18.魔王アマディアスさんのいぬかき教室
明日からどうするか、何て思いながらリルを見ていた俺。ふとここで、露天風呂での出来事を思い出し。マッサージをしながらだったけれど。リルに湖での、アマディアスさんに泳ぎの練習を見てもらった時の事を、聞いてみる事にした。
ついでに師匠にも、リルの泳ぎが速くなったことも報告しないと。師匠はリルを息子みたいに可愛がっているからな。泳ぎが上手くなったって聞いたら喜ぶはずだ。
『そういえば師匠、リルは泳ぐのが前よりも速くなったんですよ。な、リル』
『うん!! バシャバシャッ!! って速くなった!!』
「そうかそうか!! 速くなったかの!! では今度わしにも見せてくれるかの」
『うん!!』
「そうじゃのう、今度皆で、ご飯を持って湖に出かけよう、その時に見せてくれるかの」
『おでかけ?』
「そうじゃよ、皆でお出かけじゃ」
『わ~い!! おでかけ!!』
『良かったなリル。ところでリル、いぬかきの事なんだけど。アマディアスさんに教えてもらったんだよな。その時のことを詳しく教えてくれるか?』
『うん!』
そうして詳しく話しを聞けばこうだった。1匹で練習して、俺を驚かせようと思っていたリル。その日は俺が仕事をしているうちに、湖で練習していたと。
すると練習を始めてから少しして、爆発音が聞こえ。この森では爆発音なんて珍しくないし、危険を感じなかったから、そのまま練習を続けていたって。
その爆発音から少し経つと、爆発があった方角から鼻歌が聞こえてきて。その鼻歌は自分のいる湖の方へ。匂いでそれが誰だか分かったリルは、一旦練習を止め、その人が来るのを待つ事に。
そしてまた少しすると、人間を両手に掴んで、片方の人間はブンブン振り回し、もう片方の人間は、そこら辺の木にバシバシぶつけながら引きずりながら。鼻歌を歌っているアマディアスさんと。
他にも人間達をそれぞれ引きずったり、その辺にぶつけたりしながら、アマディアスさんの部下達が歩いて来たと。
1ヶ月前の、人間達がこの森にちょっかいを出してきた時だろう。確か前回はアマディアスさん達が人間をかたずけてくれたから。
「おや、リル。どうしました? スケは確か今日仕事でしたよね。1匹でここに?」
『うん!! リルねぇ、1匹でいぬかきの練習してるの! それで上手にいぬかきできるようになって、スッケーパパにビックリさせるの!!』
そう説明したリル。するとアマディアスさんが、自分が教えてくれると。そして上手になって、ただのビックリではなく、とってもビックリさせましょう。そう言ってくれたらしく。
今までブンブン振り回していた人間をその辺に放って、もう1人もその辺に投げ飛ばし。投げ飛ばした人間は部下に任せ、部下を先に帰したアマディアスさん。
ちなみに、森を襲ってきた人間達だけど、丁寧に送り返したって言っていた。まぁ、ここに置いておくのも迷惑だし、片付けは自分達でしてもらわないと。
そうしてそれからは、とっても丁寧にいぬかきを教えてくれたって。自分も湖に入りながら。手の角度はこうとか、足で水をかいた時に、しっかりと足をこう伸ばすとか。
顔の位置はこうで、とりあえず息継ぎは後で練習すれば良いから、今はしっかりと顔を出したままにする。
それぞれしっかり練習できるように、手を支えてくれたら、足の練習。足を支えてくれたら、手の練習。
それからいぬかきと並行して泳いでくれて、それはもう丁寧に丁寧に教えてくれたって。
『あのねぇ、アマディアスおじさん、泳いでる時とっても格好良かったよ。それに、濡れたまま、立ってる姿も格好良かった!! 僕、格好いいアマディアスおじさん大好き!! 僕もいつか、アマディアスおじさんみたいに格好よくなるんだ!!』
……親が親だからな、フェーンに似なければ良いけど。
『……うん、リル、教えてもらえて良かったな』
「はははははっ!! 魔王がいぬかきの先生とは。世界から恐れられている魔王とは思えんな。まぁ、元々あやつは子供好きじゃからな。子供の世話は慣れとるから、リルにも教えられたんじゃろう。それにしても魔王がいぬかきか、くくくっ」
まさかそんな丁寧に、教えてもらっているとは思わなかった。完璧水泳スクールの先生じゃないか。これはしっかりお礼をしないと。
それにしても、格好いいか。アマディアスさんはイケメンだからな。魔族は歳をとるのが遅いから、おじさんって言っても20代に見えるんだよ。それでイケメンだろう?
