1「生まれ変わったら【神】どころか【星】だった」
この世界には、『スキル』がある。
そしてスキルは、9階級に分けられる。
例えば【剣】スキルを例に取ってみると――
【剣士】……剣を上手に扱えるスキル
【上級剣士】……剣がめちゃくちゃ上手に扱えるスキル
【剣聖】……剣で無双できるスキル
ここまでが『平民3級』。
【剣聖】は冒険者の間では引く手あまた。
俺TUEEEEEEEEEEEEできる最強のスキルだ。
だけど、上には上がいる。
その、『上』というのが、
【剣伯】……剣の腕で土地を切り拓いて領主になれるほどのスキル
【剣王】……剣の腕で国を興せるほどのスキル
【剣帝】……剣の腕で複数の国を征服できるほどのスキル
これが『貴族3級』。
俺が住んでいる『メディア帝国』は、【収納帝】が興し、周辺諸国を飲み込んで成立した国だ。
【帝】は、人間の到達できる実質的な最高位と言われている。
さらに、
【剣天】……人間の尺度では測れないほど強い剣スキル
【剣神】……まさに神レベルの剣スキル
【剣星】……剣の腕で星を支配できるほどのスキル
と、前人未踏の『天界3級』が続く。
もっともこれは、そのものズバリ、神とか精霊とかエルフといった人外専用の区分けであって、俺たち人類には関係ないはずの階級だ。
……そのはずだったのに。
俺のスキルは、【収納星】。
【収納】とは、ゲームや異世界転生モノによくある『アイテムボックス』とか『マジックバッグ』というやつだ。
いろんな物が収納できる、そこそこ便利なスキルだ。
だが、注目してほしいのはそこじゃない。
【収納】の後ろにしれっと付いている、恐ろしげな1文字だ。
そう、【星】だ。
【収納星】。
9段階の、最上位。
どう考えても、人類が到達しちゃイケナイ最高最強の境地。
この、俺が異世界転生した先の、家どころか街どころか国どころか大陸どころか、星をまるまる【収納】できてしまうほどの、超・超・超ぶっ壊れスキル。
こんなの持っているとバレた日には、
神としてヘンな宗教団体に祭り上げられるか、
はたまたスキル解析のために実験動物として解剖されるか、
もしくは帝国を脅かす人類の敵として謀殺されるかだ。
俺はただ、平穏なスローライフを送りたかっただけなのに……
どうしてこうなった!?
【収納魔法】は
【攻撃魔法】と【治癒魔法】と【補助魔法】と【戦術級広域殲滅破壊魔法】
を兼ね備えた【最強万能魔法】です! ……がっっっ、
バレたら謀殺されかねないので、全力で実力を隠しとおします
メディア帝国・ソリッドステート辺境伯領・辺境伯邸の豪奢なロビーにて。
父「我が息子ストレジオよっ、お前をソリッドステート家から追放する!」
俺(ナイス、父!)
父「異論はあるか?」
俺「いえ、ありません!」
父「そうであろう。言いたいこともたくさんあるだろう。
だが、この世界はスキル至上主義。お前のような脆弱なスキルでは――
……って、えええっ?」
俺「ですから、異論はいっさいございません。
今までお世話になりました!」
俺(これで、教祖ルートも実験動物ルートも回避できる!
俺の快適スローライフが始まるんだ!)
父「ちょっ待っ、話はまだ終わっていな――」
俺「お疲れ様でしたーっ」
◆ ◇ ◆ ◇
――パカラッパカラッガラガラガラ……(やけに上等な馬車の音)
俺「追放なのに馬車って。てっきり徒歩で向かうと思ってたのに。
それに、追放なのに支度金を貰えるなんて(上等の革袋に金貨ずっしり)。
この追放、なんか『変』……。
しかも、メイドまで」
メイド「ただのメイドではございません。
レジ坊ちゃまの家庭教師 兼 護衛 兼 剣の師匠 兼 乳母の天才ウルトラメイドでございます(すんっ)」
俺「ウルトラの意味、分かって言ってる?」
メイド「極度の、過度の、超……総じて言えば、『デカい』という意味でございます」
俺「デカいって、態度が?」
メイド「失礼な。この、謙虚さ溢れるメイドの立ち居振る舞いのどこを見て、そんな感想が生まれるのですか?(すんっ)」
俺「謙虚さって普通、溢れるものではないと思うけど」
メイド「デカいというのは、レジ坊ちゃまが先ほどから熱心にチラ見なさっておられる、このでっっっっなおっぱいのことでございます」
俺「くっ……見テマセンヨ?」
メイド「お忘れですか? 乳幼児期の記憶を、そして数秒前にわたくしが申し上げた言葉を。
わたくし、レジ坊ちゃまの乳母でもございます。
わたくしがどれほど、坊ちゃまにおっぱいを揉みしだかれ、ねぶられ、吸われたか。
その長い長い歴史を語るには、この馬車が目的地に着くまでの短い時間ではとても足りるものではなく――」
