ(真っ赤)」

リリン殿下「おや? ずいぶんとしおらしいな。
 そなたは、余のこういう行動に忌避感をいだいているものと思っておったのじゃが」

俺「…………!」
俺(ヤバい。俺、今、全然嫌じゃなかった。
 この短期間で、確実に惹かれつつある。好きになりつつある)




クララ「レジ様!」




 クララが駆け込んできた。

クララ「大変です! 領主様――ソリッドステート辺境伯様からお手紙が来ました!
 カラクリ鳩便です! 至急です!」

俺「父上から?」

 手紙の内容は、シンプルなものだった。

『明日行く』




   ◆   ◇   ◆   ◇




 翌日、本当に父がやって来た。
 護衛従士十数名に守られた鉄製の馬車が、エンデ温泉郷の門をくぐる。
 ソリッドステート辺境伯家の紋章が刻まれた馬車は、村長宅の庭に入る。
『村長宅』と言っても、ガブリエラ(の裏に潜む俺)が領都から引き取ってきて建てた、それなりに大きな屋敷になっていたが。

父「ふん。【収納聖】の恥さらしめ」

俺「…………(頭を下げる)」

父「お前たち、人払いをせよ」

護衛従士たち「はっ!? よろしいので!?」

父「早くしろ」

従士たち「「「「「ははっ!(どたばたどたばた)」」」」」

 村長宅の応接室には、
 父、
 俺、
 メイド、
 クララ、
 ガブリエラ、
 そしてリリン殿下だけが残される。

父「ストレジオよ、この者たちは?」

俺「(顔を上げる)全員、存じ上げております」

父「お、おぉぉ……(涙)。
 ストレジオぉ~~~~~~~~ッ!(俺に抱きついてくる)。
 大丈夫だったか!? どこも怪我はしておらぬか? 風邪を引いたりもしておらぬか!?
 本当にすまなかったな。
 お前のためを思ってのこととはいえ、冷たく当たってしまって……」

俺「いえいえ(父を抱きしめ返す)。
【収納星】のことを思えば、当然の処置ですよ。
 それに、父上はメイドを付けてくださったではありませんか。
 メイドには本当に、何度も命を救われました。
 父上のご差配のお陰で、こうして私は今日も元気にしております」

父「お前、なんだかずいぶんとしっかりとしたな? 凛々しくなったというか。
 背も伸びたような?」

俺「ひと月ほどのことです。さすがに身長は気のせいかと。
 ですが、名代とはいえ領主の勤めを果たしているからか、少しは大人になれたのかもしれません」

父「うぅぅっ……ストレジオ、立派になって」

俺「それで、父上」

父「あぁ、そうだったな。私がここに来たのは、とても手紙では伝えられないような、極秘の話が3つあるからだ」

俺「ほう、3つも」

父「まず1つ目だが」

 父が、リリン殿下に向かってひざまずく。

父「愚息が大変お世話になっております、殿下。
 ご挨拶が遅くなりましたこと、大変申し訳ございません」

俺(情報はっや!? 俺まだ、この子がリリン殿下だって明かしてないんだけど!?
 もしかして父、この村にスパイとか放ってる!?)

 ――つんつん(メイドが俺の肩をつんつんしてくる音)

俺(あ、そうか。
 スパイの正体! それは意外――でもなく、メイドだった!
 メイドが都度、父に報告してたんだな。
 メイドの仕事は俺の護衛 兼 監視だから)

リリン殿下「よいよい。
 レジには大変助けられておる。いずれ、母君にも挨拶に伺わねばな」

父「ははーっ」

俺(…………ん?
 あれ? もしかして、今この瞬間、父と殿下の中で、俺と殿下の婚姻が決まった?
 いやいやいや、怖い怖い怖いって)

父「次に、2つ目」

俺「は、はい」

 ――ごちーん!(父が俺にげんこつを落とす音)

俺「痛ぁ!?」

父「このっ、バカ息子がぁ!
 井戸を掘ろうとして、温泉を掘り当ててしまったというのは、まぁ百歩譲って理解できる。
 だが、調子に乗ってこんな巨大な温泉郷を作るとは何事だ!
 お前、自分が【収納星】だと世間にバレたら大問題になると、ちゃんと理解しているのだろうな!?」

