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昼間飲んだのって1本だけだよね。目をこすって、再度確認する。
「・・・財前さんのお子さんでいらっしゃいますか?」
早坂さんは噴き出し、目の前にいる着物姿の男の子は、おかしそうに笑っている。
「今、お茶を淹れてくるから待ってなさい」
「あっ、僕!おかまいなく!」
男の子は軽い足取りで部屋を出て行った。テーブルに突っ伏して肩を震わせている早坂さんの隣に座る。
「ちょっと!誰ですかあれ!」小声で言った。
「誰って、財前さん以外の誰がいるんだ」瀬野さんは早坂さんの向かいに座り、バームクーヘンを食べている。
「だって、子供!どう見ても小学生!」
「前に会って知ってるだろう。あの人が見た目を自由自在に操れるのは」
「操れるったって・・・」確かに、髪型や着ている物は財前さんそのものだが。頭がついていかない。
「あの姿も久しぶりに見たわね。あなたの反応を見て楽しんでるんでしょ。裏切らないから」
そういえば、前もお茶を淹れに行って、戻ってきた時は歳をとっていた。今回もまた姿を変えて来るんだろうか。ドキドキしながら待っていると、襖が開いた。
変わってないー!財前さんはわたしの前にちょこんと座り、小さな手で湯呑みを差し出した。
「ありがとうございます」一口啜るが、味が入ってこない。
「雪音ちゃん、元気だったかい?」
「あ、はい!財前さん・・・も、お元気ですか?」
「僕は変わらずだよ」
──駄目だ。集中出来ない。
見た目的には、10歳にも満たないと思う。声も高いし、顔にも面影を感じられない。喋り方以外、財前さんと認識出来るものがない。
「よかった・・・」目のやりどころに困り、お茶を飲む事に必死になる。
早坂さんがニヤニヤしてるのは視界の隅でわかった。
財前さんはテーブルに肘をつき、顎の下で手を組んだ。この仕草は財前さんだ。
「この姿だと、落ち着かないかい?」
「はい」即答してしまい、すみませんと謝る。
「今戻ってもいいんだが・・・」
「是非お願いします!」
「しかし困ったな。それだと裸になってしまうんだが、いいかい?」
「え・・・裸?ですか?」
「ほら、着物がね。大きくなるのは身体だけだろう?」
「・・・・・・そのままでお願いします!」