俺(ゼロ歳スタートで転生してたら、この子のおっぱいを吸えてたのか。これはもったいないことをしたな……)
◆ ◇ ◆ ◇
『俺』
見た目7歳児、中身17歳児。
お察しのとおり異世界転生人。
名前はストレジオ・ソリッドステート。
ソリッドステート辺境伯家の三男。
愛称『レジ坊ちゃま』。
女神様がこの星の【収納】スキルを押し付けるためだけに用意された転生体とはいえ、『
黒い短髪に黒目。
低身長低体重の幼児体型。実際幼児(小児?)だからね、しょうがないね。
見た目は可愛らしいが、7歳児なんてみんな可愛らしいものなので、ブサイクに成長しないことを祈るばかり。
『メイド』
通称、【剣聖】ブルンヒルド・オブ・ソリッドステート。
『オブ』が示すとおり、『ソリッドステート領出身の』平民。
でも、普通は村とか街とかを名乗るのに(
長い銀髪にメイド服。
見た目少女の年齢不詳。
乳がバカでかい。ドエロい。
可愛い。顔がめちゃくちゃいい。
強い。とにかくバカみたいに強い。
賢い。ちょっと異常なくらいに頭がいい。でもその反動でデキないヤツの気持ちが理解できないらしく、7歳児に微分積分を教え込もうとし、デキないと『脳みそ赤ちゃんですか』とドン引きしてくるドSなサイコパス。
でも可愛いから許せちゃう。
◆ ◇ ◆ ◇
メイド「Iカップでございます」
俺「え?」
メイド「レジ坊ちゃまが先ほどから熱心に見つめておられる、メイドのおっぱいのサイズのことでございます」
俺「(……ごくり)触ってみても?」
メイド「触るのはダメでございます。吸うのは構いませんが」
俺「まさか、出るの!?」
メイド「人を牛かミノタウロスだとお思いですか? まぁ出ますが」
俺「出るんだ!?」
メイド「冗談でございます」
俺「……あ、あぁそう」
俺(この子はいつも済まし顔だから、冗談か本気なのか分からないんだよね)
視線をそらすと、窓の外は険しい森に変わっている。
俺(『街道』とは名ばかり。ほとんど獣道だ。
自ら望んだこととはいえ、ガチに追放されたんだなぁ俺)
俺「でも、俺ってそもそも、なんで追放されたんだっけ?」
メイド「それは、先日の洗礼の儀で判明したレジ坊ちゃまのスキルが【収納聖】だったからでございます。
授業の続きと参りましょう。
この世界はスキル至上主義。
スキルは【剣】や【炎】魔法、【治癒】魔法、【生産】、【隠密】など様々ございます。
人はみな、一つ二つ程度のスキルを持って生まれ、七歳の洗礼の儀をもって、そのスキルが発現します。
我らが住まうメディア帝国にとって、最も有名なスキルと言えば、【収納】。
初代皇帝が、【収納帝】だったからです。
攻めてくる敵国の軍勢をまるまる【収納】してしまい、多額の身代金で財を成したのが事の興りと言われております。
【収納】は物流や兵站を劇的に改善する非常に有用なスキルであるため、初代皇帝は【生産】スキル持ちや【付与】スキル持ちと共同して無数の『マジックバッグ』を生産しました」
メイドが胸の谷間から袋を取り出す。
俺(出たっっっっ。メイド名物、谷間収納術!
冗談はさておき、この手のひらサイズの袋に体育館くらいの容量が収められるんだから、ホントにチートだよね)
メイド「このレベルの一品がちまたに溢れかえっており、安価に購入できてしまうのが、今の帝国です。
お陰で国民の生活は大変便利になりましたが、【収納】スキル持ちは職を失いました。
【収納】スキルでバスタブ1杯分。
【上級収納】で小屋1つ分。
【収納聖】でちょっとしたお屋敷1つ分といったところ。
つまりレジ坊ちゃまの性能は、このマジックバッグとほぼ同等。
他国に移れば【聖】の名のとおりみんなの英雄、スター扱いですが、この国ではザコ扱いにならざるをえません」
俺(そう、表向きは。実際はその6段階上の【収納星】だけど。
でも、人間に【星】スキルが発現したというのは例がない。
だから俺は父に、自分のスキルのことを【
そしたら父は、【
まぁ、勘違いさせるようにわざと仕向けたんだけど。
日本語でも【収納
メイド「レジ坊ちゃまの【収納聖】はザコスキルのゼロスキルの甲斐性無し。
つまり実質、無でございます」
俺「無。え、俺、無なの?」
メイド「おっぱいが大好きなだけの、無でございます。
ですからこうして、ソリッドステート家随一の天才メイドであるわたくしが同行し、中途半端だったレジ坊ちゃまの教育を完遂させるのです」
俺(なるほど。だから父は、一番優秀なメイドを俺に貸してくれたのか。それも、給金は父の払いで。
……いや、でも、追放したのに教育を継続させるなんて、やっぱりおかしくない?)
