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第69話 『ラスト・バタリオン』

「その顔は聞きたいことは山ほどあるって顔ね。でも、その前に私達の髪の色、変でしょ」

 落ち着いたパーラの言葉に誠はどういう反応を返せばいいか迷っていた。水色とピンクの髪。髪を染めることが厳禁の軍の関連部隊であるこの『特殊な部隊』にはその自由が認められているのかと誠は思った。

「そう言えば皆さん染めてるんですか?東和宇宙軍は髪を染めるのは厳禁でしたから」

 誠は戸惑いつつパーラに尋ねた。そうしながら部屋を見回してみるが、部屋で誠に注目している女子隊員の髪の毛の色はどれも自然にはあり得ない色をしていた。

「染めてるんじゃなくて、遺伝子をいじられてこういう色にされているの。うちの女子の九割は『ラスト・バタリオン』と呼ばれる存在なのよね。『ゲルパルト帝国』……今の『ゲルパルト連邦共和国』が『第二次遼州大戦』の末期に生み出した『戦闘用バイオロイド』つまり『戦うために作られた人工人間』なの。だから普通の人間と区別をつけるために髪の毛の色が変な訳」

 パーラはとんでもないことをさらりと言った。まるで誠が『知っていて当然』と言うように言う姿に、誠はやはり彼女も『特殊な部隊』で思考回路が『特殊』になってしまったんだと思った。

「『戦闘用人工人間』なんですか?お二人とも。僕には普通の『人間』にしか見えませんが……」

 顔を引きつらせながら誠はそう言った。

 誠が横を見た。そこには島田とサラは何故か窓の外を指さして立っていた。お互い誠にとっては意味不明な言葉をしゃべって、感涙にむせび泣いている。とりあえず誠はこいつ等は無視することにした。

「他にもいるわよ。運航部はアタシとサラを含め全員女子で、全員『ラスト・バタリオン』。あと、機動部隊の部屋の誠ちゃんの前に座ってる娘」

 機動部隊の部屋の誠の席の前には二人の女性が座っているが、どう考えても『西園寺かなめ中尉』の方が戦闘的だった。しかも、『ロボ』である。

「あ、たぶん神前君の想像の逆。かなめちゃんは『甲武国』で一番のお姫様だったりする人だけど、本人が『それを知った人間は全員殺す』と言ってるから知らない方が良いわよ」

 かなめではないことはパーラの人の良さそうな言葉から分かった。同時に、『かなめに確実に殺される』方法を知ってしまった誠は青ざめた。

「神前君!顔色が青い!面白い!」

 誠を見たサラが大爆笑している。

 誠はこの女に『戦闘用人工人間の悲劇』と言う過去があるとは信じられない。そこで誠は改めて彼女を『無視』することに決めた。

 『戦闘用人工人間の悲劇』と言うと……誠はひたすら考えた。

 そうなると、当然誠の脳裏には『偉大なる中佐殿』ことクバルカ・ラン中佐の萌え萌えフェイスが浮かび上がる。

 きっとクバルカ・ラン中佐だ、そうあってくれ!その方が安心して『萌え』られる!
 
 そう思いながら誠はパーラを期待の目で見つめた。

「これも私の予想だけど神前君の期待には沿えられそうにないわね。クバルカ中佐は『遼共和国』の元エースよ。ゲルパルトで製造された私達『ラスト・バタリオン』とは無関係よ」

 誠は心底がっかりした。

 この二つの消去法の結果に誠は驚愕した。

 残りは……どう考えてもあの第一小隊小隊長、カウラ・ベルガー大尉しか残らない。

 彼女の髪の色が緑な時点で気づくべきだった。

「カウラさんは確かにどこか人工的なところがありますからね」

 誠の言葉にパーラの表情が曇った。自分が使った『人工的』という言葉が彼女を傷つけたことに気が付いて誠はハッとした。


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