第七十一話 「天翔ける」
雨が上がり、
「起きたか。なら私は行くぞ。ブンブクちゃんを頼む」
シカがウンケイにそう言うと、立ち上がる。
「もう行くのか? 起きたらきっと、ブンブクとしゃらくが
「こいつはどうでもいい。私は今晩の戦いに備える。・・・これは私個人の戦いでもあるからな」
シカがそう言って
「また後で会おう」
「おう、またな」
シカはニコリと
「・・・
ウンケイが、しゃらくの頭をバシッと叩く。しかししゃらくは一切起きる気配はなく、そのままいびきをかいている。
*
「よぉし貴様らぁ! 遂にこの時が来た! 今日こそ龍神を
「おぉぉ!!!」
日が暮れ、夕焼けに染まる城の広場で、アドウの声に兵達が呼応する。広場にはしゃらく一行にツバキ、シカ、
「・・・」
城内から広場を見下ろしているのはソンカイだけでなく、下階からは商人のリコウが様子を
「カゲ
「はい。必ずや龍神をこの城に
カゲ
「・・・」
そのカゲ
「作戦は実に単純! カゲ
「おぉぉ!!」
再びアドウの声に兵達が
「こんな数いるか?」
しゃらくがウンケイに
「そうだな」
ウンケイが、前にいるアドウを
「相手は一人なんだろ? おれら出番ねェんじゃねェか?」
しゃらくが、人目も気にせず鼻をほじり出す。
「案外あるかもしんねぇぞ。気ぃ抜き過ぎんなよ?」
ウンケイがニヤリと笑う。
「ん~」
しゃらくが気の抜けた
「さて、どうしてやろうか?」
更に離れた所の
「くっくっく。借りはきっちり返させて貰うぜ? ガマ
すると、広場の前方が再び騒がしくなる。よく聞くと、女子どもの悲鳴まで聞こえる。
「なんだァ? ウンケイ見えるか?」
しゃらくがウンケイに尋ねる。群衆の中で頭一つ抜けたウンケイは、前方をじっと見つめている。
「あぁ。・・・町人の男女に子ども、合わせて十人くらいが
「何ィ!?」
しゃらくがウンケイの言葉を聞き、慌ててウンケイの肩によじ登る。既に肩にいたブンブクは、登ってきたしゃらくの頭の上に飛び乗る。そしてウンケイの肩に乗ったしゃらくは、前方を見て目を見開く。そこにいたのはウンケイの言った通り、町人とみられる男女と子どもの十人程が縄で体を縛られ、目隠しをされた状態で、横に並んで座らされている。
「何だありゃア!?」
しゃらくが目の前の光景に、鼻息を荒くする。
「・・・嫌な予感がするな。何する気だ?」
しゃらくとブンブクを肩に乗せたウンケイが、目を顰める。すると前方の、縄で縛られた町人達の前に、カゲ
「
カゲ
「!!?」
ドスッ!! カゲ
「今の言葉を龍神に伝えろ。早くしないと、こいつらの命はないと思え」
カゲ
「さっさと行け」
カゲ
「あの野郎ォ・・・!!」
声を震わせるしゃらくを肩車するウンケイは、冷静に様子を見据えている。
「この距離と人の多さじゃあ、すぐ向こうには行けねぇ。あんなイカれ野郎の事だ。ここで暴れてる内に、町人を手に掛ける
「くっ・・・!!」
一方城下町では、何やら不穏な空気を感じてか、町人達が外に出て、城の方を見ている。すると城の方から、一人の女が
「どうした!? 城で何か起きてるのか!?」
町人達が女に駆け寄り、事情を聴こうとする。女は息を切らしながら、周囲を見回す。
「ハァハァ! りゅ、龍神様はどこに!? 早くしないと・・・! 皆が・・・!!」
女の言葉に町人達が顔を見合わせる。
「落ち着きなさい! 一体何があった!? 龍神様ならこの前の一件以降、どこにいるか分からねぇ! お前も
町人の男が女の肩を掴む。女は涙を流しながら、男に掴みかかる。
「は、早くしないと! 皆殺される!!」
城の広場で、人質となった町人達の後ろではアドウと、カゲ
「ごめんウンケイ! やっぱ放っとけねェ!」
しゃらくがそう言うと、しゃらくの体に赤い模様が浮かび上がる。
「・・・仕方ねぇよな」
ウンケイが微笑む。そしてウンケイは
「何騒いでやがる?」
「おれが龍神だァァァ!!!」
完