第6話 頼もしい親友
昨今乙女ゲームにも様々なものがある。
ミステリーだったり、アクションRPGメインだったり、箱庭育成系とあるが、このゲームはその中でも《
大人気なのになぜ評価が別れるか。それは全キャラクター生存確率が一桁というホラーゲームよりも真っ青な鬱、あるいは残酷なシナリオ展開が待っているからだ。
ヒロイン補正?
そんなものはないし、選択肢一つ間違えるだけで
しかも悲劇的な死に方が多い。
結ばれた瞬間に事故に巻き込まれて死亡。
両思い確定となった瞬間、魔力回路が暴走して結果的に心中。モブ異性と話していただけで「裏切られた」といって曲解して殺しにくるヤンデレ恋人などなど。ヤンデレ率が高い上に、登場人物全員死ぬという胸クソ展開もある。
私としては愛し合っているのに、敵対するヒロインとラスボス役のローマン教頭との心中シーンは泣いた。スチルの出来栄え、流れるBGMともに素晴らしかった、本当に。
死亡率97パーセントの超難易度鬱ゲーとまで呼ばれている。そんな世界に
ヒロインのアイリスと、悪役令嬢のベアトリーチェは私と同じ転生者だ。
ヒロイン、悪役令嬢、モブ令嬢、この三人が手を組み結束したからこそメインキャラを含め、奇跡に近い形で
ヒロインはルートによってラスボス役になる隠れキャラ、ローマン教頭と心中を回避して結ばれたし、悪役令嬢のベアトリーチェは元々婚約者のアルバートと婚約破棄を回避して恋愛結婚。
私は氷の公爵ベルナルド様に猛アタックの末、婚約者から結婚へと至ったのだ。
私の大切な親友であり、同じ異世界転移者。二人がいたからこそベルナルド様と一緒になることができた、恩人でもある。
***
時は戻り現在。
小まめに連絡を取っていたアイリスと、ベアトリーチェが辺境地に突如押しかけ──見舞いに駆けつけてくれたのだ。相変わらずの行動力だと感心してしまった。
「もぉーーーーー! シャルが倒れたって言うから、本当にビックリしたんだから!」
「ベアト、鼻水が……」
「本当に! シャーロットに
「アイリス、肩を揺らさないで。あと言葉遣いが戻ってる」
「あら」
「おっと」
二人は一瞬で聖女と淑女としての仮面を被る。
何という切り替えの速さ。そんな二人に心配させてしまったと思い頭を下げた。
「心配をかけてごめんなさい。命に別状はありませんが、
「そう聞いているけれど、皮肉よね。姿が見えなくなってから屋敷にいる機会が増えるなんて」
ベアトは黒い扇子を広げて皮肉たっぷりに告げる。歯に衣着せぬ物言いはもはや清々しいものだ。
「そうなんです。せっかく屋敷に戻ってきて下さったのに、あの冷たい目線。眉間に皺を寄せた姿が見られないなんて残念です。姿だけではなくバリトンのいい声も聞こえないけれど、旦那様直筆コレクションが沢山増えたんです。ふふっ、それに一緒に居る時間を作って下さっているの嬉しいわ」
「……あいかわらずね、あんな冷血漢のどこがいいんだか」
「もうベアト。言い過ぎ」
「あら本当のことじゃない」
(懐かしいな)
アイリスが窘めるとベアトは両手を挙げて降参のポーズをとる。私たち三人のやりとりは学院時代からこんな感じだ。
「……まあ、推し命なところは変わらないようで安心した」
「でも魔力無しで
「いや、まあそうだけど。シャーロットはこのクソ最悪なゲーム設定をひっくり返す能力を持っていたのだから、その反動が数年後に表面化したって可能性はあるんじゃない?」
「(アイリス、聖女の仮面を被っていても時々言葉遣いが乱暴になるの、変わってないわ)あ、……それでさっき
「その通りよ!」
この《
「シャーロットも知っているとおり、この世界の魔力持ちは遙か昔地上に住んでいた花女神からの《魔法の種子》を体内に取り込むことで、魔力を得たとあるでしょう」
「ええ。花女神信仰でも有名な話だけど、アイリスが言いたいのは教会の教義ではなく
「そうゲーム設定の根幹となる話よ」