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不毛な争い

やっとのことで入り口を見つけ出し、木戸を蹴破って俺とルースはスーレイへと入ることができた。
後で聞いた話なんだが、この国(厳密に言えば国じゃないが)は中立宣言しているだけあって、武装している兵も極力おいていないんだそうだ。つまりは外から誰かが攻め入ったら一発でおしまい。ゆえに国内へと通じる門も一つしかない。たしかにこりゃ面倒だ。護りは完璧かもしれないがな。
「ラッシュ、前にも少し説明したと思うけど……」先導していたルースが俺に向き直った。なんだ一体。
「このスーレイは、先の大戦でオコニドが獣人の大虐殺を行ったとき、逃げ延びてきた仲間たちを匿ってくれたんだ。だから獣人の人口比率も他の国と比べてかなり高いといえる」
なるほど、言いたいことはわかるにしても……それが一体なんなんだ?
「僕らはよそ者だ。何があっても人間と僕ら獣人、双方を触発するようなことは極力避けたい。わかるよね」
わからな……あ、いや、なんとなく分かる。
つまりは暴力的なことはやめろってことだろ? とはいっても……
俺達の目に広がる光景は、ルースのその思惑とは思い切りかけ離れていた。

白を基調とした大小様々な石造りの家々、その窓からは煙が立ち上っている。
なんなんだ、焼き討ちにでもあったのか……? いやそれにしてはおかしすぎる。
「獣人め!」突然、駆け寄ってきた人間の男が角材を振りかぶって俺に襲いかかってきた。
が、戦い慣れしているわけでもない。軽くかわし、俺はそいつの首根っこを掴んで地面に叩きつけた。

「手荒なことをしてすまない。僕らは旅の者だ」ルースが男に話しかけた。
「……この国は争いごととは無縁だと我々は聞いている。ならこれは一体どういうことなんだ?」
「え、あ……あんたら、そうか、知らなかったのか」
その言葉を聞く限り、アラハスで起きたときのような催眠のアレとはどうやら違うようだ。
近くの家に身を隠した俺たちは。落ち着きを取り戻した男の話を聞くこととした。

「領主様……今のこのスーレイで一番権力を持っている人さ。その方が突然、時代遅れの生贄を要求し始めたんだ」恐怖で震えながら、男は俺たちに事の次第を話してくれた。

「いけにえ……!?」ルースが目をまん丸くして驚いた。
それってアレか。神様の怒りとか要求で、人間を差し出すって儀式だったっけか。前にナウヴェルのいた島でちょこっと聞いたことがあったな。しかしなんでまた?
「獣人の若い娘を差し出せって、このスーレイにいる古の神様がそう言ってたんだって領主様が直々に俺たちに伝えたんだ。いきなりだぞ? 俺たちだってそんなバカなことする神がいるだなんてこと初めて聞いたさ」
「おい、その神の名前……なんていうんだ?」俺は直感した。つまりは……
「領主様は、ザン……なんとかって」うん、大正解。
「だがここに住む獣人の奴ら、それは人間の差し金だっていい始めやがって、暴動を始めたんだ。言いがかりで俺ら人間にも襲いかかってくる連中もいるしで、もう……戦争だ」

「なんてこった……」一部始終を聞いたルースの唇が小さく震えた。
そうだよな、ようやくスーレイへ着くことができたっていうのにこの有様。しかも俺たちが会おうとしているザンの野郎の差し金とくれば、俺もルースも怒りを隠せない。

「どうする、ラッシュ?」また外に出ると、キンとした冷たい風が耳と鼻先に刺さった。
見回すと、いたるところで俺たちの同胞が人間たちと殴り合っている。
「とりあえず、こいつら全員おとなしくさせるか」
「え、本気で言ってるの?」
「あったりめーだろうが。こういう小競り合いは早めに鎮めといたほうが解決しやすいんじゃねーのか?」
いやそれはおかしい、まずは領主の家に行って……と慌てるルースとチビを差し置いて、俺は暴動の真っ只中へと向かっていった。
殺さなきゃいいんだろ、そんなことくらい百も承知だ。

その時だった。俺の頭の中に、耳鳴りにも似たキーンとした音の響きが。
耳と頭を覆い尽くすかのような、剣がぶつかりあったときのような金属音。すげえ耳障りだ。

ーようやく会えたね。
その響きの中、男女どちらともつかないような若いヤツの声が、同じく俺の耳と頭に聞こえてきた。

「誰だ……お前?」

ーお前って言い方はないでしょ。ボクだってキミをずっと待っていたんだから。

「って、つまりお前は……!?」

ーそういうコト。さあ、キミのお手並みを拝見させてもらえないかい? どのくらい強いんだかをネ。

響きが霧散した直後、俺の前には拳を振りかざす人間の男たちが。
けど大したことない、腹に一発パンチを入れて終了だ。
「た、助かった、お前どこから来たんだ!?」
歓喜に湧く獣人たちの声に応え……るわけでもなく、俺はそいつらも全員殴り倒した。

「ああ、俺も一応神様なんだわ」
さて、お次は?

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