仮想現実
俺は、教室の窓をバッと開けた。パラパラと夕立の激しい雨粒が、教室内に入ってくる。ちゃんと冷たく、肌に当たる雨粒も感じた。
「ちょっとあんた、何やってるのよ」
クラスメイトの恭子が、窓を開けて雨を浴びている俺を押しのけ、慌てて窓を閉める。
「ほら、教室の中、濡れちゃったじゃない」
俺は怒られたが、別のことを気にしていた。
「な、なによ、なに人の足元見てんのよ」
「いま、結構な雨が入って来たのに、お前、あまり濡れてないな。それに窓の下も、雨があれだけ入って来たのに、そんなに濡れてない。画像処理の限界か」
「あ?? なに言ってるのよ?」
「自然の夕立っぽいけど、画像処理がお粗末だって言いたいんだよ。ここヴァーチャル空間だろ?」
「は? あんた、なに言ってるの?」
「そっちこそなに言ってるんだ。まだ誤魔化せると思ってるのか? 俺たち、もう学校、卒業した社会人だろ」
「・・・ちぇ、もうバレちゃったか。結構お金かかったんだけどな」
「おい、元の世界に戻せ」
「無理、戻してあげてもいいけど、あんた、もう脳みそだけよ」
「なんでだ?」
「だって、あんたが言ってたじゃない、今の会社なんてクソだ、学生の頃が一番楽しかったって。だから、その願いを叶えてあげるために、あんたを脳だけにして、この世界に招待してあげたんじゃない。ここなら、死ぬまで、学生生活を楽しめるわよ」
「脳だけだと・・・」
「このヴァーチャル空間の維持費って結構するから、あんたの肉体、売っちゃった。お金持ちって、少しでも若くて健康な臓器が欲しいから言い値で売れたわ。脳だけになったけど、その代わり、私たちは、脳が駄目になるまで十代でいられる世界を手に入れられたのよ」
「ふざけるな、俺の身体を返しやがれ」
「う、うぐっ・・・ちょ、怒りに任せて、私を殺そうとしても、無駄よ。これは、本当の身体じゃないから」
「チッ・・・」
「もう、あなたは、わたしと、ずっと一緒よ」