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第19話 私のコミュ力が、憎い

「それに、友達以外と私、まともにしゃべれないんだ」

 そう、私は周囲とコミュニケーションをとるのがとても苦手だ。
 特に、用もないのに会話を続けるというのが、一流大学の入試試験並みに難関なのだ。
 何とか話そうと考えこんでいるうちに、周囲の雰囲気がしらけたり気まずくなって気付いたら私の周りからどんどん人が離れていった。何をしゃべるかわからず、無言の気まずい時間を過ごしてしまう私。
 だから、友達も恋人もまともにできなかったのです。

「そ、そうだったのですか……」

 ミトラがしょんぼりした表情で言葉を返す。そうだ、私に対して友達や恋人の話を振って明るい雰囲気になると思っている方が間違いなのだ。
 すると、ミトラは席から乗り出し、私の両手をぎゅっと握った。

「ご安心を。もう、凛音は一人なんかじゃありません。私がついています。独りぼっちには、絶対にさせませんわ!」
「わ、わかったよ……」

 ミトラのにっこりとした笑顔からの一言、もう。
 だから、そんな笑顔を向けるのはやめてくれ。お前の笑顔は私にとって顔を赤くさせる凶器みたいなものなんだから
 とりあえず、この話題から話をそらそう……。

「話を戻すよ……」

 私はオホンと咳をして、紅茶を一口だけ飲んだ後、真剣な表情に戻す。

「だからさあ。もう少し慎重に戦っても──」
「大丈夫ですわ。二人で戦えば、怖いものなしです」
「大丈夫って……ミトラは、私と違って生身の人間だよ。あんな化け物の一撃食らったら、大けがするし、下手をするなら死ぬかもしれないよ」
「それは、わかっていますの!!」
「本当に?」
「私だって、分かって戦っていますわ。それでも──戦わないと、何も救えないではありませんか」

 それは私だってわかってる。けれど──。
 私はつい感情的になり、強い口調で言い返す。

「だからって、それで致命傷を追ったり、もしものことがあったりしたら──意味ないじゃん」

 そう言いながら、そのもしもの事を思い浮かべてしまい、暗い表情になってしまう。
 うつむく私──。
 するとミトラは突然立ち上がり、バンと机をたたいた。思わずビックリする。大きな音だったので店の人の視線がこっちに向けられる。

「やっぱり、怖いですものね──」

 どこかあきらめたような、切ない表情。私も、心が締め付けられるように苦しくなってしまう。そして、ため息をついたミトラ。

「申し訳ありませんの、凛音」
「えっ? どういうこと──」
「あんな化け物に出会ったら、恐怖を感じてしまうのが普通ですの。凛音は、何もおかしくはありませんわ」
「今回は、私だけで戦わせていただきます。凛音はここで待っていてください」
「ちょっと待って。私もた──」
「それなら私、一人で戦いますから。では、行ってきます」

 ミトラは再び立ち上がり、隣の椅子から自分のカバンをとる。そしてミトラは一人で先へと言ってしまった。

 私の呼び止めを全く聞かずに──。
 どうしてこうなったのか、私には見当もつかない。
 一番考えられる理由は一つ。

「私、また変な事言っちゃったんだ……」

 コミュ障の私が、変な意味にとらえられる言葉を言ってしまったことだ。
 取りあえず、さっきまで私が何を言っていたのかを思い出す。一字一句。おかしいこと──、おかしいこと──。そして……。

「あ────っ」

 思わず大きく叫ぶ。

「これじゃあ、私が戦いたくないみたいじゃないか……」

 両手を椅子の後ろにぶん投げ、そのまま椅子の背にもたれかかって右手で頭を抑える。別に、怖いから逃げたいとかじゃない。大切なもののために、死を覚悟して戦うことと、無為無策で突っ込んでいって犬死にすることは違う。だからもうちょっと考えて戦おう
 それが言いたかっただけなのに──。
 私は両手を頭に押し付け、髪をわしゃわしゃする。
 そんなつもりじゃなかったのに──。

 会話能力が壊滅的な私が、とても憎い。
 いつも私はそうだ。何とか周囲と会話をしようとして、必死にしゃべる。周囲は、驚いていたり、顔が引き攣っていたりして言葉を返す。
 その時は──、伝えることに必死。それ以外に頭が回らない。どうしてそうなるのかを理解出来ず戸惑ってしまう。
 そして後になって気が付くのだ。自分の伝え方がおかしくて、間違った風に伝わってしまってしまったと。残ったのは後悔と無力感。罪悪感。それで、余計に人と会話するのが嫌になってしまうのだ。
 私、なんでこんなにダメなんだろう……。
 自分で自分が大嫌いになってしまう。気落ちして思わずへたり込んでしまった。取りあえず、行かなきゃ。ミトラを、一人になんかさせたくない。
 私は落ち込む自分に気力を振り絞って立ち上がった。机にある残っていた飲み物を口に入れた後、すぐに会計。
 場所自体はすでにミトラから聞いていたので、後はそこに向かうだけ。
 店を出て、印旛沼の方へと早足で道を向かっていく。

 整備されたニュータウンの街並みを越え、小高い丘を過ぎて、水田のある地帯に差し掛かる。

「うっ……」

 目的の印旛沼が近づいてくると、妖怪特有の鼻が曲がるような悪臭が漂い始める。
 なにこれ……。
 私は思わず両手で鼻と口をふさぐ。

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