俺「だっ、だって! クララが『村を繁栄させて、商人を誘致したい』って言うから!」

クララ「えええっ!? 私のせいですか!?」

父「ストレジオ! 他人のせいにするとは何事だ!
 何を、子供みたいな言い訳を――――……あぁいや、実際子供だったな。
 というか、そういう7歳児のお目付け役としてお前を付けたのだが……メイド?」

メイド「っ!(滝汗)
 だ、だって! 嬉々として温泉を掘り当てるレジ坊ちゃまが、あまりにも可愛らしくて!」

父「…………(ジト目)。~~~~ッ!(悩む)
 ――分かる」

メイド「ですよね!?」

父「はぁ。お前が可愛すぎるからいけないんだぞ、ストレジオ」

俺「は、はぁ」
俺(父といいメイドといい、親バカばっかか)

父「まぁ良い。いや、全然良くはないのだが、掘り当ててしまったものと、建ててしまったものは、もはやどうしようもない。
 メイドよ、今後はしっかりと、ストレジオの行動に注視するように」

メイド「ははっ」

父「さて、3つ目」

 父が、深刻そうな顔をする。

父「ここのところ、『魔の森』の魔物たちがひどく活性化しておる。
 近く、魔物の大暴走(スタンピード)が発生するかもしれぬ」

俺「えっ!? なんで!?」

父「始まりは、オークの生態系の乱れだった」

俺(あぁ。ガブリエラたちが奴隷商に命じられて、オリハルコン鉱山のオリハルコン・ドラゴンたちを追い出したのが発端の)

父「だが、ここ数日の魔物の活性化は、とても看過できぬ。
 スタンピードは起きる。近いうちに、ほぼ確実に」

俺「でも、どうして」

父「理由は複合的だ。
 まず、『魔の森』の生態系の頂点にいたオリハルコン・ドラゴンたちが一斉に姿を消した」

俺(……は、はい。俺の【収納】の中で、大量に眠っておりますとも)

父「そして、伝説級の魔獣の反応が、大量に消失している」

メイドとガブリエラ「「…………」」

父「これにより、『魔の森』の生態系は決定的に乱れた。
 併せて、森のすぐ隣――エンデ温泉郷に大量の人間(エサ)が闊歩していることも大きいな」

俺「俺のせいじゃん!?」

父「お前のせい、とは言わぬよ。お前はただ、エンデ村の惨状を救おうとしただけなのだからな。
 だがまぁ、巡り巡って結果として、このような結果になったのは事実だ」

俺「なんてこと……。
 あれ? でも、父上はどうやって、この状況を感知したのですか?
 毎日、森に潜っている私たちですら、気づいていなかったのに」

父「エンデ村の者たちにも内密にしていたことなのだが……
 実は、『魔の森』の地中には多数の魔物検知装置を埋め込んでおってな。
 それによって、ソリッドステート辺境伯――つまり私は、領都にいながら、領境である『魔の森』の状況を知ることができるのだ」

俺「そんな装置が!? でも……(ちらり、とクララのほうを見る)。
 村の者たちには、知らせていなかったので?」

父「うむ。まぁ……非常に、非っっっっ常に高価な魔道具だからな。
 万が一にも、掘り起こされて売り飛ばされたりしないよう、情報は秘匿していたのだ」

俺「この村にそんなことをする人はいない……あぁでも、温泉郷化で人の出入りは増えたか」
俺(前世でも、電線とか室外機とか盗まれてニュースになってたからなぁ。冒険者の出入りが多いことを考えると、残念ながら父の判断は妥当か)

俺「っていうか、スタンピード発生間近って、ヤバいじゃん!?」

父「あぁ、ヤバい。だからこうして、私が直接来たのだ」

俺「父上も危険なのではないですか?」

父「あぁ、危険だ。だが、この村は――いや、村? もはや村の規模には収まらぬ気がするが、まぁそれは置いておいて。
 この村もまた、ソリッドステート辺境伯領の一部。私が守るべき土地だ。
 そして、この村に住む者たちは、私が守るべき領民なのだ。
 だから私が直接、視察に来た。近日中に、領軍を引き連れて再びやって来よう」

俺(か、カッコいい! 父、やっぱり辺境伯なんだな。
 あれ? でも……)
俺「守るべき土地……のわりには、エンデ村には当初、木製のペラペラな壁しかなかったんですけど」

父「うぐっ。お前も知ってのとおり、ソリッドステート領は広大で、守るべき領境が多くてだな」

俺「でも、『魔の森』のすぐ隣なのに……」

父「うぅぅ……」

俺「父上は領地を守ると同時に、魔物たちから帝国を守っているのですから。
 中央政府からの援助などは出ていないのですか?」

父「バカ者! 殿下の前で――」

俺(あ、しまった! 思いっきり皇室批判だった!)

