三年前2
俺はカルミアの復讐計画に乗った。
店を閉め、俺たちは向かい合って席に着いた。
狭い店内で彼女の壮大な計画を聞かされた。
彼女の計画はこういうものだった。
妹であるホオズキが参加する晩餐会に潜入する。
そして俺がホオズキを上手いこと誘い出し、会場から離れる。
そこで待機していたカルミアにホオズキを会わせるというものだ。
「そのためには、まず招待状を用意しなければならないと思うけど、それはどうするの?」
俺が訊くと、カルミアは
「招待状は、他の参加者のものを頂戴することになるわ」
と答えた。
「それはつまり……」
俺が余程不安な顔をしていたのか、カルミアは表情を緩めて
「あまり手荒な真似はしないわ。ちょっと眠ってもらうだけよ」
と言って、荷物からおもちゃの銃を取り出した。
「色々調べて、考えた。そして結局麻酔銃で眠らせることにしたの」
彼女はおもちゃの銃を俺に向けて、バンッと言った。
「麻酔銃」
俺が言葉の響きを確かめるように繰り返すと、カルミアは頷いた。
「眠り草の成分を抽出したものを針に塗って、それを対象に打ち込むの」
「な、なるほど」
淡々と説明するカルミアが少し怖く見えた。
「重要なお客様は執事が顔を憶えていたりするんだけど、そうでない人なら招待状さえ見せれば多分通してくれるはずよ。だからあんまり地位の高くなさそうな人を狙うわ」
「すごいな。本当に色々考えているんだね」
「……あの日、家を追い出されたあの日から私はずっと復讐のことを考えて生きてきたから」
カルミアの儚い微笑みを見ていると、こちらまで心が痛むようだった。
「あのさ」
訊くべきか悩んだが、訊かなければきっと後悔すると思い、俺は思い切って質問した。
「復讐を遂げた後、カルミアさんはどうするつもりなの?」
「……」
カルミアは黙って微笑むだけで、答えてはくれなかった。
俺は急激に不安になり、縋るように言った。
「頼むから、妙なことは考えないでくれよ」
「妙なことって?」
カルミアは白々しく首を傾げる。
「だから、その……自分で自分の人生を終わらせるような真似は絶対にしないでくれってことだよ」
カルミアはやっぱり微笑みながら
「優しいのね」
と呟いた。
俺はますます不安になった。
もはや彼女の心は復讐を考えることでしか平穏を保てない状態にあるのだろう。
しかしだとするなら、その復讐を終えた彼女は、心の拠り所を失った彼女は一体どうすればいいのだろう。
復讐すればあらゆることから解放されて心が晴れる、なんてそんなわけがない。
きっとすべてを成し遂げた彼女は途方もない虚無感に苛まれるだろう。
……もしそうなってしまった時は、俺が支えよう。
復讐計画に協力する以上、計画後の彼女のサポートまでするのが俺の義務のように思えた。
今まで俺の日常にささやかな幸せを運んでくれていた彼女に対する、俺なりの恩返しだ。
細かい計画のすり合わせをしながら、俺はそんなことを勝手に決意していた。