291 マナト、賢者モード②
「……あれ?そういえば、さっきから、ボウガン……」
いつの間にか、ボウガンの矢が飛んできていないことに、マナトは気づいた。
「敵は、どうしたんだ?」
マナトはボウガンを放っていた盗賊達のいたほうを見た。
「あぁ~、なるほどあれは……あはは」
マナトは見えた光景に、思わず苦笑してしまった。
「う、うわぁ~!」
「そりゃ、そりゃそりゃ~!」
マナトの場所からは少し遠いところ。先までボウガンを放っていた盗賊数人を、リートが身体に炎を纏って、拾ったボウガンの矢をブンブンと振り回しながら、追いかけ回していた。
――チリチリ……。
逃げ惑う盗賊達の服に、煙があがっている。
「あち!あちち!!」
「ほれ、ほれ~!」
もはや、遊んでいるようにしか見えない。どちらにしろ、リートは、相変わらずの強さを見せつけていた。
おそらくキャラバンの村で、最強は誰かと聞かれたら、実際にマナトが見た限りでは、リートだ。その炎を操る力、あらゆるものを引火させる力が、純粋に強い。
……リートさんは、ミトやラクトとかと同じ、ホモ=バトレアンフォーシスなのだろうか?
少し、マナトは考えた。リートは赤い瞳が、何よりも特徴的だ。
……いや、ちょっと、違うかな。瞳の色とかで判断するのは、ナンセンスだ。
ミトとラクトをホモ=バトレアンフォーシスと判断したのは、瞳の色や、肌の色が違うから、ということではなかった。
それに、ホモ=サピエンスのカテゴリ内ですら、白人とか黄色人種とか言ったように、肌の白い者もいれば、そうでない者もいる。また、瞳の青い者もいれば、茶色い者もいる。
やはり判断するべきは、肌や瞳の色などの違いではなく、デタラメな身体能力などといった、そういった何かが、決定的に違っているかどうかだ。
……とはいえリートさんも……いや?
この時、マナトは思った。リートは、ホモ=サピエンスでも、ホモ=バトレアンフォーシスでもないのではないか、と。
もしかしたら、このヤスリブには、ホモ=サピエンスとは違う、マナトが知らないような人類が、たくさん、生存しているのかもしれない、と。例えば、耳が長い人種とか……。
――ギィン!!
「くっそぉ!!」
途中から完全に賢者モードに入っていたマナトは、ケントの大剣の音と、盗賊の頭のうなる声で我に帰った。
ケントが大剣で、応戦していた盗賊の頭の長剣の刃を叩き割っていた。
ちなみにケントの身体は、筋肉隆々だ。だが逆に、だからこそ素早く動けるし、大剣も扱える力を手に入れている。潜在的というよりは、後天的な身体能力。
そういう意味では、ケントは意外と、マナト寄りの人種なのかもしれない。
ミトもラクトも、マナトとほとんど同じ体型で、あの強さなのだ。
どちらにしても、ケントと盗賊の頭の、タイマン勝負の決着はついていた。
盗賊の頭が、刃のなくなった長剣を投げ捨てた。
そして、両ひざをつく。
「……殺せ」
絞り出すように、盗賊の頭がケントへ言った。
「……命が、惜しくないのか?」
「どのみち、盗賊へと成り下がった時点から、俺はもう、死んでいた」