 恐る恐るリリン殿下の顔を見てみれば、リリン殿下は薄っすらと微笑んでいた。

リリン殿下「よいよい。事実なのじゃから。
 あの愚かな父は、宮廷貴族どもの機嫌を伺うことに汲々(きゅうきゅう)としておる。
 父が支配する土地は、王都近縁だけではないというのに。
 そしてあのクソな長男と、長男の腰巾着の次男は、ともに父の愚かさに意見できず、どころか迎合しておる有り様じゃ」

俺「ど、どういうことですか……?」

リリン殿下「始皇帝たる【収納帝】は、周辺諸国の敵軍を文字どおり【収納】し続けることで、強引に国土を広げた。
 始皇帝は根は善性の人物であって、支配地域を圧政で苦しめるようなことはせず、結果として流通が活発化して国土全体が豊かになったから、被征服地の異民族たちは【収納帝】による支配を受け入れた。
 じゃが、異民族たちが受け入れたのは圧倒的武力と慈愛を併せ持つ【収納帝】の支配であって、メディア帝国の支配ではない。
 地方を顧みぬ無能な【従魔王】なんぞに、従う義理などないのじゃ」

俺「…………」

リリン殿下「このままでは、内戦は避けられぬ。
 地方領主たちには、帝国貴族と異民族の混血が多いからな。
 そして、そんな地方領主たちの希望の星になり得るのが、そなた――ストレジオ・ソリッドステートなのじゃ」

俺「【収納星】……前代未聞、人類未踏の【星】級スキル保持者、か」

リリン殿下「そなた、この国の支配者になりたいか?
 そなたがそれを望むなら、余はそれを拒めぬ。余は所詮【収納伯】であり、そなたは【王】、【帝】、【天】、【神】を超えた【収納聖】じゃ。
 余がいくら抵抗したところで、そなたが余を【収納】して、【目録】内で余の首と体を分離すれば余は死ぬのじゃから」

俺「そ、そんなことするわけないじゃないですか!
 そもそも俺は、人の上に立つとか、とういうのがめちゃくちゃ苦手なんです」

リリン殿下「ふふっ、そうであったな。
 そなたがあまりに可愛いから、つい意地悪を言うてしもうた。許せ」

俺「ななっ……(赤面)」

リリン殿下「というわけなので(父の方へ向き直る)。
 余が、レジに代わって立とうと思う」

父「殿下が、お立ちになる?」

リリン殿下「うむ。実は余には、【色欲】というとんでもねースキルがあってじゃな。
 かくかくしかじかで――」

父「なっ、なななっ!?
 他者のスキルを奪えるスキルですって!?
 で、ででで殿下(ぶるぶる震える)、それ、極秘なのでは……?」

リリン殿下「極秘じゃぞ? 漏れたらそなたらの首は飛ぶと思え」

俺・父・メイド・クララ・ガブリエラ「「「「「ひえっ!?」」」」」

リリン殿下「レジの言う『チーム【収納星】』とやらに、そなたも組み込まれるというわけじゃ、ソリッドステート卿よ」

俺(なんか、乗っ取られてる……? まぁいっか)

父「かしこまりました、殿下。
 では、レジよ。私はいったん領都に戻って、領軍を編成する。
 お前は殿下のお力添えを得て、『限りなく【伯】級に近い【収納聖】』になっておくのだ。
 何しろ領軍は我が領の常備軍であり、精鋭。
 他人のスキルに敏い者も多いから、お前が【収納星】のままだと、バレる恐れがあるからな」

俺「分かりました。
 それで、殿下? 【色欲】スキルを発動させるには、具体的には何をすれば良いのですか?」

リリン殿下「うむ。余とスキル発動対象――つまりレジが、『契り』を結べばよい」

俺・父・メイド・クララ・ガブリエラ「「「「「ぶーーーーっ(お茶を吹く)」」」」」

俺(ち、ち、契りって……まさか、S◯X!?!?!?)

しおり