独身、はじめました。
新婚と呼ばれていた頃には、幸せな時もあった。好き合って結婚したし、お互いよく考えて夫婦になったのだが、子供ができず、数年もただ夫婦としてダラダラ一緒に暮らしていると、お互いになんとなく、溝ができて、料理の味付けなど些細なことで口論するようになり、夫が勝手に私が浮気していると決めつけて糾弾してきたので、カッとなり、つい台所にあったフライパンで夫の頭を殴った。
殺意はなかった。もちろん、浮気なんかしてなかったが、夫があまりにもうざくて、ついフライパンの殴打に力を込めて殺してしまったのだ。ものすごく焦ったが、死んだ人間は生き返らない。警察に殺人犯として自首する勇気もなく、こっそりと遺体を車で運んで山奥に捨ててきた。
夫の会社から電話があったが、私は何も知らないで通し、私は夫が急に失踪した可哀想な妻を演じ、義理のご両親とともに行方不明となった夫の捜索願を出した。幸いなことに、警察も義理のご両親も私を疑うことなく、世間的にも、夫が急に失踪するのは珍しいことではないらしく、むしろ、ご近所の奥様方に大変ねと優しくされることが多く、私は、夫のいないひとり暮らしを始めた。幽霊となった夫が化けて出て来るかと思ったが、そんなこともなく、結婚してできなくなったオシャレをして、夫の帰りを待つ必要がないから仕事を見つけ、好きな時に好きな時間に遊びに出かけるようになった。
で、妻子ある男性と恋に落ち、その人と幸せになれるかと思った矢先、その男性の奥さんに殺されて、私は死んだ。だが、死んでも殺した夫と再会することはなく、私を殺した奥さんを呪うこともなく、ま、夫を殺した因果だろうと私は、あっさりとあの世に行った。