9
「えっ、なに、今日早坂さん来るの?」
地獄耳、健在。「うん」
「瀬野さんは?」
「来ないと思う。たぶん」
「なーんだ、ただのデートか」
「ちがーう!・・・もういい、いちいち反応するのはヤメル。好きに言ってくれ」
「ですよね春香さん、この時間に2人きりで会うって、デート以外なくないすか?」
そこで乗ってくる?
「デートなのよ、なぜか認めないだけで」
「ガーン」
「あのね!用事が会って来るの!よ・う・じ!」
「反応してるじゃない」
「前言撤回!」
「その用事も言わないくせに。この前2人が来た時だって、何処に行ったのか絶対口割らないじゃない」
妖怪の目撃情報があって、確認しに行ってきたんだ。そしたら大ムカデがいてさ。初めてわたしが退治したんだよ。なんて、言えるか!
──そうか。と閃いた。言ったところで信じるわけもないのだから、逆に冗談話として誤魔化せるのでは?
「・・・森林公園に、行ってたの」
春香と一真くんが目を合わせた。「森林公園?あの時間に?3人で」
「うん」
「マジすか?え、何しに?」
「ムカデの退治に」
「・・・え、3人で虫の駆除に行ってたの?」
「ちがーう!大ムカデ!こんな、何メートルもあるやつ!」手で、大きさを表した。つもりだ。
2人がまた、顔を合わせる。「アンタさ・・・正直に言ってよ?突き出さないから。ヤクやってるでしょ」
「や、春香さん、さすがにそれはないっすよ。昨日も体調悪そうだったし、かなり生理痛が酷いんじゃないすか?」
───・・・・・・「ただの冗談っす」
「え、冗談って、今の冗談のつもりだったの?・・・まあ良かった、本気でおかしくなったのかと思った」
「俺も、一瞬焦りました。生理で熱出る人もいるって聞いたことあるから」
中条 雪音 24歳。この先何年生きるかわからないが、2度と冗談は口にしないと心に誓った。
「大ムカデェ・・・?寒っ、ビビるくらい寒いわ。今すぐ湯船に浸かりたい」
──この女より、あの大ムカデのほうが何千倍も可愛く見える。
「ヤクもやってないし生理痛でもないけど、ビビるくらい寒いから早く帰ろうか」
「あれ、雪音さんイジけてる?可愛い〜」