もしもアマディアスさんが地球にいたら、モデルとかアイドルになれたんじゃないかな? それで写真集なんか出したら、かなり売れるんじゃないだろうか。
写真集、写真か……。今度アマディアスさんに頼んで、人物画を描かせてもらって、お土産屋さんに置かせてもらおうかな? もしかしたらかなり売れるんじゃ?
「今度のリルの泳ぎが楽しみじゃな」
『リル、頑張る!!』
リルがその場でいぬかきのマネを始めた。
『師匠、どうでしょう? 方と腕の疲れは取れましたか?』
一通りのマッサージを終え体を調べると、オレンジの部分は消えたから、大丈夫だと思うけれど。
「おお、軽くなったぞ!! 世話になったの。これで明日からまたモグー叩きができる」
……本当、どれだけハマっているのか。もしかして明日も来るかもしれないな。と、そんなことを考えながら。
リルがまだご飯が足りないと言っていたから、師匠の分と一緒に、イノシシ似の魔獣、イノーのお肉のハンバーグを作り。みんなで一緒にご飯を食べた。もちろん俺はご飯石だぞ。
そして師匠を見送った後はすぐに、各所に連絡を取った。するとノーマン達、ジェラルドさんの仲間達にも、ケシーさんの情報はいっていて。絶対に近づけさせません!! と力強い言葉をもらったよ。必要ならば、明日は施設には近づけませんとも。
他の人達も警戒態勢を取ります!! と、見回りの強化もしてくれることに。見回りの強化……。この森に敵対している者達が攻撃してきた時も、ささっと排除した後は、一応見回りをするけれど。
勿論その時だってしっかりと見回りをするぞ。だけど今返ってきた反応は、敵の見回りの時よりも、かなりピリピリしていて。
どれだけ敵よりもジェラルドさんとケシーさんのやらかしの方が、みんなには問題なのかと、思わず笑いそうになった。が、本当の面倒な問題ばかり起こしてくれるからな。みんなの気持ちも分かる。
こうして各所に連絡を済ませた俺は、少しだけリルと遊んだ後。リルはそのまま眠りについて。俺は自分の仕事をしてから就寝した。が、まさか問題がこうも早く起こるとは、この時の俺は思ってもいなかったんだ。
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『あら? どうして誰もいないのかしら? 今の時間なら、というかいつもここには誰かがいるはずなのだけれど。もう、せっかくみんなで飲み会をしようと思って持ってきたのに。まぁ、そのうち来るわよね。それまで、そうね……。ちょうど良いからここへ出してしまいましょう』
ドササササササッ!! バシャシャシャシャシャシャッ!! ドンッ!! ドンッ!! バンッ!!
『ふぅ、これで全部かしら。今回は食べる方も飲む方も大量だったから、きっとみんな喜んでくれるわよね。みんなと飲むのが楽しみだわ!! ………先に飲んで待ってようかしら。せっかく準備も終わった事だし。そうよ、さっきも思っていたけど、すぐにみんな来るでしょう。だから私が先に飲んでいても問題はないわ』
コトッ、カタッ、トクトクトクッ、ゴクゴクゴクッ!!
『はぁー!! 美味しい。本当にあそこのお酒は美味しいわ。美味しいお酒に美味しい食べ物、本当の最高だわ!! よし、もう1杯!!』
トクトクトク……、ゴクゴクゴクッ!!