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2人はこちらの事など気にも止めず、車へ向かっている。

「空舞さーん!?」

早坂さんは子供を抱き直すように一瞬わたしを宙に浮かせ、また腕に乗せた。

「暴れると落ちるわよ」
いや、それが望みなんだが。
「お姫様抱っこに切り替えてもいいのよ?」

悪魔の笑みだ。それだけは勘弁だったので、抵抗するのをやめる。

「・・・早坂さん」

「ん?」

「いつも、助けてくれてありがとうございます」

早坂さんはキョトンとした。「何が?」

「いろんな、意味で・・・です」

「あたしは何もしてないわよ」

いや、助けられてばかりだ。早坂さんがいてくれて良かった。心からそう思う。

「・・・この距離で見つめられたら、何するかわからないわよ」

早坂さんの顔がマジになり、動揺して目を逸らした。何するかって、何をするつもりなんだ。

車まで到着すると、早坂さんはわたしを降ろす前にぎゅうっと抱きしめた。抱きしめられるのは初めてじゃないが、いつもと違ったのは、首筋に早坂さんの唇が押し付けられたこと。
反応はしなかったが、心臓が爆音を上げ、身体が燃え上がりそうだった。

早坂さんは解放したわたしの頭に、ポンと手を乗せた。

「さ、帰りましょうか」

「・・・あい」

──いやいやいや、今のは何だったんだ。
首筋にキス、したよね。あれは絶対唇だった。
触れられた所が熱を持っている。


「雪音」

「ギャッ!!」

気づいたら、空舞さんが肩にいた。

「あなた大丈夫?変な顔してるわよ」

変な顔って。「大丈夫です。ちょっと、疲れました」いや、本当、いろんな意味で。

「あなた、顧みずなところがあるわね。でも、ありがとう。わたしの為に動いてくれたのはわかってるわ」

空舞さんも、なかなかツンデレだよな。まあ、それが空舞さんらしくて可愛いんだけど。

「こちらこそ、ありがとうです。空舞さんがいなかったらどうなってたか」

「そんなことないわ。あなた達、良いチームワークね。じゃあ、また」

「えっ」空舞さんが、わたしの肩から飛び立った。いつも行動が早いな。「空舞さん!またっ!」

空舞さんは応えるように1度旋回し、闇夜に消えていった。


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