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ミ?「おーい、起きろ~。朝から寝てばっかりじゃダメだぞ」
…そんなことわかってるっての。
摩「今起きるから…っては!?!?!?!?!?!?」
摩「なんか昨日と性格違くない?そんな荒っぽい口調じゃなかったでしょ」
ミ?「そんな細けぇこたぁどうでもいいだろ。さあさっさと着替えて朝の支度しろ」
摩「いやいや全然細かいことじゃないから。いやむしろかなり重要なことだから!!」
ミ?「だーかーらー、朝の支度しろっつってんだろ」
摩「見事に無視!いいよそっちがその気なら。私もあんたのことなんか無視して二度寝してやるから」
私はなんだか目の前のこいつに負けたくなくて、布団の中で二度寝しようと頑張りながら考えた。いつもなら目の前のこいつ(普段はこいつなんて思ったことはない、頼れる親友って感じだったのに)は、精霊がモチーフの自分にとって最適なパートナーAIのはず。いつもはミルって呼んでるけど、どう考えても中身が似ても似つかなすぎて、ミルとは呼べない。性格の設定にエラーやバグでも起きたのか?私の大好きなミルはどこいった?帰ってきておくれ〜。
ミ?「おい、二度寝すんな。どうせもう起きてんだろ?なら素直に起きて、支度しろ。」
摩「…」
ミ?「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…(30分)」
摩「だーもう分かったから!!起きればいいんでしょ、起きれば!」
ミ?「仕度」
摩「あーハイハイ、仕度ですね。仕度ぐらい言われなくてもしますよ」
言うこと聞いとかないとまた耳元で念仏を唱えられる。あれ、地味にくるからイヤだ。
…………………………
ふう、とりあえず一通り朝の支度は終わらせたぞ。あいつのことについて考えるか。
今朝のミルの性格破綻は何だ?調べてみたけどウイルスじゃなさそうだし、やっぱり何かの不具合か?取り敢えず政府に問い合わせでもしておくか。
OSと機種と型番とバージョン、症状を記載して送信…っと。
精「政府に問い合わせでもしてるみたいだが、俺はそんなことしても元にもどらねぇぞ。」
あ、ばれた。
でも、ミルにはそんなことまで分かるようには設定していないはずなんだがな。なぜ?まるで自分の行動を監視されでもしてるみたいだ。…やっぱりウイルスか?でも、そんな挙動見せてないしな…うーん困った。いやでも冷静に考えろよ?ウイルスだとして、普通なら自分の前に分かりやすくパネルを出して『お前の精霊を元に戻してほしければ今から24時間以内に100万円振り込め』とかそういうメッセージを入れるはずだ。普通の個人情報を抜き取るタイプのウイルスならわざわざこんな目立つことをする意味はないしな。それとも、愉快犯?いやいや、イマドキ愉快犯なんてありえないだろ…
じゃあ、一体何なんだ?
摩「ねぇ、なんでそんな性格になっちゃったの?いや、あんたに聞いてもわかんないか」
ミ?「何でなんだろな〜」
摩「他人事みたいに。なんかあんたの態度絶妙にムカつくわ」
摩「そもそも、何でさっき元に戻らないって言い切ったのさ。理由教えてよ」
ミ?「そんなことは自分で考えろ」
摩「分かんないから聞いてるんじゃん」
ミ?「それはお前の都合だろ」
摩「……質問には答えるのがあんたの仕事でしょ」
ミ?「黙秘」
摩「あんたに黙秘権なんてないんだけど」
ミ?「おいおい、AIだからって手厳しすぎるんじゃしやせんか?AI差別だぞ」
摩「自我を持たないAIに差別も何もあるもんか」
ミ?「ふーん、AIいじめるタイプなんだな、お前」
摩「ミルにはこんな事言わないよ。あんたがムカつくこと言うからでしょ。」
ミ?「へーへー、そうですか。俺はミルじゃないって言いたいわけ?」
摩「当たり前じゃん」
ミ?「じゃあ、俺は誰なんだよ?」
摩「あんたなんて知りません。」
ミ?「ふーん、あっそ。」
なんかこいつに主導権を握られているのが癪だ。私は少しムキになって言った。
摩「何その反応。最初から自分のこと全然教える気ないでしょ」
ミ?「隠してるつもりもないがな」
摩「なら教えてよ。なんで元に戻らないって言い切れるの?言い方からして自分の性格が変わっていることも知っていそうだし」
ミ?「だから自分で考えろって言っただろ」
摩「はいはい、あんたならそう言うと思ってましたよーだ」
ミ?「俺は自分で見つける過程にこそ意味があると思ってるんだよ」
摩「言ってろ。どうせ教えてくれないのわかってるから自分で考えますー」
ミ?「あっそ。ま、せいぜい頑張れや」
