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天の巻

「これでやっと二つ目ね」

何がです?

「神器に決まってるじゃない。全く【十種神宝(とくさのかんだから)】なんか題材にするから、結局十個集まらないと終わらないんでしょ。このハナシ」

は、はあ……

一応設定がそうなってますので……

「後から出てくる人たちはいいわよ、楽で……私と時空(とき)なんか、バカみたいに一話からフル出演よ。キャラのイメージ持続させるのも大変なんだから、ちょっとは気を(つか)ってよ」

い、いや「バカみたい」と言った時点で、すでにイメージがくずれ……

「とにかく、今後の展開にも最新の注意を払ってくださいね!」

わ、分かりました……努力します。

「……まあいいわ。一応メインキャラでもあるし、何とか頑張るわ」

ありがとうございます。
助かります。
喜びの極みです。
ははぁ……(筆者土下座)

……以上、推古尊《すいこ たける》ちゃんのお茶目?なクレームでした。


*********


時空(とき)の額に汗が(にじ)む。

伊織を家に送り届けた帰り道で、その死闘は続いていた。
川沿いを歩いている最中に、突然襲われたのである。
相手は一見すると例の黒装束だが、頭部から突き出た赤い角が【新たな刺客】である事を示していた。
動きも、これまでとはまるで異なる。
両手に(たずさ)えた短剣から繰り出される攻撃は、恐ろしい程の速さと正確さを備えていた。
八握剣(やつかのつるぎ)で応戦するも、防御するのがやっとだった。

とにかく速い。

得意の居合術も、構える隙が全く無かった。
甲高い金属音と火花を散らしながら、じりじりと後退する。
土手際に生える樹木に背中が当たり、後が無くなった。
身を(ひるがえ)したいところだが、途切れる事の無い神速の攻撃がそれを許さなかった。

このままでは危ない!

防戦するのも限界と判断した時空は、一か八かの賭けに出た。
大きく身を沈めると、一気に相手の(ふところ)に飛び込む。
縮地法(しゅくちほう)と呼ばれる古武道独特のフェイントだ。
逃げられないのであれば、逆に間合いを詰めて攻撃の隙を狙うしかない。
一瞬でも相手の手が止まれば勝機はある。

だが、その策は失敗に終わった。
もう一歩のところで、今度は赤角の方が身を翻したのだ。

しまった! 

読まれたかっ……

心中を後悔の念が走ったが、もはや手遅れだった。

逆手(さかて)に持ち替えた赤角の短剣が、時空の両肩に食い込む。
灼熱の痛みが、全身を襲った。
樹木を背にした時空の肩から、血が(したた)り落ちた。
赤角の深紅色の目に、勝利の光が宿る。 

ウオォォォォォン!

トドメを刺そうと両腕を振り上げた瞬間、辺りに轟音が鳴り響く。
手を止めた赤角が、驚いたように振り返った。
その音は、まるで動物の雄叫びのようだ。
そして次の瞬間、林の中から【それ】が姿を現した。

見覚えのある縦縞に、茶色の体毛──

虎だ!

体長は、優に大人二人分はあるだろう。

()き出した牙と鋭い眼光は、明らかに赤角に向けられていた。

何故、こんな所に虎が……!?

出血と痛みで意識が混濁し、思考が思うように働かない。
だが錯覚や幻で無い事は、赤角の様子から認識できた。
異形の注意は、すっかり時空からその猛獣に移っていた。

虎は、その巨体からは信じられない程の瞬発力で、赤角に襲い掛かった。
さしもの異形も、避けるしかなかった。
時空から離れた赤角は、虎の放つ俊敏な攻撃に果敢に応戦した。
刃物のような爪と牙を、神速のフットワークで()(くぐ)る。
反撃の機を(うかが)っているのは明らかだった。

虎の爪が大きく弧を描いた瞬間、勝負はついた。
鈍い音と共に、赤角の短剣が喉に食い込む。
獣は唸り声を上げ、地面を転がりまわった。
口から血の泡を噴き、のたうつ巨体の動きが徐々に弱まる。
やがて低い唸り声を残し、完全に停止した。
虎が絶命した事を確認した赤角は、仕切り直しとばかりに時空の方を(かえり)みる。

だが、時空もじっと待ってはいなかった。

思わぬ助っ人により、体勢を立て直す余裕ができた。
脇に剣を納め、居合の構えを取る。
相手の攻撃に合わせ、神武至天流八咫烏(じんむしてんりゅうやたがらす)を放った。
赤角の肩口から背中にかけて、血しぶきが舞う。

「ギャィィィっ!!」

悲鳴を上げ、のけぞる異形。
人間離れした跳躍力で宙を跳ぶと、何処(いずこ)とも無く姿を消した。

極度の疲労と激痛により、その場に倒れ込む時空。

遠のく意識の中で目にしたのは、塵のように霧散する虎の亡骸だった。

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