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319 激闘⑤/翻弄

 ウテナの挙動が乱雑になってきた。

 ジンは回避し続けるばかりで、ウテナ自身は攻撃の手を緩めていないものの、その打撃は空を打つばかりで、まるでジンの手の平の上で踊らされているような、そのようにオルハンには見えた。

 ……ウテナのヤツ、ジンの言葉で振り回されてやがる!

 オルハンはウテナへ向かって怒鳴った。

 「おい!ウテナ!そいつはジンだぞ!惑わされるな……」
 「うるさい!!!」
 「なっ……!?」

 ウテナに怒鳴り返された。

 「あっ、ごめんなさい……」

 オルハンに怒鳴ってしまったことにウテナは気づき、攻撃を止めて、謝った。

 「すみません、ついつい、怒鳴ってしまいました……」
 「おいウテナ!お前がジンだって言ったんだぞ!お前が飲み込まれてどうすんだよ!」
 「だって!なんか、もう、すっごい、ムカつくこと、言ってくるんですもの!!」

 ――ヒュッ!

 2人が言い合いしていると、一転して、ジンがウテナにダガーの刃を向けてきた。

 「ウテナ!あぶねえ!!」
 「!」

 ――タタンッ!

 ウテナは軽快にステップを踏み出した。

 「……むっ!?」

 ダガーがウテナに触れる瞬間に、ウテナの姿が残像となっていた。その残像にダガーが切り込む。

 「速いですね……!」

 言うと、ジンは切り込んだ勢いのまま地面に片手をつき回転するとともに、地面に足をつくとすぐに追撃に入った。

 ――ヒュヒュヒュッ!

 ダガーの短さを利用した、細かい突きと斬りを組み合わせた連続斬りを放つ。

 「攻撃が速い……でも!」

 ――タタタン!

 ウテナも細かいステップで踊るようにダガーの精密攻撃を回避した。

 「……私の攻撃の呼吸に合わせているのか!」

 攻撃を繰り出し続けながら、ここにきて、ジンは驚きの表情を見せた。

 「なんという、戦闘能力……素晴らしき才能だ……」

 ――タンッ!

 ダガーをかわし、ウテナは華麗に空中を2回転して、オルハンの前で着地した。

 「フゥ~」
 「ウテナ、まだ、やれるか?」
 「もちろん!」
 「もう、惑わされるなよ」
 「はい!」

 2人とも構え直し、ジンの攻撃に備える。

 ……大丈夫、戦えてる!あの時の、すくんでいた足とはもう、さよならしてる!あの時の自分より、成長できてる!

 砂漠でジン=グールと遭遇したとき、なにもできなかった自分を乗り越えた……そう、ウテナは確信した。

 「……」

 ジンはダガーを納めた。

 「……惑わされるな、ですか」

 そして、微笑みを浮かべながら、ウテナに言った。

 「一応、真実を言ったつもりというか、警告というか、これでも善意で言ったつもりだったんですけど。聞き手のほうが、無知ときますか……」
 「なに……!」

 ウテナが拳を握りしめた。

 「おい、ウテナ。また、力が入りすぎているぞ」
 「あっ……!」

 オルハンに言われ、ウテナは我に返った。

 「感情的になるな」
 「……はい。いやでも、オルハン先輩だって!」
 「俺はいいんだよ」
 「えぇ……なんですか、それ」

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