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「決まったようだね。ちょっと待ってなさい」そう言って立ち上がると、財前さんは部屋から出て行った。
「それで、時間はどうする。念の為、日が暮れる前にと考えれば、3時には出たいな」
「オーケー」
「どっちが車を出す?」
「あたしのでいいわよ」
「別に俺のでもいいぞ」
「嫌よ。アンタ、ラジオしか聞かないし」
「何が不満なんだ。最新の情報が入ってくるだろ」
「世の中には、携帯という物がありますから。長距離なら尚更、歌が不可欠よ」
「あの何言ってるかわからん音楽の何がいいんだ。ニュースのほうがマシだろ」
「洋楽です。あたしは意味わかるもの」
2人が漫才をしている間に、わたしは一真くんへ連絡する。明日は出ますか?と聞くと、すぐに返信があった。
出ますよ。何かありました?
急用で休みを貰いたいと伝え、次に店長にメールをする。同じ旨を伝えると、了解。一真くん出るから大丈夫だよ。と返事が来た。
春香には、明日にでも連絡すればいい。
とりあえず、休みは確保出来た。
「・・・ギャッ!」驚いたのは、わたしの肩に早坂さんの顎が乗ったから。いや、近い近い。
「なんですか」
「誰に連絡してるの?」
「業務連絡です。明日の休みの」
「大丈夫そう?」
「はい、一真くんのおかげで休めます」
「何かっていうと、一真くんねえ」
「はい?」
財前さんが戻って来て、早坂さんが離れた。財前さんは座りながら小さな紙袋をテーブルの上に置いた。それを、私の前に差し出す。
「なんですか?」
「プレゼントだ」
「えっ!わたしに?」
財前さんが微笑みながら頷く。「開けてみなさい」
なんだろう・・・中を覗くと、そこには蓋付きの立派な木箱が1つ。袋から慎重に取り出し、ドキドキしながらその蓋を開ける。
「うわっ・・・綺麗・・・」
取り出した水色のグラスは、キラキラと光を放ち、そのガラス全体に繊細な模様が切り込まれている。まるで、万華鏡みたいだ。
「どうだい?気に入ったかな?」
「あ・・・はい!メッチャ綺麗です!・・・でも、わたしが頂いていいんですか?すごく高そう・・・」
「昔作った物なんだがね。やはり、その色はきみにぴったりだ」
「色、ですか・・・・・えっ、作った?」
「雪音ちゃん。財前さんはね、有名な工芸家なのよ」
2人の顔を交互に見た。──これを、財前さんが?