メイド「もうすぐ、レジ坊ちゃまが領主名代を勤めることになる村が見えて参ります。
村に着いたら、早速勉強を再開しましょう。せめて微分積分をマスターしましょう」
俺「やだよ。日常生活のどこで使うんだよ、それ」
メイド「弾道計算、建築強度計算、天気予測、ありとあらゆる統計にも。
メイドなどは、剣の太刀筋にも微積分を利用してございます」
俺「マジか」
――ヒヒーンッ
御者「ま、魔物の大軍です! 村に近寄れねぇ」
俺(えっ、魔物!?)
メイド「失礼します」
メイドが馬車の外に飛び出し、ジャンプした。
脚力だけで、数十メートル上空まで舞い上がる。
俺(さすがは【剣聖】! バケモノかよ。
アイツがいれば、きっと大丈夫だ!)
メイド「オークの大軍です。多い。百は下りません。あの村はもう……。
御者さん、今すぐ引き返してください」
俺「ちょっと待ってよ! 村を見捨てるって言うのか!?
お前は【剣聖】なんだろ!? だったらオークくらい蹴散らしてくれよ!」
メイド「わたくしが離れたら、レジ坊ちゃまが危険にさらされます。
わたくしの仕事はレジ坊ちゃまの護衛。
村人たちには気の毒ですが……」
俺「あの村は俺の領地なんだろ!?
だったら俺には、あの村を守る義務がある!」
メイド「今はまだ、辺境伯閣下の持ち物です。
レジ坊ちゃまが領主に着任するまでは」
俺は馬車から飛び出す。
俺「ほら、着いた! これで俺はあの村の領主だ!」
メイド「危険です! 今すぐ馬車の中に――」
俺「頼むよ、
メイド「っ! ……突然のお
――スラリ(メイドが抜剣する音)
メイド「レジ坊ちゃまはわたくしから離れないでくださいね!?」
メイドがオークどもの背中に突っ込む。
――ビッ!
メイドが剣を振るう。
風を裂く音とともに、オークの首が吹き飛んだ。
俺(太刀筋がまったく見えなかった……。
音も、『ぶぉん』でも『びゅん』でもなく、『ビッ』。速すぎる!)
――ビッ!
――ビッ!
――ビッ!
一振り一殺。
メイドが道を斬り開いていく。
オークたちがこちらに気づいて攻撃してくるが、メイドが次々と屠っていく。
俺はメイドの背中にぴったりとくっついて走る。
俺(村が見えてきた!
――あっ!? 門が今にも破壊されそうだ!)
粗末な木製の門が、崩された。
中から現れたのは、
幼女「……こ、ここは通しません!」
包丁と鍋の蓋で武装した、5、6歳の幼女だ。
さらに幼女の後ろには、クワやスキで武装した子供たちが数名。
――ブモォォォオオオオオオオッ!
数体のオークが子供たちに襲いかかる!
いくらメイドでも、間に合わない!
俺(どうすれば、どうすれば、どうすれば!?
そうだ、オークどもの武器を【収納】してやれば!)
俺は無我夢中で、オークたちに向けて手をかざした。
俺「【収納】ッ!」
――シュンッ
オークどもの首から上が、消えた。
――ドサドサドサドサッ!(オークどもの死体が倒れる音)
幼女「…………え?」
メイド「…………え?」
俺「…………え?」
俺(なんでなんでなんで!? 武器を【収納】しようとしただけなのに、首を【収納】してしまった!?
そもそも【収納】って、生き物は入れられないはずじゃ?
いや、でも【収納帝】の初代皇帝は敵の軍勢をまるまる【収納】したって話だし……。
ま、まずいまずいまずい!
俺のスキルがではなく【収納帝】級以上だとバレてしまう!)
――ブヒッ!? ブヒィィイイッ!
恐れをなしたオークたちが、森の奥へと逃げ去っていく。
危機は去ったかに見えたが、俺は新たな危機にさらされていた。
幼女「英雄様!?(俺の手をにぎにぎ)
助けてくださり、ありがとうございます!
今の御業は英雄様がなさってくださったんですよね!?
【剣聖】ですか!? それとも何かの魔法の【聖】級でしょうか!?」
俺「ち、違っ、俺はただの【収納】持ちで。
【剣聖】はあっちのお姉さんのほうで――」
幼女「……【収納】?(首を傾げる。可愛い)
【上】級や【聖】級程度の【収納】では、魔物を生きたまま【収納】するなんて、ましてや首を狩るなんてできないはず。
ということはまさか、英雄様は【伯】級、いや【王】級の大英雄様なのでは!?」
俺(しまったぁ~~~~!
バレるっ。着任初日にして、俺が【収納星】だとバレてしまう!)
俺は頭を抱える。
俺(どうしてこんなことに――――……)
さかのぼること、数日前。