さて、こいつの正体だが、ネットで調べまくったところ精霊の性格がまるっきり変わってしまうバグというのは、それらしいものがヒットしなかった以上存在しないらしい。ウイルスについても同様ではあるが、実際精霊をウイルスで乗っ取って個人情報を抜き出すという事例は存在しているようである。普通性格までは変えない…のだろう、書かれていない以上。政府への問い合わせの返信はまだ来ない。まだ30分しか経っていないもんな。そりゃ来るわけ無いか。だが、おおよその見当はついた。こいつの正体はウイルスによって性格を変えられてしまった精霊だろう。いや、本当に変えられてしまったのか?今目の前で話しているこいつが、犯人そのものであるという可能性は?私だったらうっかりボロを出してしまいそうだからそんなことはしないが、技術的には可能…だよな。最もその場合、精霊の顔だし、声も本物ではないだろうが。 ただ、ウイルスによって性格を変えられてしまった精霊なのか、ウイルスによって精霊を乗っ取り、声を変えて精霊の顔を借りた犯人なのかが分からない。AIと人間の区別がつかない以上どうしてもそうなってしまう。もちろん、なぜ性格まで変えたのかまでは相変わらず謎である。こんな堂々とした、回りくどいやり方で情報を抜き取るつもりはないだろう。ないとは思っていたが愉快犯の可能性が濃厚になってきた。まあ、ウイルスなら話は早い。ネットを切ってしまえばよいのだ。どうにもまごついてしまったが、ウイルスの可能性を考えたときにさっさと切っておけばよかった。
ブチッ
切れ…てない!?!?!?どういうことだ。たしかに押したよな?WiFiのボタン…
ミ?「そりゃ、俺が切れないようにしたからな。ちなみに、お前の思考、行動、感情、記憶、ぜ~んぶ筒抜けだから、何しようとしても無駄だ」
こ…怖すぎる。こいつもはや、自分がウイルスによるものだと隠しもしなくなったな。それも、私がこいつをウイルスによるものだと確信したからか?一応アプリを終了させようと試みたが、やはりだめだった。あと聞くことは残り1つだ。
摩「じゃあ、あんたはウイルスによって乗っ取られたAI?それとも、犯人そのもの?」
ミ?「さあな」
……こいつに聞いても無駄か。
私がこいつのことをAIか犯人そのものか判断できない以上教えるつもりはないのだろう。こいつのこの教えないという態度からしてただ性格をいじられただけのAIだとは考えにくい。例えAIだとしてもおそらくAIに命令できるのが犯人に書き換えられている。いずれにしろ私の言うことを全く聞かないから精霊は犯人側の手に落ちている。ここまでの言動を考えたらどうも犯人そのもののような気がするがそう見えるように振る舞えと命令しているだけかもしれないから確信はできない。
どれだけ考えてもAIか人間かなんて分かるはずないのだから一旦考えるのはやめだ。
摩「とりあえずミルじゃないってことは認めるの?」
ミ?「お前がそう思うならそういうことにしろ」
摩「なんか煮えきらないな…まあいいや、あんたのことはカイルって呼ぶことにするから」
カ「へいへい、勝手にしろ」
私はこれまでのことにあまりに疲れてしまったので、眼の前の現実から逃げるべく電子マンガを読もうとしたのだが………………………見れない、どう頑張っても見れない!!!!!!
へぇ、特定のネットを遮断することもできるんだ、こいつ。さっき、こいつのことを調べるときは大丈夫だったのに。
摩「これ、あんたの仕業なんでしょ。さっさと見れるようにしてよ」
カ「そんなこと言って、俺が言う事聞くと思うか?」
摩「でしょうね」
摩「じゃあ、何をすればいいのさ。せっかく気を紛らわそうと思ったのに」
カ「じゃあ聞くけど、お前は本当にそれで気が紛れるのか?本当に紛れるなら見せてやってもいいが」
摩「紛れるに決まってるでしょ。大体、気を紛らわす羽目になったの、あんたのせいなんだからね!!」
カ「いいや、紛れないね。お前は現実逃避をしようとしてるだけだろ?」
摩「まあ、それはそうだけどさ。何?私が現実逃避してちゃいけない理由でもあるわけ?」
カ「……お前、本当は分かってるんじゃないのか?電子マンガを読んで後々どうなるか。でも今自分の置かれた状況についてもう何も考えたくないんだろ?だから、別のことをして気を紛らわそうとするんだ。違うか?」
摩「そうだよ。その上で、言ってるの」
カ「……そうか。ま、そこの本でも朗読しろ」
摩「何ナチュラルに私に命令してんのさ。ん…なになに?『水船』またかなり硬派なタイトルだね。…分かってるだろうけど、朗読なんてしないよ?」
カ「それならそれでいいけど、電子マンガ読めないままだぜ?それでもいいのか?」
摩「いいよ別に。動画見るからー…ってこれも見れないのかよ」
カ「当たり前だろ。お前が現実逃避しそうなやつは全部把握してる。もちろんげーむもできないぜ」
摩「あー、はいはい。朗読すればいいんでしょ、すれば!!みずぶねだっけ?何分朗読すればいいの?こんなに分厚い本全部朗読するとか無理なんだけど。」
カ「10分」
摩「案外そこは良心的なのね…」
ーーー10分後ーーー
摩「ふーやーーっと終わったぁあああーーーーーー!!!!!!」

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