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「わかんないって、何かがなきゃそうは思わないでしょ」
「・・・わたしが引っ張ったと思ったらしい」
「そうなの?」
「まさか!そんな事するわけない」
「そりゃそーよ。ただの言い掛かりじゃない。最悪なガキね」
──まあ、あの子が引っ張ったのは事実なんだけど。
「未来ちゃんは・・・あ、その子の名前ね。未来ちゃんはそう思ったんだよ」
「それで無視ね。そんな奴とは口利かなくていいと思うけど。ていうか、そんな事を未だに引きずってんの?」
「引きずってるというか、そんな単純な話でもないんだよねえ・・・」
いじけながら、もう1つチーズをつまむ。
「サッパリわかんないわ。まあそれで、それ以来疎遠になってた子が今になって会いたいと。それも不思議な話だけど、そこで悩む必要ある?」
「悩むっていうか、戸惑う」
「くっだらない!子供の頃の話でしょうが。そんな喧嘩、あたしなんて何回したか。嫌なら会わなきゃいいだけじゃない」春香は、心底呆れている。まあ、傍から見たら子供の頃の喧嘩を引きずる痛い女だよな。
「無視したらしたで、気になる。そして、もう会う約束した」
「あっそ、もう好きにしてくれ。くだらない。心配して損したわ」春香は2杯目のビールを飲み干した。「すみませーん!ハイボール1つ!」
2回目のくだらないは、効いた。ジメジメとビールを飲む。「なんの話だろ・・・」
「謝罪でしょ?」
「・・・・・・謝罪?」
「逆にそれ以外ある?じゃなきゃ、喧嘩別れして10年以上疎遠だった人間に会いたいなんて思わないわよ普通」
「えええ・・・そんなことある?・・・今になって?」
「まあ、あたしだったら無いわね。とっくに忘れてるか、覚えててもあんな事もあったなくらいで終わるわ。でも、その子にとっては違うんじゃない。心の中でずっと引っ掛かってたとか?まあ、憶測ですけど」
また、混乱してきた。わたしは、謝罪されるのか?いや、そうとは限らない。「・・・逆に、あの頃の恨みを再び言われるとか?」
「・・・それこそ、だいぶヤバい奴ね。逆に吹っ切れていいんじゃない?」
「他人事だと思って・・・」
「他人事だもの。まあ、会ってみない事にはわからないんだから、うだうだ考えるだけ無駄よ。そんな事より、明日は休みよ?飲むぞー!」
こやつ、単に飲みたかっただけでは?
でも、その通りだ。全ては、明日になればわかる事。
わたしは遅れを取り戻すべく、残ったビールを煽った。
「すみませーん!生おかわり!」