実家
メリーはコンサバティ侯爵家へと戻った。
だが、実家の様子がどうやらおかしい。
相変わらず絢爛豪華な建物は歴史を感じさせつつも完璧な佇まいを見せていたが、住人が変だ。
「お義姉さまは、使用人部屋を使っていただきます」
(誰だこの女?)
メリーは自分に向かって偉そうな態度をとる金髪碧眼のどうってことない普通に美人の貴族女性に首を傾げた。
実家に戻ったメリーは、キャメロンを従えて自分の部屋へと行こうとしていたが、玄関ホールで止められてしまった。
「姉上、どうしたのです? 先触れも出さずに来るとは迷惑ではないですか」
奥から自分とよく似た金髪碧眼の青年が出てきたのを見て、メリーはホッとした。
弟のアレクだ。
家を間違えたわけではないらしい。
「実家に帰ってくるのに先触れなんて必要ないでしょ? この方は誰? お父さまとお母さまはどこにいらっしゃるの?」
「姉上らしくないではないですか。キチンとされている方だったのに。あぁ、だからトレンドア伯爵との結婚に、私は反対だったのに」
「反対?」
(あら? そういえば、どうしてトレンドア伯爵と結婚したのだったかしら?)
メリーの頭には霞みがかかったようにはっきりとしない部分があった。
「何を言っているのですか、姉上。姉上は、私や父上、母上の反対を押し切ってトレンドア伯爵と結婚されたのですよ?」
「私が?」
「そうですよ」
アレクは憤慨したように言った。
「そうだったかしら? 何も覚えてないわ」
「あれだけ大騒ぎして結婚したのに覚えていないとはっ! そこにいるキャメロンが婚約者だったのに、トレンドア伯爵と結婚すると言い張って」
「ええっ⁉」
メリーは、驚いて後ろを振り返った。
侍女キャメロンは緑色の瞳をキラキラさせて、何度もコクコクとうなずいている。
「でもキャメロンは女の子よね?」
「今は、です。キャメロンはもともと性別が安定していなかったから、姉上の心変わりにショックを受けて女性化してしまったのです」
「まぁ!」
メリーは驚きに声を上げた。
性別が安定しないってナニ? と彼女は突っ込みたかったが、それができる雰囲気ではない。
「それに私の婚約者であるコレットまで忘れてしまうとは。確かに我が愛しのコレットは、日々美しさを増していますから。美しくなりすぎてしまって分からなかった、という姉上の気持ちも分からなくはないですよ」
「まぁ、恥ずかしい。揶揄わないでくださいませ、アレクさま」
(なんだコイツら。私の目の前でいちゃつきだしたぞ)
メリーはそう思ったが、淑女なので声には出さなかった。
それにしても、自分や弟の婚約者まで忘れてしまうとは、一体どうなってしまったのだろうか。
(こんな時には、お父さまとお母さまを頼るのが一番よ)
この国には魔法がある。
不思議なことは、いつだって起きるのだ。
「父上と母上は旅行中です。その間、家のことは私たちに任されているのです」
「そうです。だからお義姉さまには、使用人部屋を使ってもらいます。キャメロンと同室で」
「えっ⁉」
メリーはキャメロンをマジマジと見た。
「今は女の子かもしれないけど、元婚約者と同室というのはマズイのでは?」
「また婚約したらいいじゃないですか」
メリーの言葉に、アレクはニコニコしながら答えた。
メリーが使用人部屋を使うというのは決定事項らしい。
(そんなのおかしいでしょ⁉)
彼女がそう思っても、弟たちの思いは違うようだ。
キャメロンを見れば、ウンウンとうなずいている。
親指を突き上げてウインクしてくるキャメロンに、メリーは戸惑いを隠せなかった。