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第1章エピローグ

 次に気がついたとき、私は自宅――サイラス邸のベッドで寝かされていた。

 そばで看病してくれていたメイドさん曰く、私は城壁の上で気絶してしまったらしい。

 あれから半日が経過しており、今は昼。

 基本夜型の魔物は波が引くように去っていき、全ての危機は去ったのだそうだ。



 そのとき、寝室のドアがばぁんと開かれた。

 入ってきたのは、



「サ・イ・レ・ン!」



 メイドさんが大慌てで退出する。



 サイレンが泣きはらしたような目で私を睨みつけ、



『馬鹿か、お前は!?』



 怒り心頭、渾身の手話。

 それから、



「ラ・イ・ト!」



 強く強く、私を抱きしめた。

 サイレンの腕が、全身が、震えている。

 それほどまでに、心配を掛けさせてしまったのだ。



 私はサイレンの背中をポンポンと撫でる。

 すぐさま体を引き剥がされ、



『ライト! 私は本気で怒っているんだからな!?』



『ごめんなさい!』



 私はひたすら『ごめんなさい』を繰り返す。



『それで……死者は?』



『ライトに責任はない』



『教えてください』



『知ったところで、変わらないぞ?』



『お願い』



 サイレンが、強く私を抱きしめてから、



『……34名だ。全員、弓兵。彼らは非戦闘員を守り抜いた』



『遺族に会わせてください』



『それは……いや、分かった』









   ◇   ◆   ◇   ◆









 ……結局、私を責める遺族はひとりもいなかった。

 全員が全員、私に『ありがとう』と言ってくださった。

 私はただ、頭を下げることしかできなかった。









   ◇   ◆   ◇   ◆









 数日が経ち、街はすっかり落ち着きを取り戻した。

 ホントたくましいなぁ、この世界の人たちは!



 私も、いつまでも悔やんでばかりもいられない。

 だって、やるべき仕事が山積みなのだ。



 城壁の完成、

 魔の森の開拓、

 沈黙の魔王の打倒。

 西側で蠢動を続けるゲルマ帝国にも備えなければならない。

 領主の妻としての仕事だけでなく、サイレンの妻としてのプライベートだっていろいろある。

 子供だって遠からず授かれるだろう。



 前世では、私の隣には誰もいなかった。

 けれど今は、サイレンがいる。

 全ての音が奪われたこの世界で、私はサイレンとともに生きていく。

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